コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 327

熱中症に注意

2016年07月30日 09時20分

 ▼関東以南は連日厳しい暑さが続いているようで実にお気の毒である。全国の天気予報で35度などという最高気温を見るにつけ、北海道に生まれた幸せを感じないわけにはいかない。うなずく道産子も多いのでないか。「炎昼を来てたましひを置き忘れ」(出井一雨)。炎昼は夏の焼けるような昼のことだが、本道もきのうまでの激しい雨をやり過ごし、きょうあたりからいよいよ厳しい暑さが始まるらしい。

 ▼こうなると、本州に対する優越感はしばし引っ込め、本道も熱中症に備えねばならぬ。建設現場や屋外で働く人、高齢者、子ども―。暑さに影響を受けやすい環境や条件にある人は要注意である。湿度が高く、体が暑さに慣れていないここ1週間は特に用心した方がいいだろう。「日射病頂上見えて倒れけり」(森田峠)の句もある。「もう少しだから」「まだ頑張れる」といった無理は禁物。症状を自覚したときには既に、相当危険な状態になっているのが熱中症の恐ろしさである。

 ▼見落とされがちだが時間帯も重要らしい。午前は気温が急に上がるものの、体は変化に追い付けない。アクセル全開はエンジンが暖まってからが無難である。これも覚えておいて損はない。冷たい水をガブ飲みするのは爽快だが、逆に症状を悪化させることもあるそうだ。ただの水は体から塩分を流出させてしまうからだという。水分と塩分は同時に、小まめにとることである。そして適度に休むこと。「かき氷かんで砕いて腑に落す」(畑直子)。そんなひとときを設けるのもいい。


相模原の事件

2016年07月29日 09時35分

 ▼知り合いに重複障害を抱えた人がいる。筆者の小さいころ、たまに一緒に遊ぶ友達だったのだが、簡単な手術を受けたときに医療ミスが起き、脳に損傷を負ったそうだ。大人になって一度会ったのだが、彼の心は子どものまま、ベッドの上で動くことも話すこともできなかった。不幸な事故。しかし言いたいのはそのことでない。彼の両親が変わらず彼にありったけの愛情を注ぎ、慈しんでいたことである。

 ▼神奈川県相模原市の津久井やまゆり園で起きた惨劇の報に触れ、そのことを思い出した。愛する家族を失った遺族の悲嘆はいかばかりか。事件の様相が明らかになるにつれ、容疑者の男の、障害者の生存を否定する強い偏見に基づいた犯行に憤りは募るばかりだ。知的障害者のために活動する「全国手をつなぐ育成連合会」も26日、「私たちの子どもは、どのような障害があっても、一人ひとりの命を大切に、懸命に生きています」と訴えていた。心から血が流れるような思いだろう。

 ▼美唄市内に工場を置く、粉の出ないチョークの日本理化学工業(神奈川)をご存じの人もいるに違いない。社員の70%が知的障害者である。最初は体験に来た2人だけだったが、社員がそのひたむきさに打たれ、皆で支えるから採用してほしいと社長に直訴したという。以来、障害者の側でなく、設備や作業手順の方を障害者に合わせてきた。障害者問題にヒントをくれる話だろう。多くの人が苦しみながらこの問題と真剣に取り組んでいる。卑劣な憂さ晴らしなど許すわけにいかぬ。


地名の秘密

2016年07月28日 10時03分

 ▼きょうは「地名の日」である。本道にゆかりのあるアイヌ語地名研究家山田秀三の命日などにちなんで決められたものだという。実際、小欄も氏には随分お世話になっている。といっても会ったことがあるわけではない。著書『北海道の地名』(北海道新聞社)を座右に置き、よく参照しているのだ。本道はアイヌ語の地名がほとんどのため、意味を知ればその地域の特徴がありありと見え、重宝している。

