23年度に建築内容具体化 雪解け後、土地造成へ
食品メーカーの久原本家グループ(福岡県久山町猪野1442、河邉哲司社長)は、ニセコ町有島地区で商業施設の新築を計画している。雪解け後、土地造成に着工する予定。建築は基本設計中で、2023年度に内容の具体的な検討を進める。町内では知名度の高い国内食品・飲料系企業の進出が相次ぎ、地元農産物と結び付いた商品開発や観光客の受け入れ施設を展開。パウダースノーを強みに成長し続けるニセコエリアを、一段と発展させる可能性を秘める。(小樽支社・塚本 遼平記者)
久原本家グループによる商業施設の建設予定地は有島29の4。有島記念館の800m北側に位置し、17年から19年にかけ約5haを取得した。22年には敷地内で温泉掘削を完了している。
土地造成は牧野工業(本社・ニセコ)が担当する。
グループ会社の久原本家北海道は「商業施設の建設計画は事実だが、建物の規模や着工時期など詳細は話せる段階にない」(広報担当者)としている。
■ニセコが持つ発信力
近年、道外に本拠を置く食品・飲料系企業がニセコエリアに進出、開発を目指すケースが続いている。特にニセコ町内は顕著で、茶類販売大手ルピシアは19年に羊蹄地区の16・5haを取得。20年には本社所在地を町内に移転し、地ビール工場を稼働させた。2月には新本社棟が完成し、今後も農産物の生産ほ場や従業員用社宅整備を予定するなど開発を続ける。
新潟県の地酒「八海山」を製造する八海醸造は、19年に子会社のニセコ蒸溜所を設立後、ニセコ地区に蒸留所と貯蔵施設をオープン。曽我地区では6月にも流通倉庫・貯蔵施設新築に着工するほか、早ければ24年に店舗棟を建設する。
進出の背景には、豊かな自然環境に恵まれている点だけでなく、「ニセコ」が持つ地域ブランドや海外に向けた発信力への期待がある。八海醸造の海津博之専務によると、既に蒸留所が一部の海外観光客向けツアーの目的地として組み込まれているという。「国内外の富裕層を中心に、酒類だけでなく高価格帯の伝統製品を買い求めるケースも少なくない」と手応えを口にする。
■地元経済に強く貢献
これらの企業進出は、観光目的地としてのコンテンツを多様化させるだけでなく、地域での経済循環にも資する。山本契太副町長は、「地元食材を使った商品開発を常に心掛けてくれている。経済的な貢献度は高い」と話す。
北海商科大の池ノ上真一教授(観光学)は、今後の展望について「エリアを軸に製造、流通、販売、リサイクルに至る循環が構築できれば、高付加価値化や持続可能な供給体制の実現が期待できる」と説明する。
■住環境や物流で課題
一方、事業の長期継続にはハードルも多い。池ノ上教授は、人手や従業員向け住宅の不足、全体的な低価格志向による利益率の低さに加え、「生産物を輸出できるが、帰りの荷台に載せるものがない」と物流面の課題を挙げる。高等教育機関と連携した長期インターンシップや新幹線、バスの貨客混載を含め「革新的な考え方や方法が必要」と指摘する。
パウダースノーを求めるスキー客でにぎわい、外資系を中心に宿泊施設の建設が絶えないニセコエリア。「食」という新たな産業が、訪問客層の裾野を広げるとともに地域経済の活性化を促進しようとしている。
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