危機意識持ち事業運営を
自動車の運転免許を取得するためには、実技試験と学科試験に合格しなければなりません。試験に合格するために、自動車学校に通い、道路交通法を学び、運転技術を学び、そうやってようやく免許を得ることができます。
自動車は運転免許を取得しなければ運転してはなりません。しかし、同じように法令で定まっている全てのことについて、自分自身に課せられている決まりを知っているわけではありません。
とある飲食店を訪問した際に、労働保険の加入について話題となりました。労働保険は、アルバイト、正社員を問わず、従業員を雇用した場合には、必ず加入しなければなりません。しかし、そのオーナーは加入していませんでした。労働保険が何の補償であるのか、どのように加入するのか、今までの自分が勤務していた店舗がどのように対応していたのか、何一つご存知ではありませんでした。たとえ、かつて勤務していた店舗が労働保険に加入していたことを知っていたとしても、だから自分も加入しなければならないと気づかなければ、やはり自ら労働保険に加入することにはならないでしょう。
従業員に大やけどを負わせて病院に行き、その時に初めて労働保険の存在と加入の必要性を知ることになったかもしれません。
求人をしたら外国人が応募してきたとします。外国人の雇用については制限があるかもしれないと思えば、調べたり専門家に聞いたりすることができますが、外国人雇用に関する制限について何ら想起しなければ、日本人と同じように雇用し、そして場合によっては行政処分が下されることとなります。
この二つの例に限らず、自分で事業を運営していくために知らなければならないことは数多くあり、しかし、思い立てば誰でも事業を開始できます。自動車学校の役割を果たし、経営していくのに必要な技術と法規制を教えてくれる場所はありません。
存在を知らないことについては調べることができません。しかし知らなかったで済ませることのできないことはたくさんあります。時には事業に多大なる影響を与えることもあります。
その時に身を守ってくれるものの一つは、「ひょっとしたらこれは何かの法令が絡むのかもしれない」という危機意識です。そしてそのような危機意識を持つことは、人を雇い、事業を運営していくためには必須だと思っています。
とはいえ、全ての経営者がそのような危機意識を持つことは難しいことですし、法令を知らないことにより事業が中断するおそれがあるという課題に対して根本的な解決にはなっていません。行政書士として、この社会的課題の解決を検討していきたいところです。