無縁だった宇宙産業への「挑戦」 釧路製作所の羽刕洋社長

2023年03月27日 08時00分

何事も待たずに、自らつかみに行くべき

 宇宙とは無縁だった日本最東の橋梁メーカーが、ロケット部品製造に挑んでいる。釧路市に本社を置く釧路製作所は、2022年5月に5面加工が可能な門型マシニングセンタを導入し、航空宇宙産業へ本格参入した。根本には、釧路経済の発展を願う羽刕洋社長の思いがある。石炭鉱業や紙・パルプなど基幹産業が衰退し、市内の人口は減少の一途をたどる。羽刕社長は「挑戦」の重要性を提唱。宇宙が秘める可能性を信じ、釧路経済発展への貢献を目指す。(帯広支社・草野健太郎記者)

 宇宙産業参入のきっかけは、技術グループに所属する若手社員の提案だった。18年3月、大樹町にあるインターステラテクノロジズ(IST)を訪問し、同11月には縦吹燃焼実験架台を納品。釧路市と大樹町の距離感を生かし、短納期の製作・現地設置を実現した。羽刕社長は「橋梁製作で培った技術が生きた」と振り返る。

羽刕洋社長

 挑戦の背景には、逆風が続く外部環境があった。少子高齢化に加え、若者の製造・建設業離れなど課題は山積する。釧路市内では、基幹産業だった石炭鉱業や紙・パルプ産業が衰退。人口減少に歯止めがかからない現状だ。

 加えて、社会状況の変化も大きな要因だった。IoTやAIの急速な発展や新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークなどが普及。急速かつ急激に取り巻く環境が変わった。

 宇宙産業への挑戦は、現状打破につながると考えた。市場規模は40年に110兆円へと拡大する見通しで、強靱な経営基盤構築の一手となる可能性を秘める。将来的には雇用を生み出し、産業の維持にも貢献したい考え。羽刕社長は「率先して挑戦する姿を見せることが、われわれの使命」と訴える。

 大樹町との連携にも積極的だ。小型ロケット射場の北海道スペースポートが生み出す道内経済波及効果は、年間で267億円を見込む。羽刕社長は、宇宙産業を推進する同町の取り組みを高く評価。釧路市から車で2時間程度の距離も好都合だという。

 ロケット部品製造について、現在は供給に向け試行錯誤している段階だ。鉄を扱うプロとは言え、一筋縄ではいかない。訓練を重ね、技術力を磨き上げる。

 参入したことで、新たな出会いがあり、つながりが生まれるなど、すでに挑戦の効果は出始めている。「それも全て挑戦したからだ。何事も待っていないで、自らつかみに行くべき」と強調する。

 壮大な宇宙を見上げながらも、その目はハッキリと釧路の将来を見据えている。率先して挑戦する姿勢を見せ、地域をリードする。

 羽刕洋(うしゅう・ひろし)1962年生まれ、釧路市出身。釧路江南高卒。85年に釧路製作所入社、2016年に経営企画室長、20年8月に現職。趣味はゴルフとスキー。

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