戦場の天使と呼ばれた英国のフローレンス・ナイチンゲールを知らない人はいないだろう。近代看護学や公衆衛生学の基礎を築いたほか、病院設計にも非凡な才能を発揮した人である
▼中でも印象深いのは19世紀中期のクリミア戦争への従軍でないか。ナイチンゲールは戦闘の傷より療養中の感染症で死亡する兵士が多いことに気付く。当時の野戦病院は衛生環境が劣悪なため、院内感染が爆発的に発生していたのだ。新型コロナウイルスの感染拡大で今最も懸念される事態の一つがこの院内感染である。日本看護協会が先週発表した「全国の院内感染の状況」(20日現在)によると、19都道府県の54施設で783人が確認されているという。本道も北海道がんセンターや札幌呼吸器科病院など数カ所で起きている
▼必要な人員も安全具も全く足りない中で、日ごと増えていく感染者に対応せざるを得なかった指定病院が戦場下のような状況に置かれたのは想像に難くない。医療に携わる方々の心労はいかばかりか。本来なら患者のとりでとなるべき病院でウイルスが広がると、逆にウイルスの供給源となるばかりか医療崩壊も招く。それを一番理解しているのは医療関係者だが、感染しても症状の出ない人がいるため侵入を止められないのが現実だ。しかも保有者に自覚がないというのだから一層たちが悪い
▼いかにナイチンゲールといえども今回の新型ウイルスには手を焼いたのでないか。この戦場でわれわれにできることがあるとすれば感染しないことである。医療者への負担を減らし難局を切り抜けたい。