幌加内町にある旧JR沼牛駅舎再生に向け、インターネットで資金調達するクラウドファンディング(CF)が、172人の支援を集めて成立した。足寄町にある旧上利別駅の廃材を譲り受け、築87年の木造駅舎の保存に取り組む、おかえり沼牛駅実行委員会主催のプロジェクト。支援総額は目標としていた200万円を上回る239万円に達した。今月中に着工する見通しで、降雪前の秋ごろの完成とお披露目を予定している。
沼牛駅は1929年、幌加内町下幌加内で深名線の駅として開業。95年の廃線に伴い、惜しまれつつ廃駅となった。それから21年間、実行委員長を務めるソバ農家の坂本勝之さんが駅舎を守り抜いてきた。毎冬の雪下ろしをはじめ、トタンによる屋根の修繕も自ら手掛けた。その努力のおかげで、道内屈指の豪雪地帯という過酷な環境下にもかかわらず、形を保つことができたという。
しかし、築87年の木造建築には限界が近づいていた。長年雨風に耐えてきた駅舎の老朽化は確実に進み、いつ倒壊してもおかしくはない状況。本格的な修繕も視野に入れ始めた矢先、足寄町にある木造の旧上利別駅が暴風雨で損傷を受けて解体されることになる。そこで、上利別駅の部材を譲り受けて沼牛駅の修繕に活用するという、駅舎保存に向けた試みが始まった。
CFは、インターネットを通じて事業に賛同する不特定多数から資金を集める仕組み。「READYFOR」のサービスを活用して5月から8月1日まで支援を募っていた。成功の裏には、修繕を担う予定のキタクラフト(本社・下川)や、損傷状況を調査した岩本板金工業(同・幌加内)などによる技術的な支援もあった。
沼牛駅には、もう一つのエピソードがある。実行委員会のメンバーらが文献や資料を手掛かりに駅舎の施工者を探していたところ、プロジェクトを知った田中組(本社・札幌)が、施工者ではないかと名乗り出たことだ。実行委員会と情報交換しながら、あらためて社史を精査すると、1929年に駅舎建設を手掛けていた記述が見つかった。
そこで、保存活動を応援しようと50万円の寄付を決断。来週8日、阿部芳昭社長らが幌加内町を訪れ、細川雅弘町長や実行委員会に思いを託す。
当紙の記事を見てプロジェクトを知ったという和地稔常務は「この縁がなければ87年前の建造物が残っていたことも、当社で施工したことも知らないままだった。貴重な活動を支援したい」と話している。
プロジェクトリーダーを務める横山貴志さんは、CFや田中組からの支援を受けて「本当にありがたい。修繕に役立たせてもらいたい」と感謝していた。