往年の名歌手藤圭子さんはデビュー曲『新宿の女』(石坂まさを、みずの稔作詞)で男を信じる切ない女心を情感豊かに歌い上げた。年配の方なら当時の声と姿を鮮烈に覚えているのでないか
▼中にこんな一節があった。「何度もあなたに 泣かされた それでもすがった すがってた まことつくせば いつの日か わかってくれると 信じてた バカだな バカだな だまされちゃって 夜が冷たい 新宿の女」。いつか分かってくれると何度もやり直したものの、結局裏切られる。泣かされるのはいつも女。今の時代にはそぐわない価値観だが、昭和にはこの手の演歌が多かった。ところがそんな古めかしい構図を最近まで引きずっていたのが韓国に対する日本の外交である
▼戦後処理で事実上の賠償金を言い値で支払ったのに届いていないとされ、いくら謝罪しても足りないと非難され、慰安婦問題は不可逆的に解決したと約束しても反故にされる。日本が「まこと」を尽くしても韓国はどこ吹く風だった。その風向きに少し変化が出てきたようだ。岸田首相が7日に韓国を訪問し、尹錫悦大統領と会談。両国首脳が相互訪問する「シャトル外交」が12年ぶりに復活したのである。歴史問題を完全に解決しないと未来に踏み出せないのはおかしい、というのが尹大統領の持論という
▼外相時代に約束を破られた苦い経験を持つ岸田首相が関係改善に積極的というのも強い覚悟があってのことに違いない。理由の一つには高まる一方の北朝鮮の脅威があるのだろう。冷たい夜はそろそろ終わりにしてもいい。