コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 11

日韓シャトル外交復活

2023年05月10日 09時00分

 往年の名歌手藤圭子さんはデビュー曲『新宿の女』(石坂まさを、みずの稔作詞)で男を信じる切ない女心を情感豊かに歌い上げた。年配の方なら当時の声と姿を鮮烈に覚えているのでないか

 ▼中にこんな一節があった。「何度もあなたに 泣かされた それでもすがった すがってた まことつくせば いつの日か わかってくれると 信じてた バカだな バカだな だまされちゃって 夜が冷たい 新宿の女」。いつか分かってくれると何度もやり直したものの、結局裏切られる。泣かされるのはいつも女。今の時代にはそぐわない価値観だが、昭和にはこの手の演歌が多かった。ところがそんな古めかしい構図を最近まで引きずっていたのが韓国に対する日本の外交である

 ▼戦後処理で事実上の賠償金を言い値で支払ったのに届いていないとされ、いくら謝罪しても足りないと非難され、慰安婦問題は不可逆的に解決したと約束しても反故にされる。日本が「まこと」を尽くしても韓国はどこ吹く風だった。その風向きに少し変化が出てきたようだ。岸田首相が7日に韓国を訪問し、尹錫悦大統領と会談。両国首脳が相互訪問する「シャトル外交」が12年ぶりに復活したのである。歴史問題を完全に解決しないと未来に踏み出せないのはおかしい、というのが尹大統領の持論という

 ▼外相時代に約束を破られた苦い経験を持つ岸田首相が関係改善に積極的というのも強い覚悟があってのことに違いない。理由の一つには高まる一方の北朝鮮の脅威があるのだろう。冷たい夜はそろそろ終わりにしてもいい。


2類相当から5類へ

2023年05月09日 09時00分

 本道出身の歌人山田航さんに、思わずハッと気づかされるこんな短歌があった。「監獄と思ひをりしがシェルターであったわが生のひと日ひと日は」

 ▼外の世界との関わりを制限され、自由がないと思い込んでいたが、振り返ってよく考えると実は守られていた。そういうことでないか。特に若い頃は何かというと親に押さえつけられている気がするものである。親は子を危険から遠ざけようとしているだけなのだが。新型コロナウイルスの感染症法上の分類がきのう、「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられた。自由社会に生きるわれわれにとって、行動制限を伴う2類相当は監獄とはいわないまでもかなり窮屈だった。ただ、それも人々を守るシェルターだったのである

 ▼今後、医療費やウイルス検査は自己負担。感染予防や療養の仕方は原則、個人の判断に委ねられる。手厚く保護してくれるシェルターがなくなるとなれば、降りかかる火の粉を自分の手で払う意識も高まろう。感染症の大規模流行は過去にもあったが、グローバル化が世界を覆った中でのパンデミックは人類初の経験だった。対策の常識が通じない。このコロナ禍は暗闇の中を手探りで歩いていたようなものだ

 ▼済んだことを嘆いてばかりもいられない。米国のコロナとの戦いを描いた『最悪の予感』(早川書房)にあったある研究者の言葉を思いだす。「今回、わたしたちは対応のまずさが身に染みた。しかし、おかげで、次に向けて備え始めることができる」。5類移行も終わりでなく、始まりだろう。


道の駅サーモンパーク千歳

2023年05月08日 09時00分

 これほど成功が目立つ国土交通省の事業も珍しいのではないか。「道の駅」の話である。今やすっかりおなじみ。ドライブには欠かせない施設となった

 ▼ちょっとした休憩やトイレに立ち寄るばかりでなく、道の駅そのものを目的に出かける人も多い。各地を巡るスタンプラリーも相変わらず人気である。地域の特産品を置いていたり、地場産食材を使ったおいしい食事を提供していたり。魅力のある道の駅が増えた。コロナ禍明けでもあり、春の大型連休(GW)はどの道の駅も大にぎわいだったようだ。なのに、この一番の書き入れ時に休んでいる施設があった。当方もGWに近場でドライブを楽しんだのだが、「サーモンパーク千歳」へ行ったところ閉まっていたのである

