コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 221

報道の奇妙な経緯

2018年10月11日 07時00分

 先の日曜日に気になるニュースがあったため、事態の動きを注視していた。胆振東部地震による大規模停電で多大な損害を出したコープさっぽろが、北海道電力に賠償請求する方針を固めたと北海道新聞が伝えた件である

 ▼正直なところ記事を読んでまず感じたのは、「自然災害で賠償請求とは」との違和感だった。ところが同日、コープはHPで「記事の内容は事実と異なる」と発表。道新に強く抗議したのである。この発表でコープは当該記事を「センセーショナルな書き方」で「甚だ遺憾」とし、北電に法的措置を取る考えはないと否定した。ただ奇妙なことにコープは9日、道新のくだりをすっぱり削って文書を差し替えている。はて、振り上げたこぶしは一体どこに消えたのか。きのう付の道新にも訂正はなかった

 ▼差し替えられた文書にも経緯の説明がないため真相は分からない。組合員含めキツネにつままれた気分の人も多いのでないか。コープの姿勢が問われる部分だけに、事実を知りたいものだ。その姿勢で釈然としないのが道新の7日付記事でコープ関係者が語ったとされる「停電は人災」「大規模電力を一極集中させた」との言葉だった。地震は天災で一極集中も泊原発が動いていない中での苦肉の策と道民は理解していよう

 ▼北電はよく頑張ったとする声の方が大きいのでないか。実際、9日の電力広域的運営推進機関第2回検証委員会でも、手順は適切だったと評価された。どうやら停電には、暗闇を招くと同時にこれまで見えなかった社会の実相を浮かび上がらせる力があるらしい。


カメラを止めるな

2018年10月10日 07時00分

 今年の日本映画界最大のニュースは「万引き家族」がカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞したことだと思っていたが、それを上回る事件が起こった。低予算ゾンビ映画「カメラを止めるな!」のロングラン大ヒットだ

 ▼6月に2館で劇場公開がスタート。絶賛の声が広がり、連日満員が続き、上映劇場は全国で300を超えている。親にも子供にも安心して勧めることができるゾンビ映画は、とても珍しい。大笑いして元気になる上質のファミリー映画でもある。上田慎一郎監督は、これまで短編を中心に制作し札幌国際短編映画祭でも上映されてきた。明日11日から始まる今年の映画祭でも、複数の作品を見ることができる

 ▼ナショナル・プログラムの中で上映される新作の「正装戦士スーツレンジャー」は、上田監督らしい味付けをしたスーパー戦隊モノのパロディ作品。5人の男女が、スーツ姿で悪の怪人と闘う。特別プログラム「J―COMEDY」では、上田監督と中尾浩之監督の作品が激突。抱腹絶倒の火花を散らす。中尾監督の歴史に残る傑作「ザ・シークレットショウ」は、忘れ物を届けにいく自転車便の悪戦苦闘を描く爆笑ドラマ。要潤が主演している

 ▼上田監督の「彼女の告白ランキング」は、結婚相手の想像を絶する告白の連続で知らない世界に連れていかれる。2015年製作の「テイク8」では売れない監督が結婚相手に「2年やって何にもならなかったら映画をやめる」と話す場面がある。監督自身の決意でもあっただろう。そして17年「カメラを止めるな!」が誕生した。


台風で散々

2018年10月06日 07時00分

 ことしは毎日、台風のニュースばかり聞いていた気がする。同時に幾つも発生したり、日本列島を通り過ぎてやれやれと思ったらすぐ次のが現れたり。息つく暇もない

 ▼それもそのはず。気象庁によると日本に接近した数は5日現在で去年の8個に対し既に14個に上っている。しかもしばしば最高レベルの強さを持つ「猛烈な」台風ときた。強風や大雨、高潮を伴ってくるため、年がら年中警戒が必要とされたわけだ。台風は北太平洋東部や大西洋で発生するとハリケーンに名を変える。物騒な話で恐縮だが、大きなハリケーンが1日に生みだすエネルギーは20メガトン級水爆400個分に相当するという。これは全世界の核兵器を全て合計した破壊力を上回る。科学書に教えられた

