コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 349

春闘始まる

2016年02月20日 09時40分

 ▼諸外国が日本に抱くイメージの一つに、「品質の良い自動車を作る国」があることは間違いないだろう。『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)に、日本とロシアの技術者が自動車の気密性を議論するこんな笑い話がある。試験で猫を一晩入れておくのだが、日本人は「次の日猫が死んでいれば気密性は十分」だとし、ロシア人は「猫が逃げていなければ気密性は十分」と返す。もちろん誇張だが。

 ▼近年はリコールも相次いだが、いまだ日本車の品質に対する信頼は高いようだ。それを反映してか業績も堅調で、トヨタ自動車など自動車大手は今春闘もベースアップに応じる方針という。政府の賃上げ要請にも配慮したものだが、賃上げから消費底上げにつなげる雰囲気づくりにはいい材料なのではないか。三菱電機など電機大手も後に続き、ベアを実施する見通しと聞く。まあ、大方の人にとっては雲の上の出来事とはいえ、大手さえ動かないのでは中小零細はお話にもならない。

 ▼デフレ期、企業は賃上げを避け、内部留保を増やしてきた。経営環境の予期せぬ変動に備えたものだが内需停滞の一因にもなったようだ。それで思い出したのが『二宮翁夜話』にある二宮尊徳の話である。毎回の食事のコメを少し減らすことで多くのコメを集め、それを富国の基礎にしたいという人に、二宮翁がそれは間違いだと諭す。働く者に食べるなと言ったら反発するだけ。十分に食べてどんどん稼げという方が正しい、というのである。どこか通じるところがありはしないか。


第29回サラ川

2016年02月19日 08時50分

 ▼ことしも第一生命保険のサラリーマン川柳(第29回)優秀100作品が発表になった。全国から寄せられた3万9551句の中から選ばれたそうだ。「本物のビール3本わが爆買い」(ケージー)、「キミだけはオレのものだよマイナンバー」(マイナ)。いつものことながら少々ぼやき混じりの作品には、身につまされたり、思わずにやりとさせられたりする。5月には投票でベスト10が決まるとのこと。

 ▼サラ川といえば職場風景だろう。「部下の言う『課長やばい』は褒め言葉」(無粋上司)。かなりの高評価だと思って間違いない。「『一言で言えば』の話が一時間」(なでしこ君)、「課長またアレアレ詐欺のような指示」(笑司)。案外と言っている本人は気付いていないものなのである。「何ハラだ?身をふり返りハラハラさ」(背油父さん)。パワーだセクだと神経を使う世の中か。「俺よりも役に立ってる微生物」(釈迦の弟子)。ノーベル賞には勝てないが心中は複雑だ。

 ▼家の中での夫の存在も悲哀に満ちているようだ。「気を遣い妻を目で追うオレとイヌ」(鉄人82号)。相哀れむ仲だがさて立場はオレとイヌどちらが上か。「じいちゃんが建てても孫はばあちゃんち」(川享)。割り切れぬ思いはありながらも孫に文句を言うわけにいかない。「娘来て『誰もいないの?』オレいるよ」(チャッピー)。今や三界に家なしなのは夫の方かも。ついには「まいにちが修造だけに励まされ」(個々庵)。優秀作100選は、同社HPで楽しむことができる。


方言の日

2016年02月18日 08時55分

 ▼標準語が幅をきかせている北海道だが、方言がないわけではない。日常よく使うのは、ごみを「投げる」、手袋を「履く」あたりか。「しばれる」もいまだ現役だろう。一方で、疲れるを意味する「こわい」は最近耳にしなくなった。きょうは「方言の日」。といっても全国的なものではなく、「衰退しつつある奄美方言を保存・伝承していくこと」を目的として、鹿児島県の大島地区が定めた日だという。

 ▼言葉は土地に根付いた文化や習わしと密接に結び付いているものである。その言葉が消えていけば、共同体の絆もおのずとほころんでいく。各地で方言を守ろうという機運が高まっているのも当然だろう。『オバァの人生指南』(双葉文庫)に、沖縄方言で語られるこんな言葉があったのを思い出す。「銭とー笑ーらんしが、子とぅどぅ笑ーりーる」。銭とは笑い合えないが、子どもとは笑い合える、ということらしい。方言だからこそ気持ちが伝わる。やはり後世に残したいものだ。