 ▼見ると9月の再開を目指し改装中との張り紙があった。居合わせた人は皆、がっかり。指定管理者の交代がうまくいかず、テナントともめているのは聞いていたものの、まさか観光シーズンをみすみす逃すまでの事態になっていたとは。指定管理者は4月1日の交代が決まっていた。ところが前の管理者とテナントの間で退去に関する意思疎通が適切にできておらず、テナントは続けられると考えていたらしい。ひのき舞台に店を出す覚悟をし、設備投資もしていたのだから気持ちは分かる

 ▼官の苦手な営利やサービスに民のノウハウを活用する指定管理者制度は有用で、時に交代があるのもやむを得ない。ただ方針が変わるためトラブルになる例もままある。道の駅は地域の顔となる施設。自治体がもう少し交通整理をしてもいい。


フィッシング詐欺

2023年05月02日 09時00分

 つい先日の話である。郵便局のゆうパックで荷物を送った次の日、スマホのショートメールにこんな連絡が来た。「荷物は倉庫に到着しましたが、住所の詳細が不完全なため配送できません」。見ると早急に確認してほしいと、WebサイトのURLも記されている。発信者を見ると「日本郵便輸送」だ

 ▼〝しまった、教えられた住所に不備があったのかも〟と、サイトにアクセスしようとしたところで手が止まった。怪しいと気が付いたのである。よく考えると文面は一見丁寧なようだが内容が薄い。そこで日本郵便の正式サイトを開いてみると、メールに記されていた「.com」で終わるURLは使用していないとのこと。不審メールに注意を促していた。やはり詐欺だったらしい

 ▼最近、宅配業者や金融機関などになりすまし、偽サイトに誘導して個人情報を抜き取る「フィッシング詐欺」が増えているという。ショートメールを使う手口が多いようだ。まんまとだまされるところだった。危ない、危ない。警察庁によると「ネット銀行」を装った詐欺だけで、ことし2月に111件、3月に381件の被害が出ている。4月も14日までで120件に達し、去年4月の1カ月分22件を大きく上回っている。全体ではどれほどの数になるのか

 ▼自分は引っ掛からないと思っている人がほとんどだろう。当方もそうだった。ただ今回のように絶妙の頃合いで来ると判断力も鈍る。敵は「数打ちゃ当たる」の楽な仕事だ。世知辛い世の中だがメールなどはまず疑ってかかるのが昨今必要な作法なのかもしれない。


2070年の人口推計

2023年05月01日 09時00分

 移民を多く受け入れてきたフランスの人だけに、歴史家で人類学者のエマニュエル・トッド氏は各国の移民事情にも造詣が深い。日本人が移民を拒みがちなのは特殊な問題のせいだと考えているそうだ

 ▼「それは日本人が人種差別主義者だというのではなくて、日本人なりの暮らし方があるせいだと思います。ただ、それはそれでもっと深刻な問題でもあります」(『パンデミック以後』朝日新書)。具体的には何か。「極端な礼節」「他人に迷惑をかけない」といった暮らしの「技術」が暗黙の了解とされていることだとトッド氏は指摘する。フランス人はそれほど礼儀正しくないため、無礼な移民が来ても失うものはない。一方日本は基底の文化が危機にさらされるのだから、拒否感が出るのも当たり前というのである

 ▼厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が先頃公表した2070年までの日本の将来人口推計に、外国人人口が総人口の1割を超えるとの試算があったのを見て、氏の懸念を思い出した。総人口が20年の1億2615万人から3割減って8700万人になるのも穏やかでないが、その1割が外国人と聞くと少々胸がざわつく。地域差があるため2割、場合によっては3割が外国人の所も出てこよう。街の風景も今とはだいぶ違うものになるはずである

 ▼社会が変化を受け入れるのに、50年はいかにも短い。総人口の2%程度しかいない現在でも数多くの混乱やあつれきが生じているのだ。経済力を維持するのに移民を奨励するのか、文化的統合を重く見て抑制するのか、実に悩ましい。


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