コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 124

ステージ2

2020年10月30日 09時00分

 かねがね気になっていることがある。それはテレビのニュース番組が47都道府県の違いを伝えるときの地図の扱いだ

 ▼例えば特殊詐欺に加担した公務員の全国調査があって、北海道にも1人いたとしよう。すると本道全体が赤色に塗られて放送されるのである。実は札幌で1人だけだったとしてもだ。東京が100人、本道が1人でも赤の面積は本道の方が広い。本道全体で悪事で行われているように見えはしないか。こういった例が度々ある。条件は47都道府県どこでも同じとはいうものの、本道の面積は東北6県に新潟を加えたより広い。一つの色で塗りつぶすと逆に実態がつかめなくなると思うのだがどうだろう

 ▼ところでこの一色塗り、全国ニュースに限った話ではなかったようだ。道がおととい、新型コロナウイルス感染対策の警戒ステージを1から2に引き上げた。振興局ごとにステージに差をつけているわけではない。東北6県に新潟を加えたより広い本道全体をステージ2の一色で染めたのである。道民が気持ちを一つにして感染の抑え込みを、という鈴木直道知事の願いはよく分かる。ただ感染者が札幌に大きく偏っている中で、警戒度の引き上げを全道同じにする必要が果たしてあったのか

 ▼これから2週間の集中対策期間に数値が下がればステージを元に戻すというが、上がった場合は逆に全体を3や4にしなければならなくなる。感染を抑え込むにも経済を止めないためにも、広域分散型の本道の地域特性を考慮した独自のきめ細かな色分けがあっていい。簡単に一色で染めるのでなく。


核兵器禁止条約

2020年10月29日 09時00分

 ことし5月、白人警官が黒人男性を確保しようとして死亡させた事件を発端に、全米を巻き込む抗議運動が起こった。運動の象徴となったのが、抗議者らがワシントン州シアトル市の一部を占拠してつくったキャピトルヒル自治区である

 ▼市内にいわば無法地帯ができたわけだが、当初、民主党のジェニー・ダーカン市長は抗議に共鳴し、「お祭り」だ「愛の夏」だと言って自治区を黙認。警察に手を出させなかった。それなのに、である。3週間後、住所を公表していない市長の自宅に抗議運動参加者が多数押し寄せた。騒ぎを起こし、身勝手な要求を突き付けたのだ。市長は態度を変え、数日後、警察に自治区解体を命じたという。理想の社会を夢見るだけでは現実を動かせないのである

 ▼開発や保有、使用など核兵器に関わる一切を網羅的に禁止し、平和な世界を目指す「核兵器禁止条約」に異様なこだわりを持つ人にも市長と似たものを感じる。先週、批准国・地域が50に達し、来年1月の発効が決まった。意義のある条約だ。ただ、日本は参加を見送った。内外から批判の声も上がったが、的外れだろう。日本に核兵器の照準を合わせる国が近隣にある中で、抑止力を自ら捨てる選択はできない

 ▼日本は唯一の被爆国として他のどの国より核兵器なき世界を願っている。現実的に段階を踏んで減らしていく核拡散防止条約を批准しているのもそのためだ。いくら理想を叫んでも、ならず者は聞く耳を持たない。核廃絶を願う者同士けんかをすることはないのだ。それぞれの国ができることをすればいい。


人気爆発「鬼滅の刃」

2020年10月28日 09時00分

 漫画家吾峠呼世晴さんの作品『鬼滅の刃』の人気が爆発している。この手の流行で大げさな「爆発」の言葉はあまり使いたくないが、今はそうとしか言いようがない

 ▼『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載されていた漫画で、アニメ化されて人気に拍車がかかった。最近公開された映画『劇場版鬼滅の刃 無限列車編』に至っては、公開から10日間で約800万人が鑑賞し、興行収入が100億円を超えたのだとか。20年近く収入100億円最速記録を保持していた『千と千尋の神隠し』(スタジオジブリ)でも、達成までには25日間かかったというのだからやはり「爆発」である。とはいえ連載中からのファンだった筆者にとっては意外でもない

