コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 222

安倍改造内閣発足

2018年10月03日 07時00分

 作家の塩野七生さんは古代ローマ研究を通じて長年にわたり、現代の社会や経済、政治のあり方を問い続けてきた人である。その塩野さんが安倍政権が再出発した2013年の『文藝春秋』にこんな論考を寄せていた

 ▼当初3年が正念場とのマスコミの主張に対し、「三年なんてケチなことは言わず、十年先まで視野に入れてはどうだろう」「この十年で浮上に成功すれば、その後は苦労なく安定飛行に移行できる」。さすがに古代ローマの栄枯盛衰を読み解いてきた塩野さん。「『政治』が『政治力』になる」にはそれくらい時間をかけねば難しいと判断していたらしい。やはり先見の明があったというべきか

 ▼自民党総裁選を無事乗り切った安倍首相の改造内閣がきのう、発足した。任期が21年9月のため10年間とはいかないが、政治が政治力に変わるくらいには十分長い政権になりそうだ。とはいえ日本は今まだ再浮上の途中。改造内閣にはお飾りでなく、仕事のできる実力者が求められる。顔ぶれはどうか。安倍内閣として最多12人の初入閣で派閥への配慮と清新さを演出したようだが、首相の意図は留任大臣から垣間見える。麻生副総理兼財務、河野外務、世耕経産、石井国交、菅官房、茂木経済再生

 ▼経済と外交を重視した前内閣の骨格維持が狙いだろう。次期参院選、消費税、憲法改正など難題を控え今回は波風立てずといったところか。ただ新任大臣が踊り場気分に飲まれてはいけない。自らの見識と政権の政治力を生かし大胆に施策を実行するのでなければ日本の安定飛行は夢のまた夢になる。


沖縄県知事選

2018年10月02日 07時00分

 詩人石垣りんの作品に「祖国」がある。といっても祖国への言及は一つもなく、上高地登山を語るばかりなのだが

 ▼例えば登りながらのこんな想像。「今きた道に/もし、ある権力が番人ひとり置いて/『ここよりはいるべからず』と/立札一本立てたとしたら…」。さてどうなるのか。人はその狭い場所で身動きが取れなくなり、「自分の可能を/ひろい空と/眺望のある生を忘れ/卑屈に、不幸になるであろう」。察しのいい方はすぐお分かりになったのでないか。実際の登山について書いているようでいて、実はどこかの「祖国」で知らぬ間に選択の自由を奪われた人の末路を予言した詩である。沖縄県知事選で野党の支援を受けた玉城デニー氏が当選したの見て思い出した

 ▼失礼ながら世論調査の政党支持率からも分かる通り、国政ではほとんど存在感のない自由党の衆院議員だった玉城氏である。はたから見ると当選は意外な気もするが、政府が自由を制限することに怒りを抱く県民が多かったのだろう。普天間飛行場の辺野古移設では、沖縄のことなのに当の県民がその問題から締め出されている。政府の「ここよりはいるべからず」の立札のためだ。県民は自分の家で他人に指図されるような違和感を覚えていたに違いない

 ▼石垣りんは詩の最後にこう書いた。「もし立札を立てる者があったら/それはぬきとろう/おそれずに/必ず/ぬきとろう」。玉城氏の当選もこれだろう。県民は卑屈も不幸も拒絶した。日米安保は国の専権事項との理が政府にあるとしても、立札頼りはもはや通用しない。


ふっこう割

2018年10月01日 07時00分

 今のような季節の変わり目に、お気に入りの衣料品ブランドからセールの案内メールが届くとうれしくなる。通常価格では高過ぎて手も足も出ない商品が、清水の舞台から飛び降りずとも買えるのだから自然頬も緩もうというもの

 ▼カタログを眺めると30%や50%割引がほとんどだが、中には70%割引まである。サイズや色柄がそろっているとはいえないものの、好みに合う物が見つかればこれほどお得なことはない。衣料品に限らず、「割引」の言葉に心を動かされない人はそう多くないだろう。となればこちらもお客さんを呼び戻すのに相当な効果があるに違いない。「北海道ふっこう割」である。胆振東部地震で予約キャンセルなど大きな被害が出ている道内観光にてこ入れするため、政府が本道旅行者に宿泊費を補助する復興支援を決めたのだ

