暑さの厳しい日の夕方には、キンキンに冷えたビールをグイッと、いきたいものです。炭酸たっぷりのビールと、それを冷やす冷蔵庫は夏に不可欠という訳ですが、ビールは明治時代になって日本に入ってきましたし、電気冷蔵庫が発明普及したのも20世紀に入ってからです。昔の人は、暑さしのぎをどうしていたのでしょうか?
実は、暑さしのぎの飲み物として、「柳陰」というものが、江戸時代の町人に飲まれていました。みりんと焼酎を半々に合わせた飲み物です。本直しとも呼びます。これを徳利などに詰めて、井戸の底の冷たい水においておき、充分冷えたところで、クッーとやるのです。
古典落語の名作、「青菜」の中で、主人公の植木屋さんが、夏の日に一仕事終え、大店の主人に誘われて、柳陰を酌み交わすシーンが出てきます。そのくだりを名人が演ずると、飲みたくなって、いてもたってもいられません。
主人は柳陰を選ぶ理由も述べていて、冷酒、つまり冷やした日本酒は体に応える、柳陰は楽だというのです。なるほど、日本酒より焼酎の方が残らない。でも焼酎を冷やして飲んでも味もそっけもない。そこで甘いみりんという訳です。
みりんはアルコールが入っているから酒の味が薄まりません。口当たりの良い、スッキリとしたお酒ができます。考えてみると、これはまさにカクテルではありませんか。日本人は江戸時代にすでにカクテルをたしなんでいたのです。なんて恰好がいいことか。
カクテルは常夏の中米、カリブ海地域に広まっていることから、暑さをしのぐ冷たいカクテルがたくさんあります。最近、日本でも流行り出したモヒートや、定番のジントニック、ほろ苦いカンパリソーダなど。さわやかさを演出する柑橘類が添えられます。こう考えると、暑さしのぎの方法はビールだけじゃありませんね。
暑さしのぎのビールは、最高なのですが、二つばかり弊害があります。一つは一杯目のうまさが、二杯以降続きにくく、飽きが来ること。二つ目は、量が多いのでお腹が膨れてしまい食事がすすまなくなることです。そこで、柳陰やモヒートあたりを、最初の一杯にしてみてはいかがでしょうか?口の中がさっぱりとして、暑さで下がった食欲も回復し、食事をおいしく取れます。夏バテ対策にお勧めです。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)