コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 219

検証ブラックアウト

2018年10月25日 07時00分

 それまで分からなかったことが明らかになるのは、頭の中にかかっていた深い霧が晴れるようで気分がいい。推理小説が好まれるのもそんな理由からだろう

 ▼数々の難事件を解決してきた名探偵シャーロック・ホームズは、インド王族秘蔵の宝石に絡む『四つの署名』(コナン・ドイル)で謎解きの極意についてこう語っていた。「関係のない要素を全て取り除いていくと、ただ一つ真実だけが残るというわけだよ」。胆振東部地震に伴う「ブラックアウト」を調査していた電力広域的運営推進機関の検証委員会が23日、中間報告をまとめた。「おおむね全ての事象はほぼ間違いのない事実として確認」できたそうだ。さてどんな真実が残ったのか

 ▼まず原因は地震により苫東厚真火力発電停止と狩勝幹線送電線事故が引き起こされ、連鎖して水力発電も止まったため需給バランスが大きく崩れたこと。北電の復旧対応に関しては経緯を詳細に検討した結果、ほぼ手順通りに行われていて妥当だったと評価している。さらに気になるのは「事件を解決」する再発防止策だろう。それに関しては今冬対策として「強制停電」容量引き上げや後ろ盾を用意した上での厚真3台同時稼働、中長期策として新設火発や再生エネルギーの導入を示していた

 ▼ただ物足りないのは再エネ活用のシミュレーションはあるのに泊原発のそれはなかったことだ。安全審査中とはいえ供給力の一極集中が課題になっている以上、中長期の参考として取り上げておくべきだったのでないか。関係ある要素まで取り除いては真実に迫れない。


青森飲酒事故

2018年10月24日 07時00分

 テレビで刑事ドラマを見ているとよくこんなシーンが出てくる。捜査員が殺人を犯した男に事情聴取するのだが、証拠がそろっていないため追い詰めることができない。それを知ってか男は余裕の表情でこううそぶく。「俺が犯人だって言うなら証拠を持ってこい」

 ▼そのうち男には〝優秀な〟弁護士がつき、関係者の口裏を合わせるよう工作もする。刑事たちは地道な捜査で、そんな男のうそを一つ一つ暴いていく。ドラマなら最後に犯人を追い詰めるが、現実はそう簡単にいかない。青森県警は本件でそれに全力を尽くしたようだ。先月つがる市の国道で飲酒運転した上、4人もの人を死亡させる交通事故を起こした団体職員高杉祐弥容疑者を22日、逮捕したのである。高杉容疑者は危険運転致死傷容疑を否認していた

 ▼県警は容疑を固めるため慎重に捜査を進めたらしい。事故から1カ月かかったがついに、容疑者が50㌔制限の区間を130㌔で暴走していた事実を突き止めたのである。執念を実らせたのだ。この事故では猛烈な速度で追突された軽乗用の夫婦と対向車線にいて巻き込まれた代行運転手、客の女性が亡くなっている。ところが容疑者は飲酒を認めたものの、「運転は正常にできていた」とその影響は否定していたのだ

 ▼ばかな話である。酒を飲んで公道暴走など殺人と同じでないか。ただ現実には「正常」の論拠を崩せず刑の軽い過失にとどまることも多い。飲酒に甘い法律といわれるゆえんである。今回は県警が容疑者のうそを暴いたが、本来はごね得を許さない法運用こそ大事だろう。


初雪

2018年10月23日 07時00分

 子どものころは初雪が降ると訳もなくうきうきしたものだったが、そんな生気に満ちた往時の心を忘れて久しい。年々寒さが身にこたえるようになってきたとか、雪かきでぎっくり腰が再発しないかとか、冬の知らせを受けて思うのは今やわびしいことばかりである

 ▼「雪はげし崩壊しつつあるおれがある」伊藤シンノスケ。崩壊は言い過ぎとはいえ、降る雪が根雪となって諦めがつくまで心はどうにも落ち着かない。その雪に関して、ことしはおまけをもらったようで少し得した気分でいる。去年の札幌の初雪はきょうだったのだ。季節外れの台風21号が寒気を運んできた。札幌管区気象台が観測した去年の本道の初雪初日は旭川と釧路の10月17日。冬の訪れが総じて早かったのである

