コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 227

月に氷があった

2018年08月24日 07時00分

 われわれホモ・サピエンスの起源は数十万年前のアフリカにあるとされる。片田舎に住んでいた人類が長い歴史を経て今や世界中に散らばっているわけだ

 ▼故郷アフリカを離れる理由はいろいろあったらしい。気候変動、食糧不足、縄張り争い、生存競争―。そんなやむにやまれぬ事情がほとんどだったとは思うが、中には人類特有の動機もあったのではないか。未知の事柄に触れてみたいというあくなき欲求である。この海の向こうにはどんな世界が広がっているのか、あの山を越えて行けばここにはない幸を見つけられるのでは…。知的好奇心はいつの時代も人類を突き動かす原動力となってきた

 ▼こちらも同じだろう。月の探査である。ウサギの他にも素敵なものが存在するに違いない、と人類は昔から想像してきた。どうやら本当にあったようだ。米航空宇宙局(NASA)が21日、月の地表に氷があることを初確認したと発表したのである。これまでも可能性は指摘されていたが証明はされていなかった。インドの月探査機「チャンドラヤーン1号」で観測した月表面のデータを分析して分かったという。氷があれば現地で飲料水や水素燃料を作ることができ、月への進出にも一気に弾みがつく

 ▼この一報を聞き、昔読んだ米SF作家ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』(早川書房)を思い出した。月植民地の人々が地球からの独立を目指し反乱を起こす物語である。知的好奇心もそうだが縄張り争いも人類の特徴の一つ。月に行ってまでそんな愚行を繰り返さねばいいのだが。気が早すぎるか。


中央省庁の障害者雇用

2018年08月23日 07時00分

 社会貢献と利益を共に高い水準で実現する会社経営は簡単なものではないだろう。元法政大学教授で「人を大切にする経営学会」会長を務める坂本光司氏は長年、それを見事にやり遂げている会社を発掘し、優れた例として発表してきた

 ▼その著書『日本でいちばん大切にしたい会社3』(あさ出版)に、新潟県の印章専門店大谷が紹介されている。1966年から一貫して障害者の雇用に取り組んでいる会社である。会長の大谷勝彦氏には「障害者に働く喜び、働く幸せを提供したい」との理念があるという。障害者の親から「私らは先に死ぬ。子どもだけが心配。仕事をお願いします」と頼まれた大谷会長は「一生面倒見ます」と快諾。その約束を守るため会社を大きくしてきたそうだ

 ▼それに引き換え、何とも嘆かわしい話ではないか。複数の中央省庁が障害者雇用促進法で義務付けられた雇用率を満たすため、人数を大幅に水増ししていたというのである。その数、全省庁合わせ1000人を超えるらしい。今のところ総務、国土交通、経済産業など各省で不正が見つかっているがさらに増えそうだ。昨年の法定雇用率は2.3%で、中央省庁はほぼ達成しているとされていた。ところが水増しを除くと1%に届かない省庁もあるのだとか

 ▼法律の理解不足によるミスで悪質な操作でないとの説明もあるが言い訳だろう。このいいかげんな取り扱いを見ると、省庁に「働く幸せを提供」や「一生面倒見る」といった理念も気概もなかったことは明白。これが「日本でいちばん大切」なはずの行政機関とは。


自民党総裁選

2018年08月22日 07時00分

 おいしい物が嫌いな人はそういないだろう。グルメ(食通)とまではいかずとも、西に評判のラーメンがあると知ればすぐに駆け付け、東に極上のスープカリーがあると聞けば出掛けて行く。情報には事欠かない世の中である

 ▼ところで料理は家庭からフレンチ、懐石まで数限りなくあるが、洋の東西を問わず味の要は塩だという。素材の良さを引き出し、全体の味を調える。生かすも殺すもさじ加減一つなのである。「塩は百肴の将」ともいう。しょうゆやみそといった調味料も塩なくしてはできないため、塩こそが全ての料理の頂点に立つとの意味。だしのうまみを感じる味覚にも塩が大きな役目を果たしている。なかなかの働き者でもあるのだ