 ▼人は古くから、地名に知恵を刻み付けてきたということだろう。ところで、最近読んだ地名に関する本にも、災害を避けて安全に暮らすための知識を教えられた。少し紹介したい。地名情報資料室を主宰する楠原佑介氏の『地名でわかる水害大国・日本』(祥伝社新書)がそれだが、危険な場所は地名に示されているというのである。例えば「押」の字が付けば堤防が決壊する所、「龍」は水が流れ出す先端といった具合。「井」は井戸でなく川があることを表していた字なのだそう。

 ▼2014年に広島県安佐南区八木地区で発生した土砂災害についても検証していた。「ヤギ」音を持つ地名はかつて焼畑だった所が多く、地滑りや土砂崩壊が起こりやすいというのだ。これが事実とすれば無視するわけにいかない。命を守るため過去の人々から伝えられた重要な申し送りであろう。楠原氏も、地名に示される土地条件を無視した都市開発が「災害の根本原因」と警鐘を鳴らしていた。もうすぐ台風シーズン。地名に関心を持ち、災害に備えておくに越したことはない。


道議会新庁舎

2016年07月27日 10時16分

 ▼語られる状況によって中身は少しずつ変わるようだが、こんな例え話を聞いたことはないだろうか。教会の新築現場で、ある人が作業している者に「何をしているのか」と尋ねる。木工職人は「働かなきゃ食っていけないでしょうが」と答え、石工は「見て分からんか、石を積んでるんだ」と返したそうだ。最後に掃除をしていた老婆に問うと、「神様が気持ちよく過ごせますようにお宿を整えております」

 ▼仕事に取り組む姿勢とともに、一つの事業がどんな理念で行われているのか自覚することの大切さを教える。その伝でいくと新しい北海道議会庁舎の整備は、民主主義の基礎となる地方自治を守り育て、豊かな北海道を実現させる場づくりということになろう。公募型プロポーザルで選定を進めていたその道議会庁舎改築工事基本・実施設計の設計者が、先日決まった。イメージパースを見ると、広域自治体で初めてという、道産木材を活用した木造大屋根の議場がひときわ目を引く。

 ▼建物全体で道内15地域の地場産材を使用するらしい。庁舎が議員だけのものでなく、道民のものであることを示す仕掛けでもあろう。現庁舎は重厚だが親しみやすさに欠け、耐震性の低さは公共建築として致命的だった。懐古趣味を持つ者としては寂しいが、改築は仕方ない。最新のエネルギー技術や合理化工事の採用を考えると、決断の早さがトータルコストを抑えることにもなる。大事なのは完成後、道民の意見が集まる場を最大に生かし、コストを上回る成果を出すことだろう。


鴨長明と無常

2016年07月26日 09時47分

 ▼古典のことはさっぱりわからぬという人も、この冒頭の一節には聞き覚えがあろう。「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし」。平安から鎌倉時代にかけて生きた歌人鴨長明の随筆『方丈記』である。和歌と琵琶の名手として知られ、後鳥羽上皇にも認められたものの出世できず、50歳ごろから閑居を始めたとされる。

 ▼きょう26日がその長明の没後800年の日であるらしい。あらためて『方丈記』を開いてみたのだが、優れた文学とはこういうものだろう、時代を超え真っすぐ今に訴えかけてくるものがあった。主題はご存じの通り「無常」である。『広辞苑』(第三版)を引くと「一切の物は生滅・転変して常住でないこと。人生のはかないこと」とある。文字になるといまひとつピンとはこないものの、一定の年齢に達した日本人であれば、あえて意識せずとも心身に備わっている感覚でないか。

 ▼地震や水害など災害時に被災者らが秩序を失わず振る舞えるのも、そんな無常感が根底にあるからだろう。外国からは不思議に見えるのか必ず称賛の声も聞かれる。宗教学者山折哲雄が『日本文明とは何か』(角川ソフィア文庫)で、この無常は「文明の衝突」による世界の紛争を解決する重要な鍵になると書いていた。運命に逆らわず非暴力で、対立を飲み込む思想が第3の道を開くのだという。いつか無常で世界のテロが収まり、こう言えるといい。「平和のながれは絶えずして」


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