コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 200

侵略者

2019年03月19日 09時00分

 私道を勝手に使われた、隣りのテレビがうるさい、庭木がわが家の敷地にまで伸びてきている―。ご近所トラブルはそんな自分の領域を侵されたことへの過剰反応から始まることが多いという

 ▼それまでは仲良く付き合ってきたのに、ある時を境にお隣さんの態度が急変する。理解し合おうとするものの相手はかたくなになるばかり。そのうち攻撃はエスカレート。敵意をむき出しにされた方はたまったものではない。移民に自分たち白人の領域を侵される―。ニュージーランド南部クライストチャーチのモスクで15日、イスラム教徒50人を殺害したオーストラリア人の男もそんな過剰な恐れを抱いていたようだ。近い将来、住む場所や地位が移民に奪われてしまうと信じていた

 ▼犯行前、移民を「侵略者」と断ずる声明をソーシャルメディアに投稿。アーダーンニュージーランド首相にも電子メールを送っていた。移民排除のため自ら立ち上がらねばならなかった理由をくだくだ説明している。身勝手極まりない。確かに欧州では移民問題が深刻の度を増しているが、ニュージーランドでは良き隣人として地域になじんでいると聞く。「世界で2番目に平和な国」(世界平和度指数2018)の称号もそれゆえだろう。なのにこの男は静かに暮らす隣人の家に押し入り、むき出しの暴力で自らの狂信を成就させようとした

 ▼古代ギリシャの哲学者アリストテレスはかつてこう教えた。「『垣根』は相手が作っているのではなく、自分が作っている」。何のことはない。容疑者こそが平和な社会を侵しているのだ。


熊谷くん

2019年03月18日 09時00分

 仕事はたくさんあるのに働く人がいない。建設業の現状だろう。高齢化のため腕のある技術者も作業員も雪崩を打って減っていくのに、若い人が入ってこないのである

 ▼道労働局がまとめた2019年3月新規高卒者の就職内定状況によると、建設業の求人充足率は20・1%にとどまっているという。5人必要なのに1人確保するのがやっと。内定率は既に92・6%に達しているから、上積みもさほど望めそうにない。全国の大卒も状況は似たようなものだ。東京五輪の会場建設などで近頃はゼネコンも脚光を浴びているかと思いきや、期待したほどでもないらしい。そんな危機感の表れか、老舗の熊谷組(東京)が斬新な取り組みで就活生にアピールしている

 ▼最近は『ゼネコンプレックス だけどやっぱり現場好き』と題する動画を公開し、ゼネコンの実情をユーモラスに描いてみせた。舞台は社員が集まる「あるあるスナック熊ごもり」。ここでは「本音はこぼしても酒と生コンはこぼさない」がモットーだ。新人シロクマ「熊谷くん」がラップで歌う。「大学同期はインスタ リア充 僕は現場で四苦八苦中」「敏感にもなる景気と連動 肌で感じる現場の振動」「打設!打設!打設!打設!」

 ▼この熊谷くん、北海道の建設会社で働く父に憧れ、おととし入社した若手がモデルという。動画は若手の意見を集約して作ったそうだ。大変だがやりがいがある、との強い思いが伝わる。「つくりたいのは建物だけじゃない そこに住む人の幸せなんだ」「舞台は地球だ爪痕残せ」。実は夢のある仕事である。


NHKをワンセグで

2019年03月15日 09時00分

 厳しい寒さから身を守る必要があるからだろう。冬は体に脂肪が付きやすい。体温維持にエネルギーを使うためついつい食べ過ぎる上、外に出るのがおっくうになって活動量も減る

 ▼「人参をくわえ肥満の雪だるま」アルバー静。道理で雪だるまがほほ笑ましく感じるわけである。体重は徐々に増えていくため日々の自覚はさほどない。ただ、春を目前にした今頃の時期には体が一回り大きくなっているという寸法だ。その状態で去年はいていたズボンに足を通してみると、出っ張った腹に邪魔されてファスナーがなかなか上がらない。無理やり閉めて歩き出すと、今度は屈んだ拍子に尻の縫い目がビリッ。「多すぎるとふたが壊れる」の例え通り、無理をするとろくなことがない