 ▼そこへいくとことしは、まだどの地点でも初雪は観測されていない。先の週末もこの時期とは思えない暖かさ。「北風と太陽」ではないが、いつもの散歩道でも上着を脱いで歩いている人を多く見掛けた。暑くなったのだろう。暖かさはしばらく続くらしい。札幌管区気象台が先週発表した20日からの1カ月予報によると、前半はかなり気温が高い見込みという。11月に入ると冬型の気圧配置が現れ平年並みの寒さに戻るそうだ。とするとそのあたりで本道各地から初雪の便りも届いてくるか

 ▼きょうは暦の上では霜降。そこまで冷え込む心配はなさそうだが、冬は確実に近づいている。「きびきびと小春日和を使いきる」和多田林雨。せっかくおまけにもらった一足早い小春日和。長い冬に備え生気を蓄えるのに使いたい。


日本の競争力

2018年10月22日 07時00分

 競争は参加者が公平な条件の下で戦えるルールがあるからこそ白熱して面白い。それゆえ特定の者だけが有利にならないようルールは慎重に決める必要がある

 ▼宮沢賢治の「けだもの運動会」はそれを主題とした童話だ。動物たちが集まって種目を考えているとき、トラが「引き裂き競争がいい」と提案する。王の獅子はこれを不公平と一喝して却下。結局はゾウが提案した「鉄棒ぶら下がり競争」に決まるのである。力の強い者は体が重く、弱い者は軽いため公平だとの理由だった。動物の運動会だから条件も単純だが、これが国の競争となるとそうはいかない。世界経済フォーラムが先週発表した2018年版の「世界競争力報告」では98種類の指標をそれぞれ100段階で評価し、140カ国・地域の順位を決めていた

 ▼幾つか指標を挙げると、GDPの大きさ、個人貯蓄率、失業率、電化率、起業のしやすさ、インターネット普及率―といった具合。特定の分野に偏らないよう広範な指標が用意されている。さてこの運動会で日本は何位に入ったか。5位である。世界5番目の競争力とは大したもの。ちなみに1位は米国。2位シンガポール、3位ドイツ、4位スイスと続く。経済力と主張がトラ並みに強い中国は28位止まり。「引き裂き競争」だけでは上位に行けないらしい

 ▼日本が特に優れているのは健康寿命。世界のトップを走る。ICTの導入が3位、インフラの充実が5位と職住環境の良さも目立つ。今の方向性が正しいということだろう。引き続き鍛錬を怠らずこの順位を維持したいものだ。


またデータ偽装

2018年10月19日 07時00分

 この緊迫感に満ちたナレーションを今でもそらで言える人は少なくないだろう。「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。彼を改造したショッカーは世界制覇を企む悪の秘密結社である」

 ▼漫画家石ノ森章太郎原作の特撮ヒーロードラマ『仮面ライダー』シリーズ1作目のオープニングに必ず挿入された口上である。本郷猛は悪の秘密結社の勝手な思惑により、知らないうちに自分の体を改造されてしまったのだった。それが分かったとき、本郷猛はわが身の不幸を嘆かずにはいられなかった。今回の騒動も主導したのが悪の秘密結社でこそなかったものの、まともでない物を本体に埋め込まれた当事者はやはり落胆と憤りを感じたに違いない。KYBとその子会社が国土交通省の基準に満たない免震・制振装置を全国に出荷し、多くの建物に組み込まれていた

 ▼装置は建築物用のオイルダンパーで、担当者が検査データを改ざんして適合品に見せ掛けていたという。内緒の悪事を暴かれた企業がまた一つ、である。このダンパーが設置された建物は判明している分だけで全国1000件に上るらしい。本道でもさっぽろ創世スクエアや道庁本庁舎、幕別町庁舎など少なくとも12件に疑いがあるそうだ

 ▼深刻な欠陥品でなく震度7程度の地震でも倒壊の恐れはないというが、施主や施工者にしてみれば大事な建物をきずものにされた気持ちでないか。本郷猛は改造された怒りを原動力にしてショッカーを壊滅に追い込んだ。KYBもそうならぬよう徹底してうみを出し切り、地に落ちた信頼を取り戻すべきだろう。


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