情報科学との連携で調査手法に革新
5月10日は「地質の日」。1876(明治9)年に米国の物理学者ベンジャミン・スミス・ライマンらが作成した日本初の広域的な地質図(200万分の1)「日本蝦夷地質要略之図」の発刊日であることなどにちなむ。150年近く経過した現在、ライマン巡行の地である本道で人工知能(AI)を用いた地質調査の技術開発が進んでいる。
開発に取り組むのは、レアックス(本社・札幌)と北海道科学大情報工学科の和田直史准教授。同社は円すい鏡方式でボーリング孔内の360度映像を高解像度で撮影できるボアホールカメラ「BIPS」の技術を持つが、最終的に地質を判断する目は技術者の経験値に左右されてきた。BIPSで取得した映像からAIで地層のひび割れを見つけ出せないかと考え、知覚情報処理を研究する和田准教授に協力を依頼し3年前から共同研究を進めてきた。

地質調査AIの開発に協力する和田准教授
和田准教授は「地質調査にAIを使うのを聞いたことはなかったが、コンクリートや道路のひび割れを見つけるAIがあるので地層でも難しくないと思っていた」と話す。実際には複雑に岩盤が重なり合うため、ひび割れと認識すべきか判断するのが難しく、既存のひび割れ検出AIを応用してもうまくいかなかった。
しかし「学術的なハードルがあって研究対象として面白い」と探究心に火が付いた。
研究者になる以前、東芝やサムスンで映像データの圧縮などに関する研究開発に携わった。2012年ごろから注目されてきたディープラーニング(深層学習)は映像処理と強く関連し、開発分野がAIへとシフト。人間は視覚から7割以上の情報を得ているといわれるように、ロボットやコンピューターが環境を認識するためにも映像が重要という。「ひび割れかもしれないという情報を加えた画像で、人間をアシストするAIにできれば」と話す。
直面している課題は、ひび割れの形がサインカーブを描いているとコンピューターに分からせる点。カーブした亀裂の画像を大量に集め、AIが学習することでカーブの特徴をつかめるのではないかと考察する。「これはひび割れのカーブだという情報を人間が与えた方がもっと賢くなるかもしれない」と試行錯誤を重ねているところだ。亀裂のサインカーブは必ずしも関数のグラフのように滑らかな曲線を描くわけではなく、特徴をどう捉えるかが難しいという。
「人間の方が直感は優れるが、長時間の単純作業は苦手。AIと人間の役割を分担することでミスを防ぎ、効率化できる」と研究の意義を説く。人間が目視で取り組んできたことをAIに移行させることでコストや労力を抑える。

産学連携の可能性を感じる成田社長
レアックスの成田昌幸社長は「私たちができることには限界があった。外部と連携することでイノベーションを起こせる」と話し、協業がもたらす成果を感じ取る。教育機関の役目を果たす大学側にとっては学生に実践の場を提供でき、双方がメリットを得ている。
明治期は、外国という異世界からの先端的な知見が日本の地質研究技術を底上げした。現代は情報科学という異分野とノウハウを共有し、地質調査が技術革新を遂げようとしている。