建設工事紛争審査会が2014年度に取り扱った紛争処理件数が過去20年余りで最少を記録した。土木工事での減少が目立っている。道内は件数が少ないため傾向を読み解くことは難しいが、法曹関係者は「係争の手段が多様化している。紛争自体が減少したわけではない」とみる。損害賠償請求は高額化し、受注者が発注者の自治体を相手取った訴訟も現われた。建設工事をめぐるトラブルは、むしろ深刻化の傾向にある。
中央審査会と都道府県審査会の14年度実績をまとめた国土交通省によると、トラブル処理の申請数は、中央が40件、都道府県が86件の計126件。前年度を19件下回り、1989年度以降で最少を記録した。最多は96年度の311件だった。
申請内容は技術的な争点が多く、和解を目指す調停が83件、審査会に判断を委ねる仲裁が27件、単純な代金未払いについて話し合いで解決するあっせんが16件だった。
工事は、建築が103件と8割以上を占め、土木が13件、設備8件など。「工事代金の争い」と「工事瑕疵(かし)」が合わせて全体の7割以上を占め、次いで「下請け代金の争い」などが続く。
北海道建設工事紛争審査会では「年間で数件程度を取り扱っている。3、4年前に10件を超えたが、全体として一桁台で増減を繰り返している。個人住宅など建築をめぐる紛争が多くを占めている」(事務局)と話す。
全国的な減少傾向について国交省は「土木が減少し、建築が横ばい。東北での震災以降、公共工事を含めて次々と工事をこなさなければならないため、紛争を後回しにし、当事者間で解決しているものもあるのでは」と、明確な理由をつかみかねている。
ただ、後回しにした紛争が今後続出する可能性は十分にあり、「単純な減少とは考えにくい」(国交省)という。建設工事をめぐる損害賠償請求は高額化の傾向にある半面、建設業者が入る任意保険商品が多く登場し、訴訟での解決も一般化している。
道内で工事紛争を手掛ける法曹関係者は「紛争案件を審査会に提訴する拘束力はなく、いきなり裁判に入ったり、他のADR(裁判外紛争解決手続)で審理するなど手段が分散化している」と経験を基に分析する。背景には弁護士の登録者数が増加し、処理方法が多様化したことがうかがえる。
道内では、施工中の突発的な事由で経費が膨らみ、不可抗力だったにもかかわらず、発注した自治体が小額の補填(ほてん)しか認めなかったため、多額の赤字解消を争点として訴訟に発展したケースがある。訴えた業者は当初、話し合いでの解決を探ったが、誠意の感じられない対応に態度を硬化させたという。
公共事業の削減以降、訴訟に発展しなくとも追加工事など設計変更にまつわるトラブルが表面化するようになってきた。受注者が、良好な関係を続ける方が有利とみる発注機関を訴訟すること自体、公共工事を取り巻く受注環境や経営環境が様変わりしていることを意味している。
一審制の紛争審査会は、月に1回程度の審理が計3回程度だが、長引けば結論が出るまでに1年余りがかかる。三審制の裁判になるとさらに長丁場が見込まれ、双方の金額的、精神的な負担は多大なものとなる。
公共工事では、4月の公共工事品質確保促進法改正に伴い、各自治体が運用指針を定めている。国交省は「適正な契約に努め、変更や追加工事に対して互いに納得していることが大切。円滑に工事を進める上で意義のある改正となることを期待している」とその効果を見守っている。