コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 112

田中将大楽天復帰

2021年02月02日 09時00分

 目の中に入れても痛くないほどかわいい息子だが、甘やかして育てて駄目な人間にしてはいけないと泣く泣く奉公に出す。親子の情を描いた名作落語「薮入り」である

 ▼熊さんの息子金坊は8歳だが、とにかくずる賢い。このままではろくな大人にならないと大家が熊さんを説得。奉公の手はずを整えた。親元を離れて3年、金坊はやっと実家に帰る許しをもらう。熊さんはうれしくて前の日から少々取り乱し気味だ。奥さんに食べきれない量の食事を用意しろと言ったり、1日では回りきれないお出掛けの行程を考えてみたり。ところがいざ立派に成長した金坊を目にすると涙で何も見えず、言葉も出てこない。東北の、そして本道のファンも今それと同じ気持ちになっているのでないか

 ▼駒大苫小牧高出身で元東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大投手が日本球界に帰ってくる。米大リーグのヤンキースからフリーエージェント(FA)になり、楽天への再入団を決めたという。8年ぶりの古巣復帰である。現在、米球団はコロナ禍でどこも火の車。FAになったものの、残留も移籍もすんなりいかない事情もあったようだ。ただ、東日本大震災から10年。楽天時代に自身が経験し、苦しい時を地域と共に乗り越えてきた田中には、このタイミングでの復帰に特別な思いもあったらしい。その心意気や良し、である

 ▼甲子園で活躍していたころから注目していたファンからすると、ますます成長した「マー君」の姿に感心するやら驚くやら。ことしは本道に来る機会もあろう。熊さんの心境が少し分かる。


サラリーマン川柳

2021年02月01日 09時00分

 小説家の町田康さんがエッセーに「心の強化のマナー」について書いていた。現代は表向き優しい社会のため、暗い感情が裏に回り、少しの言葉にも傷つく人が増えたというのである。だからあえて、「刺激的な言語というものを用いて、人の心を強化する」必要があるとの主張だった

 ▼もちろん冗談半分だが、一面の真実を含んでもいよう。こちらはそんな心の強化にぴったりでないか。かなり刺激的な言葉も並ぶ。ことしも第一生命の「サラリーマン川柳」(第34回)優秀100句が発表になった。珠玉の作品を幾つか紹介したい。「十万円見る事もなく妻のもの」はかなき夢。確かにもらったはずの特別定額給付金だが一体どこへ行ったか

 ▼「ハンコ不要出社も不要次はオレ?」我楽多魔手箱。なくてもいなくても仕事は回る。実は自分が一番よく知っていた。「我が部署は次世代おらず5爺(ファイブジイ)」松庵。これは5Gのことだよ、と教えられてもピンとこなければもう立派に「爺」の仲間である。今回目立つのはやはり新型コロナ関連だ。「咳き込んで視線が痛い電車内」愛飲酒多飲。いや、これは、唾が変な所に入っただけで…。心の中で必死に言い訳した人も多かったに違いない

 ▼「マイクON部長の悪口配信中」逆ペリカン。リモート会議ゆえの悲劇だが、意外と悪口を言った人の評価が後から社内でうなぎ上りだったりして。「密ですとますます部下は近よらぬ」急いで待て。一応上司なのだが部下にはウイルスと思われているのだろうか。優秀100句全作品は同社のHPでどうぞ


ワクチン

2021年01月29日 09時00分

 体内に侵入して病を発症させる異物に抵抗し、健康を保つ働きをする免疫(immunity)の語源は〝神のご加護〟である。聞いたことがある人も多いのでないか

 ▼中世ヨーロッパで黒死病とも呼ばれたペストが猛威を振るったとき、幸運にも生き残った人は患者と接しても二度と病気にかからなかった。それが神のご加護だと信じられ、ローマ教皇が恵みを受けた人の税金を免除したことから発した言葉という。ただ、神は忙しいし気まぐれなところもある。加護を待っていては死人が増えるばかり。そこで開発されたのが人工的に免疫を獲得するワクチンである。ジェンナーが天然痘の予防に牛痘を使ったのが始まりだ。現在、天然痘は根絶。世紀の発見といわれるゆえんである

