上司の指示を受けて嫌々始めた蛍光管リサイクルの研究。個々を分析して性質を調べていると、ラピッドスタート型と呼ばれる瞬時点灯の蛍光管は、内側に酸化スズの導電膜が付いていて、焼き固めると独特のモザイク模様や干渉色が現れることを見いだした。

稲野さんの廃ガラス研究の原点といえる千歳市立泉沢小の環境造形
着色ガラスと二層化することで工芸品を作れるのではないかと考え、装飾タイルやアクセサリーを試作。「使用済み蛍光灯〝輝き〟再び」などと新聞やテレビから取り上げられた。
ニュースを見た環境関連の資材会社が、手掛けている公共建築のレリーフに使いたいと相談を持ち掛けてきた。千歳市立泉沢小学校の吹き抜け空間に設置された環境造形がそれで、25年余りが経過した今でも晴れた日の午後は西日が射し、幻影的な空間を演出する。
化学と工芸を融合させる研究が軌道に乗り始めた頃、同僚の米原さんの恩師・伊藤孚(まこと)教授と知り合った。日本のガラス美術教育の第一人者で、稲野さん憧れの人物でもあった。そんな伊藤教授から「多摩美で非常勤講師をやってくれないか」と誘われ、夢だった美術学校の教壇に立つ。
周囲から「博士号を取った方が良い」という勧めもあって、2017年には北大工学院の社会人博士課程に入り、20年に博士号を取得した。工業試験場に在籍しながらの二足のわらじで、学費面からも家族の理解があってスキルアップを果たした。
工業試験場をはじめ北方建築総合研究所や林産試験場など、道立の試験研究機関は10年に統合され、地方独立行政法人の北海道立総合研究機構が誕生した。エネルギー・環境・地質研究所は組織改正で20年に発足。60歳になった稲野さんは退職し、今は循環資源部の再任用で後進の育成などに努めている。
循環資源部で一緒に研究している朝倉賢さんは、道内の廃プラスチックの処理実態などを調査。資源リサイクルの分離技術とデータ解析に強みを持つ。明本靖広さんは、動電的手法による汚染土壌の修復が専門。最近は廃ガラスに電気をかけることで着色成分を取り除く研究に取り組む。稲野さんは「僕は化学と美術に強みがあったが、2人にも二刀流で活躍してほしい」とエールを送る。
長年の取り組みが評価され、所属する日本セラミックス協会から22年度協会活動有功者に選ばれた。ガラスだけでなく、電池や牛骨など、さまざまな廃棄物のリサイクル、処理方法を考えてきた。
蛍光灯からLED、ブラウン管から液晶と時代が進歩したり社会が豊かになるたびに、その役割は増す。
「最終的にその人がいらないと思うかどうかなので、世の中に廃棄物という〝もの〟はないはず。好きなガラスを他のものと一緒に埋め立ててほしくなく、いつまでも輝いていてほしい。それが仕事のモチベーション」と話している。