 ▼鬼の始祖によって鬼に変えられた妹を人間に戻すため、仲間と旅をしながら剣士としても成長する竈門炭治郎少年の物語だが、登場人物一人一人の内面が丁寧に描かれているところは一編の文学を読む思いがする。少年誌ならではの迫力の剣げき場面も申し分ない。大人の批評眼にも耐える質の高さが幅広い年齢層に支持された理由だろう。鬼の始祖がこう語るシーンが記憶に残る。「私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え」。この勝手な言い分を聞いた炭治郎は必ず敵を倒すと決意を新たにしたのである

 ▼コロナが猛威を振るう今、一層胸に響くやりとりでないか。子どもたちも何かと我慢を強いられるご時世、たまにはこんな楽しい事があっていい。コロナで沈滞したムードを仲間と力を合わせてなぎ払う。そんな風にも見えるこの人気である。


JR日高線廃止へ

2020年10月27日 09時00分

 世界中の人が当時、祈るような思いで見ていた。南米チリ北部のサンホセ鉱山落盤事故のことである。作業員33人が地下に閉じ込められ、69日後に全員が生還した。事故が発生したのは8月。救出活動が終わったのは10年前の今月だった

 ▼事故発生直後は作業員がどこにいるのかも分からない。しばらくたって地下634mの坑道内で生存していると判明したものの、あまりの深さに一時は生還が絶望視されたものだ。ところがどんな困難を前にしても救出チームは諦めなかった。各国からも技術や知恵、資金が続々届けられた。チームを支えていたのは「一人も見捨てない。全員生きて地上に返す」との強い思いだったそうだ。作業員たちにとってはその思いこそが希望だったろう

 ▼JR日高線鵡川―様似間沿線の7町長が23日、JR北海道が求めていた鉄路廃止に正式同意したとの報に接し、10年前のチリ鉱山での出来事を思い出した。沿線住民の多くもやはり、見捨てず救ってほしいと願い続けていただろう。2015年の高波で厚賀―大狩部間の線路が崩壊して以来、不通になっていた。維持費や復旧費を巡り、運行再開へ向けた協議が暗礁に乗り上げてしまったのである

 ▼JR北の経営難や利用者の減少を考えると廃止やむなしの面はあろう。ただ、ふに落ちないのは国や道がはなから前面に立とうとせず、住民生活を元に戻そうともしていないように見えたことである。「一人も見捨てない」との気概に欠けていたのでないか。この5年、鉄路ばかりか希望も宙ぶらりんにされてきたとすれば悲しい。


妊娠届減少

2020年10月26日 09時00分

 動物が突然の環境変化に対応するため、常識外れの能力を発揮するのにはいつも驚かされる。中には妊娠を一時止める「発生休止」という現象もあるそうだ

 ▼シカやネズミ、アザラシなど哺乳類の一部で、そんな自然の摂理に反するかのような生態が観察されるという。飢餓状態が長く続き授乳できない、気候が子育てに適さないといった過酷な状況に陥ると妊娠をいったん休止。母親の環境が良くなると再開される。根本的な仕組みはまだ詳しく分かっていないらしいが、野生の厳しい生存競争の中で生き残るには必要な能力なのだろう。遠い昔に野生を失った人間には縁のない能力と思っていたが、もしかするとそうでもないのかもしれない

 ▼厚生労働省が全国の妊娠届を緊急調査した結果、ことし4―7月の届け出件数が前年同期比11.4%減になっていたというのである。新型コロナウイルス感染拡大の不安が高まったことで、減った可能性があるという。生物学的でなく社会的に妊娠が抑制されたわけだ。21日の発表によると最も減少幅が大きかったのは5月の17.1%減。件数は4月から一貫して前年を下回っている。目に見えないウイルスと底知れぬ収入減がダブルで襲ってきたのでは、子育てに二の足を踏むのも無理はない。野生の勘が働いたということか

 ▼ただ、昨年90万人を割った出生数が来年は80万人にも届かないとの見方も出ているそうだ。少子高齢社会の日本にとっては泣き面に蜂である。このままでは将来に禍根を残す。一日も早く安心して産み育てられる環境を取り戻さなければ。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 東宏
  • 北海道水替事業協同組合
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,405)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,316)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,316)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (1,120)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,065)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。