コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 146

サラリーマン

2020年05月18日 09時00分

 さほどヒットはしなかったが、ロックミュージシャン忌野清志郎さんの歌に「サラリーマン」(1994年)と題する一曲があった。テレビドラマ『ボクの就職』(TBS系)の主題歌に使われていたためご存じの方もいよう

 ▼歌い出しはこうだった。「サラリーマンのドラマ 君に見せてあげたい 映画のように すぐには終らない 遠く 遠く 続くこのドラマ」。地道に働く人への敬意が感じられる歌詞である。第一生命保険が全国の幼児と児童を対象に毎年実施している「大人になったらなりたいもの」調査の19年版が先頃発表になった。今回は順位もさることながら他にも気になる点があった。調査が始まった30年前との違いである。順位は変われど多くの職業が今も名前を残している中、サラリーマンだけが男の子の「なりたいもの」から消えているのだ

 ▼89年の第1回で9位、第2回で10位、そして第3回で9位に入ったきり、後は現在までベスト10に顔を出していない。どこへ行ってしまったのか。選択項目から削除したのかもしれないが、いずれにせよ人気がなくなったことに変わりはあるまい。第3回の91年といえば、バブル経済が崩壊した年だ。同時に就職氷河期とリストラの大嵐が始まり、サラリーマンを気楽な稼業とみる人は一気に減った。そんな世情が子どもに影響を与えないわけがない

 ▼先の調査ではサラリーマンと入れ替わるように大工と食べ物屋さんが現れ、現在に至っている。手に職をとの思いかもしれない。さてコロナ後の来年、子どもたちはどんな仕事を選ぶのだろう。


キャベツの値段

2020年05月15日 09時00分

 最近、野菜が高い。夕飯を食べているとき、わが家の財務大臣がしきりと嘆くのである。「きょう買い物に行ったら、キャベツ一玉が300円以上したのよ。何がどうなってるの」というわけだ

 ▼ことしは出来が良く出荷も早かったため2月頃までは供給過剰ぎみだったという。ところが新型コロナウイルスをやり過ごすための「巣ごもり」で内食が増え、逆に3月には高まった野菜需要に追いつかなくなったらしい。これではキャベツも気軽に食べられない。農林水産省の食品価格動向調査を見ても、4月13日の週の価格は平年比でキャベツが119%、レタスが112%、キュウリが115%と高い。感染防止のための調査休止で現在の価格は分からないが、もっと上がっているのでないか

 ▼自粛の影響がそんなところに現れていたとは意外である。とはいえ新型コロナは実際、経済のあらゆる分野に影を落としているようだ。トヨタ自動車でさえ来年3月決算の営業利益を8割減と予想しているくらいである。既に足元はだいぶ暗い。内閣府が12日発表した3月の景気動向指数の速報値は90・5で、東日本大震災があった2011年3月以来、8年9カ月ぶりの低水準だった。しかも数カ月先の景気を示す指数は83・8とさらに下落していたそうだ

 ▼政府の財政出動が必要なのは当然だが、より以上に大切なのは経済活動を元に戻すことだろう。出口はもう見えかけている。「雨だれのリズムで刻むキャベツかな」櫻井了子。キャベツでコロナを思い出すこともない日常が一日も早く戻ってくることを願う。


気の持ちよう

2020年05月14日 09時00分

 手記を一つ紹介したい。感染症がまん延した社会とそこで苦しむ人々を観察した記録である

 ▼始まってすぐにこんな一節が出てくる。「うめきながら、彼らが飲むもの食べるもの、全部味がしない。ひとりぼっちで体調が回復するまで、12日間を指折ってふとんの中で待つ以外ないのである」。最近の話だと言われてもまるで違和感はないが、実は作家で浮世絵師の式亭三馬が1803年に書いた『麻疹戯言』である。当時江戸では、はしかが猛威を振るっていたのだ。国文学研究資料館のロバート・キャンベル館長が新型コロナウイルスに悩む現代人の参考になればと、感染症を題材にした古典を動画で披露していた