 ▼最高裁が12日、テレビを視聴できるワンセグ機能付き携帯の所有者もNHKと受信料契約を結ぶ義務があるとの決定を出したと聞き、体に合わなくなったズボンのことが思い浮かんだ。放送法も実態と合わなくなっているのでないか。放送法は受信装置の設置者に契約を義務付ける。原告は自宅にテレビを設置せず、ワンセグも視聴しないため契約義務は生じないと主張していたそうだ。最高裁はこれを退け「携帯」も「設置」に含むとした2審判決を支持したのである

 ▼「携帯」も「設置」? 納得できる人はどれくらいいるだろう。大きく様変わりした現実を古い法に押し込んでいるように見えて仕方がない。国会で議論し条文を見直すのが先でないか。皆がふに落ちない法解釈が続くと、NHKの尻もビリッと


マンモス復活?

2019年03月14日 09時00分

 昨秋完成した札幌市円山動物園の新しいゾウ舎で12日、アジアゾウの一般公開が始まった。ミャンマーから来た4頭のうちのシュテイン(27歳)とニャイン(5歳)の親子、そしてパール(15歳)である。いずれも雌だという。ニュース映像を見たが、元気に遊ぶ姿が何とも愛らしい

 ▼落ち着いた風格を漂わせていた「花子」(2011年死亡)を見て育ってきた世代の目には、あの活発さが新鮮に映ったのでないか。新たなゾウの導入に時間がかかったのはワシントン条約のためだ。絶滅危惧種の商取引が禁止され、種の存続に科学的裏付けがない限り輸入もできなくなった。そこで円山は繁殖に取り組む姿勢を明確にし、高い壁を乗り越えたのである

 ▼ゾウの繁殖といえばこちらの話も興味深い。近畿大などのチームが11日、2万8000年前のマンモスの化石から採取した細胞核の機能を、一部目覚めさせることに成功したと発表したのである。完全に絶滅したマンモスを復活させられるかもしれないという。チームはシベリアで発掘された「YUKA(ユカ)」と呼ばれるマンモスから細胞核を採取し、マウスの卵子に注入。43個のうち5個で細胞分裂直前の状態になったことを確認したそうだ

 ▼繁殖し再び世界に、と想像は膨らむがそう簡単でもないらしい。DNAの損傷が激しく、細胞の変化が途中で止まってしまうのだとか。それでも可能性を広げた意義は大きい。多くの動物を絶滅させてきた人間の使命でもあろう。もしかすると100年後の円山動物園で、元気なマンモスの姿が見られるかも。


元気のもと

2019年03月13日 09時00分

 スポーツ観戦の効用の一つに気持ちを高揚させ人を元気にすることがある。野球、サッカー、相撲、テニス―。種類は何でもいい。自分の応援するチームが勝ち、わがヒーローともいえる選手の活躍を見るのは実に爽快な経験である。誰にでも覚えがあろう

 ▼神話学者のジョーゼフ・キャンベルも対談集『神話の力』(早川書房)で、ヒーローについてこう語っていた。「いきいきとした人間が世界に生気を与える」。われわれはスポーツ選手に生気を分けてもらっているのである。最近も世界各地から日本人選手快挙の話題が相次いで届けられた。自分が頑張ったわけではないものの、やはりうれしい

 ▼まずスキージャンプの小林陵侑選手(土屋ホーム)。ノルウェーのオスロで行われたワールドカップ(W杯)で5位に入り、今季の個人総合優勝を決めた。日本男子初という。次に高木美帆選手(日体大助手)。米ユタ州でのスピードスケートW杯女子1500mで1分50秒の壁を破り、世界新記録を樹立した。もう一人はバドミントンの桃田賢斗選手(NTT東日本)。英バーミンガムで開かれた全英オープン男子シングルスで優勝。こちらも日本勢初というから素晴らしい。大会はいずれも東日本大震災8年目を迎える日の前日だった

 ▼小林選手は岩手県出身、桃田選手は香川県生まれだが福島県で中学と高校に通っている。高木選手はもちろん昨年の地震ショック冷めやらぬ本道の出身だ。皆震災と縁が深い。困難を乗り越え快挙を成し遂げた姿を見て、地元の人々もきっと新たな生気をもらったろう。


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