 ▼ちなみに地震はマグニチュード(M)8で6メガトン級爆弾と同じエネルギーらしい。きのうも余震には驚かされたが先月の胆振東部地震でM6・7。単純に比較できないものの、それでも台風の持つ破壊力のすさまじさは分かる。道理で人間の手には負えない。振り返ると7号と梅雨前線によって引き起こされた水害や土砂崩壊で、200人以上が亡くなった7月の西日本豪雨が今期の台風災害の始まりだった

 ▼8月には連続7個の台風が日本各地を傷だらけにし、9月には21号の強風で流されたタンカーが関西国際空港の連絡橋に突っ込んだ。こと台風に関しては散々な年というほかない。そしてあす、25号が暴風を引き連れて本道に最接近する。年がら年中の警戒にそろそろ疲れていようが、どうかまだ油断はされぬよう。


ストレス臭

2018年10月05日 07時00分

 香りや臭いというのは不思議な言葉で、鼻を通して現に感じるものとは別に雰囲気を表すのにもよく使われる。例えば「あの男は相当ヤバい臭いがする」。ドラマなどで時折耳にするせりふだろう

 ▼ミュージシャンの山下達郎さんにも『あまく危険な香り』(1982年)の曲があった。「息をひそめた/夜にまぎれて/忘れかけてた/愛の香りよ」。寡聞にして知らぬが、どうやら愛は甘く危険な香りがするらしい。ではストレスは、というとこれがネギやタマネギのような臭いなのだとか。誰でも思わず顔をしかめるあの鼻につんとくる刺激臭である。といってもこれ、雰囲気を表すものではなく現実の話

 ▼人は緊張により心理的ストレスが加わると、皮膚表面から「硫黄化合物系の臭い」を放出するそうだ。その現象を発見した資生堂が2日、明らかにした。体臭の研究を続ける中で、ストレス状態にある人からは特有の臭いが発生することに気付き、科学的に確認しようと実験や分析を重ねてきたとのこと。気になって思わず自分の体の臭いを確かめてしまった人もいるのではないか。ちなみに「加齢臭」が実際に存在するのを証明したのも資生堂だった。何かと重圧に耐えながら仕事をしている中高齢世代にはダブルパンチというわけだ

 ▼ただ、心配は無用。化粧品会社だから当然だが、臭いを包み込んで目立たなくする独自の技術も開発済みらしい。まんまと商売に乗せられている気もするが事実なら仕方あるまい。どうせなら自分から匂い立つのは、ネギ臭でなく甘く危険な香りの方が良かったが。


ノーベル賞に本庶佑氏

2018年10月04日 07時00分

 将来の発展のためあえて今の試練に耐える「米百俵」の逸話をご存じだろう。北越戦争に敗れ窮乏にあえぐ長岡藩に三根山藩から支援米百俵が届く。空腹を満たせると喜ぶ藩士たちだったが、大参事小林虎三郎はその米を全て売り払い学校設立資金に充てる

 ▼小林は皆をこう諭したという。「この百俵は今でこそただの百俵だが、後年には一万俵になるか百万俵になるかはかりしれない」(戯曲『米百俵』山本有三)。その場しのぎの解決策に飛びついて良しとするのでなく、先の先まで見通して人を育てる選択をした小林の慧眼(けいがん)だった。こうして明治3(1870)年に建てられた国漢学校が長岡の近代教育の基礎を築いたとされる

 ▼がん治療に免疫療法の新たな道を開き、ことしのノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑京都大特別教授の談話を聞きそのことを思い出した。NHKの番組でこう語っていたのである。「基礎研究は地味だが、役に立つ結果が出れば何百万人という人に恩恵がある」。本庶教授が発見した「PD―1」分子を基に開発されたがん治療薬「オプジーボ」(小野薬品工業など)は実際今、病に悩む多くの患者の命を支えている。伝染病の撲滅もそうだが、科学的発見は後の世を大きく変える力を持つ

 ▼それにしても、である。本庶教授は歴代ノーベル賞受賞者と同じく、基礎研究に予算が投じられないことへの危機感も吐露していた。文部科学省は天下りには熱心だが基礎研究には冷たい。文科省の幹部は自らの米を、基礎研究にいそしむ研究者たちに回してはどうか。


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