▼諸外国が日本に抱くイメージの一つに、「品質の良い自動車を作る国」があることは間違いないだろう。『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)に、日本とロシアの技術者が自動車の気密性を議論するこんな笑い話がある。試験で猫を一晩入れておくのだが、日本人は「次の日猫が死んでいれば気密性は十分」だとし、ロシア人は「猫が逃げていなければ気密性は十分」と返す。もちろん誇張だが。
▼近年はリコールも相次いだが、いまだ日本車の品質に対する信頼は高いようだ。それを反映してか業績も堅調で、トヨタ自動車など自動車大手は今春闘もベースアップに応じる方針という。政府の賃上げ要請にも配慮したものだが、賃上げから消費底上げにつなげる雰囲気づくりにはいい材料なのではないか。三菱電機など電機大手も後に続き、ベアを実施する見通しと聞く。まあ、大方の人にとっては雲の上の出来事とはいえ、大手さえ動かないのでは中小零細はお話にもならない。
▼デフレ期、企業は賃上げを避け、内部留保を増やしてきた。経営環境の予期せぬ変動に備えたものだが内需停滞の一因にもなったようだ。それで思い出したのが『二宮翁夜話』にある二宮尊徳の話である。毎回の食事のコメを少し減らすことで多くのコメを集め、それを富国の基礎にしたいという人に、二宮翁がそれは間違いだと諭す。働く者に食べるなと言ったら反発するだけ。十分に食べてどんどん稼げという方が正しい、というのである。どこか通じるところがありはしないか。