 ▼残したくても消えてしまうものがあれば、なくすべきなのに後を絶たないものもある。政治家の不祥事などは後者の典型だろう。近頃は自民党国会議員のそれが目立つようだ。女性問題で16日に辞職した宮崎謙介氏をはじめ、金銭授受で閣僚を辞任した甘利明氏、金銭トラブルで離党した武藤貴也氏。不祥事とはいえなくとも発言などで物議を醸す人も相次ぐ。どうやら自民党という土地には、政権に安住するとおごりや緩みが出る習わしがあるようだ。「はんかくさい」ことである。


介護の現実

2016年02月17日 09時44分

 ▼高齢化社会といわれて久しい。認知症増加、介護負担、医療費の財政圧迫などこれまで多くの警鐘が鳴らされてきたが、猶予期間の過ぎた今、問題が一斉に噴き出た感がある。家族の悲痛な声が聞こえるような短歌があった。「突然にドア蹴りののしる姑となり家ぢゆうの窓夜ごと泣くなり」(小黒世茂)。こうして題材になるくらいだから、つらい介護の現実はもう、日常に深く入り込んでいるのだろう。

 ▼厚労省が5日公表した調査結果も、穏やかならぬものだった。2014年度の高齢者虐待防止や高齢者の養護者に対する支援についての調査なのだが、家族や親族ら養護者による虐待が前年度比0.1%増の1万5739件とほぼ横ばいなのに対し、要介護施設従事者によるそれは同35.7%増の300件に上っているというのである。養護者による虐待が多いことは、もちろん大きな問題だが、サービスを提供している施設従事者による件数が急増しているのは一体どうしたことか。

 ▼施設を見る目が厳しくなったという事情もあろう。こんな事件があればなおさらのこと。14年に川崎市の老人ホームで高齢の男女3人が転落死した事件だが、元介護職員の男が15日、殺人容疑で逮捕された。容疑を認めているという。運営会社のグループ施設では他の職員による数多くの虐待も発覚している。闇が深そうだ。「老いゆえに知りたる小さき倖せを心にとめて穏しく生きん」(小倉成美)。殺人、虐待、離職。今、介護で連想する言葉は、「小さき倖せ」からはほど遠い。


手書き漢字

2016年02月16日 08時51分

 ▼文章をパソコンなどのキーボードで打つようになってから、手書きでは漢字を書けなくなった、と自覚している人は多いようだ。人ごとでないのだが、大体の形は分かるものの、実際に書いてみると記憶が曖昧なことに気付く。あれ、どうだったか…。内心、焦りを感じることもしばしばである。便利さに甘えて、脳が楽を覚えてしまったのだろう。とはいえこれからは全て手書きでというわけにもいかぬ。

 ▼日頃そんなことを考えているからか、10日付読売新聞記事に目が留まった。文化審議会漢字小委員会が、手書きの漢字は細かな違いを許容するとの指針案をまとめたというのだ。例えば「天」の上の横線は下の横線より短くて良いし、「木」の縦線はとめてもはねても、また「矢」の右下はとめてもはらっても、正しいという具合。小学生のころ、「とめはね」に苦労していたことを懐かしく思い出すが、今どき重箱の隅をつつくような指導は漢字離れを進めるだけということだろう。

 ▼指針は必要以上細部にこだわるのをやめ、親しく使える方向を示すとのこと。ただ、漢字は細部にも意味があると反論する人もいよう。詩人大岡信も1975年の随筆「漢字とかなのこと」にこう書いていた。「『道德』の『德』から一本棒が抜け落ちて戦後の『道徳』ができた。それをやった文部省が、あらたに道徳教育の必要を説いている」。字を損傷すると日本人の感性も傷を負うというのである。いろいろ意見はあるものだ。ともあれ、目下の難題は漢字を忘れないことだが。


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