 ▼ところが日本ではこのワクチンに拒否反応を示すマスメディアや市民活動家が少なくない。新型コロナワクチンの接種開始が間近に迫るこのごろ、副反応や危険性をことさらあおるテレビや雑誌、新聞をよく見掛けるのである。特定の新聞がかつて火を付けたために日本は子宮頸(けい)がん予防のHPVワクチン接種が今も世界から立ち後れたままだ。その轍(てつ)を踏んではなるまい。この大事な時期に人騒がせは困る

 ▼どんなワクチンにも絶対安全はないが、公益性が十分に高くリスクが限られるなら積極的に接種を進めるべきだろう。新型コロナの場合も同じである。厚生労働省と川崎市が27日、国内初の大規模訓練を実施した。一日も早く世界中にワクチンが届けられ、あまねく〝神のご加護〟のあらんことを。


感染症法改正

2021年01月28日 09時00分

 少し先の未来に起こる殺人を事前に察知し、犯人となる人物を先に逮捕することで犯罪を未然に防ぐ。トム・クルーズ主演の米SF映画『マイノリティ・リポート』(2002年、ドリームワークス)はそんな物語だった

 ▼予知能力を持った3人の「プリコグ」の報告に基づき、トムら犯罪予防局の刑事が近い将来殺人事件を犯す人物の確保に向かう。このシステムの導入でワシントンDCから殺人事件は一掃される。ただ、逮捕される方はたまったものではない。その時点ではただ普通に毎日の生活を送っているだけなのである。「あなたは将来殺人を犯します」と突然宣告されて、「はい分かりました」と納得する人はいないだろう

 ▼今国会で議論が進むインフルエンザ特別措置法と感染症法の改正案で、入院に応じない感染者へ罰則を与えることに違和感を覚えるのもそれと似たところがある。「入院に応じない」段階ではまだ感染を広げているとはいえない。改正案は未来の出来事に網をかけるものなのだ。ウイルス保有者が明確な意図を持って他人に感染させたのなら傷害罪が成立しよう。罰則があるのも当然である。一方、新型コロナの場合、感染経路は不明なことが多く、感染者10人のうち8人は感染を広げないとされている。公正な法の執行は本当に可能なのか

 ▼先の映画では刑事のトムが殺人者と宣告され、当局に追われる羽目となる。予知の暴走のようだが誰も止められない。感染症法改正もそれ自体が人権の侵害や新たな差別、分断を生む原因にならないよう慎重に取り扱わねばなるまい。


日本式教育

2021年01月27日 09時00分

 宮沢賢治の『風の又三郎』にこんな場面があった。その日の授業が終わったところである。先生が子どもたちに言う。「きょうはここまでです。あしたからちゃんといつものとおりのしたくをしておいでなさい。それから四年生と六年生の人は、先生といっしょに教室のお掃除をしましょう」

 ▼学校には掃除当番がつきもの。好きだった人は多くなかろうが、自分が使った場所をきれいにする習慣は自然と身に付いた。日本人なら児童や生徒が学校の掃除をするのは当たり前だが、実は世界ではあまり例がない。業者に任せるのが一般的らしい。その起源は定かでないものの、修行はまず身の回りを整えることからという仏教や神道の影響も大きいようだ

 ▼そうした日本式教育を取り入れ、成果を挙げているのがエジプトである。2016年ころから日本政府や国際協力機構(JICA)の協力も得て、学校掃除や学級会、日直、保護者参加活動などを実践。子どもたちに協調性や規律を守る心が育っているそうだ。その流れを加速しようと、今度はエジプト政府が日本人の校長経験者を指導役として招請する計画を進めているのだとか。最大で100人というからなかなかの規模である。読売新聞が26日付で伝えていた

 ▼日本の教育文化が他国に認められるのはうれしいものである。学校で整理整頓や手洗いの習慣、他者への気配りが身に付けば、これからの時代に必要な感染症対策にもなろう。あえて一つ心配な点を挙げるとすると、そのうち男子が掃除中にほうきでチャンバラを始めることくらいだろうか。


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