 ▼1泊2万円を限度に日本人なら5―7割を3泊まで、外国人なら7割を5泊まで補助するという。訪日客に厚い配分である。道内全域の旅行が対象になるそうだ。2016年熊本地震の後に導入された「九州ふっこう割」が観光需要喚起に貢献したのはご存じの通り。8月の政府観光戦略実行推進会議では事業費180億円に対し600億円の旅行消費効果が生まれたと報告されていた。北海道もそうなると良いのだが

 ▼ただ衣料同様、買ってはみたが現物はがっかりでは困る。期待以上の素晴らしさを提供して、リピーターになってくれるのが理想だろう。「転んでもただは起きぬ」の精神で、この試練をホスピタリティ向上のチャンスに変えられるといい。


グローバリズム

2018年09月28日 07時00分

 最近はあまり聞かれなくなったがひところよく使われた言葉に「燃え尽き症候群」がある。頑張りすぎて心身のエネルギーを使い果たし、意欲を喪失したり情緒不安定になったりする病である

 ▼高度成長期やバブルのころ、仕事一筋で会社に住み着いているような猛烈サラリーマンがしばしば侵された。現在もなくなったわけではあるまいが、危険性が知られ働き方も変わってきたため発症が抑えられているのだろう。フランスの人口歴史学者エマニュエル・トッド氏の『問題は英国ではない、EUなのだ』(文春新書)を読んでいて久しぶりにその言葉を思い出した。トッド氏が説くところによると世界各国では今「グローバリゼーションによる疲労」が共通の悩みなのだとか

 ▼ここ数十年、特に欧米先進国ではこと経済と移民に関しては一心不乱に国の垣根をなくそうと努めてきた。ところが格差拡大、テロ頻発と問題が続出。国民の意欲は大きく減退しているそうだ。これも燃え尽き症候群の一種ではないか。トッド氏はこのグローバリゼーション疲労を論拠に、トランプ大統領の当選を予言していた人でもある。そのトランプ氏だが、先の国連総会でも再び「米国はグローバリズムを拒絶する」と断言

 ▼米国経済が息を吹き返し、欧米社会が疲労を増している現実を見ると、トランプ氏は案外うまく時代の波に乗っているのかもしれない。とはいえ国際協調を無視しているのも確か。日本にもいつ火の粉が飛んでくるやら。トランプ氏は疲労に効く薬なのか、体を壊す毒なのか。見極めはますます難しい。


化かしているのは

2018年09月27日 07時00分

 東京から神奈川にかけて広がる多摩丘陵で新興住宅地の開発計画が持ち上がった。一帯をねぐらにしていたタヌキたちは戦々恐々。一致団結して建設を阻止することに決め、種族伝統の化学(ばけがく)を駆使して人間に対抗する

 ▼ああ、あの映画のことかとお分かりの人もいよう。スタジオジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』である。タヌキたちは妖怪や幽霊に化け脅したりすかしたり。必死の抵抗を試みるのだが…。この話、ねぐらを追われる側の視点で描かれているためタヌキに共感が集まるが、現実の社会に置き換えると双方にそれなりの理がある。どちらも生きる場を求めているだけというわけだ

 ▼どうやらこちらもそれぞれ「わが方にこそ相撲の生きる場あり」の考えで戦ってきたらしい。貴乃花親方と日本相撲協会のことである。貴乃花が25日に会見を開き、協会を退職し、角界から去る意志を明らかにした。協会にも有形無形の妖怪がいるようで、貴乃花に対し度重なる脅しやすかしがあったという。協会は7月の理事会で、親方がいずれかの一門に所属することを義務付けていた。その上で貴乃花が内閣府に提出した告発状が事実無根だったと認めなければ一門に入れないと宣告。譲れない貴乃花は弟子の将来を考え、断腸の思いで身を引く決心をしたそうだ

 ▼貴乃花によると、である。真相はまだ分からない。協会にも言い分はあろう。ただこの合戦は協会に巣くう古狸が意欲ある親方をつぶし、世間を欺こうとしているように見えて仕方がない。はて、本当は誰が誰を化かしているのだろう。


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