 ▼来月予定の自民党総裁選に石破茂元幹事長が出馬を表明し、盛んに支持拡大のためのPR活動を繰り広げている。立候補者が安倍首相だけで無投票当選になる全く味気ない総裁選も予想されていたが、石破氏という将たる塩が入ったことでだいぶ味も引き締まった。党内の選挙とはいえ実質は首相を選ぶ手続きだから国民の関心が低いのはよろしくない。石破氏は「国民の思いに近い政治」を掲げて戦うようだ。対立候補が出て意見をぶつけ合うことで首相の意気込みや方針も自然と鮮明になろう

 ▼ただ総裁選を少しおいしくはしてくれたものの、失礼ながら今のところ石破氏に肉や魚といった主役級食材の風格は感じられない。まあ、安倍首相の出馬表明もまだだから本領発揮はこれからだろう。あまり塩を効かせ過ぎて食えない総裁選にだけはしないように。


台風異常発生

2018年08月21日 07時00分

 自覚症状が全くなく健康に自信があっても、ある程度の年齢になるとやはり人間ドックの結果は気になるものではないか。自分は大丈夫と思っていても、診断結果の通知を開いて「要観察」の文字が見えたりすると妙にドキリとしたりして。あれは本当に心臓に悪い

 ▼判定の細目を見ると「γ―GTP」だの「尿酸」だの「クレアチニン」だの。意味はよく理解できないものの、どうやら多過ぎるのは良くないらしい。サラリーマン川柳(第一生命)にこんな作品があった。「成人病かかった社員が解説者」(耳にタコ)。楽しからぬ病気の話なのになぜか話に花が咲く。ドックの時期によくある光景だろう。いずれにせよ検査項目は一定の範囲に収まっているのが望ましい。「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」である

 ▼ドックでないが最近多過ぎるこちらも何か異変の兆候だろうか。台風のことである。今月はあと10日間ほど残して既に8個も発生。中でも12日から16日にかけては毎日というハイペースである。8月は一年で台風が最も多いとはいえ、平年値は5・9個だからこのままでは何個になるやら。7月までも平年値7・7個に対し12個が発生していた。大きな逸脱。地球ドックでもあれば「要観察」の所見が付いたに違いない

 ▼日本の南海上で高水温が続いていることが直接の原因だという。ただ、裏には地球温暖化の大病が潜んでいるのかもしれぬ。ことしは西日本はじめ日本中が豪雨に悩まされている。台風は止められないが、被害を最小限にするため数字が示す異常な現状は忘れずにいたい。


伊、高架橋崩落

2018年08月20日 07時00分

 冷蔵庫が壊れて買い替えたばかりなのに、今度は電子レンジの調子がおかしい。そういえば最近は掃除機の吸い込みが弱いし、テレビも突然消えたりする。家電は一つ故障すると次々連鎖していく。似た経験をした人は少なくないのでないか

 ▼怪奇な現象のようだが考えられる原因は幾つかあるという。有力な説は購入時期。家電の耐用年数は10年程度だから、一斉にそろえた物は同時期に寿命が来るというのである。イタリア北部ジェノバで14日に発生した高速道路高架橋崩落事故の報に触れ、そんな家電と耐用年数の関係を思い出した。この高架橋は1960年代に建設されたもので既に50年以上が経過。イタリアでは近年、主要道路で高架橋の崩落が相次ぎ、老朽インフラへの懸念が高まっていたそうだ

 ▼そもそも60年代は安全基準自体が低かったという。それが抜本的見直しもされないまま、交通量が増大した現在まで使われていたらしい。国の予算緊縮でインフラ整備に手が回らない現実もあったと聞く。人ごとでない。安全基準や維持補修計画に差はあれど老朽化が深刻なのは日本も同じ。国土交通省によると建設後50年以上のインフラは、15年後には道路橋(約40万)で67%、トンネル(約1万)で50%、河川管理施設(約1万)で64%といずれも5割を超える

 ▼家電なら「一遍に壊れてまいった」と笑い話にもできるがインフラはそれで済まされない。人命にかかわる。「日本は大丈夫」も今や安全神話の類いだろう。十分に予算を付けインフラを保守する。事故を未然に防ぐにはそれしかない。


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