 ▼この手記の特徴はユーモアにあるという。貴人も貧乏人と変わらず病にかかり、御簾(みす)の奥から高級なお香とともに漢方薬の匂いが漂ってくる、といった記述もあるそうだ。恐怖と不安でぎすぎすしている世の中を、三馬は笑いで和らげようと考えたのだろうとキャンベル館長は解説する。今も笑顔を忘れている人は多いに違いない。自分がどこかでウイルスを拾わないか、誰かに感染させてしまわないかと恐れ、一方では対策が甘い人に怒りを感じてしまう。長過ぎるストレスのせいで心のバランスを崩しているのだ

 ▼政府はきょう、感染拡大の懸念がなくなりつつある30あまりの県で緊急事態宣言を解除する。残念ながら本道はまだ特定警戒都道府県から抜けられず先送りらしい。自粛はもう少し続く。気の持ちようが大切だろう。ここは三馬に倣いできるだけ笑うよう心掛けたい。


はやぶさ2が第2期イオンエンジンの運転開始

2020年05月13日 09時00分

 固いアスファルトを突き破って草花が顔をのぞかせている。春になるとよく見掛ける風景である。二人組音楽ユニット「コブクロ」も春の定番曲『桜』の中で、「土の中で眠る命のかたまり アスファルト押しのけて」と歌っていた

 ▼それほど強い力を持っているわけではない植物でも、少しずつ休むことなく力を出し続ければ、大きな仕事を成し遂げられるということだろう。植物の生命力の強さを思い知らされる。ところで小さな力の積み重ねが飛躍につながるこの働きは、何も植物の専売特許でない。最先端の技術にも見ることができる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されたイオンエンジンがそうだ

 ▼ガスを爆発的に噴出させる化学推進と違い、はやぶさ2はキセノンガスをイオン化して噴射する。噴射口は4台あるが、1台当たりの出力は1円玉1枚にかかる重力ほど。こんなに弱い力でも連続運転で加速を重ねると、やがて宇宙を駆ける速さを獲得できるのだ。きのう、はやぶさ2が第2期イオンエンジンの運転を開始した。小惑星「リュウグウ」の軌道を離脱する昨年12月の第1期に続き、今期はいよいよ地球軌道に戻る運用になる。JAXAによるとまだ距離が遠く、太陽エネルギーが十分でないため1台しか稼働していないものの、動作は安定しているそうだ

 ▼地球軌道に乗るのは9月頃。12月末には宇宙誕生の秘密が刻まれた採取物質が地球に届けられる。できればその日までに新型コロナウイルスを収束させ、ハイタッチで喜びを分かち合いたい。


#検察庁法改正案

2020年05月12日 09時00分

 知識がないのを人に悟られたくないばかりに、つい知ったかぶりをしてしまう。誰にでも覚えがあることでないか。落語の「転失気(てんしき)」はそれを笑いにする

 ▼体調を崩した住職に、医者が「てんしきはありますか」と尋ねた。何か分からない住職は小僧に「すぐてんしきを買ってこい」と耳打ち。小僧が花屋に行くと、「今朝まであったが落として壊した」。次の八百屋では、「さっき食べてしまったよ」。あちこち駆けずり回ったが手に入らない。困り果てた小僧が諦めて先の医者を訪ねて教えを請うと、「てんしき」は「放屁」だとのこと。住職は知ったかぶりをしたばかりに、後で底の浅さを笑われる羽目に陥ってしまった

 ▼こちらもその噺と似た趣がある。ツイッター上で9日から10日にかけて、「検察庁法改正案に抗議します」との文言に#(ハッシュタグ)を付けたツイートが500万件近くもあったそうだ。著名人の投稿も多かったらしい。NHKはじめ主要メディアが大きく報じていた。抗議は以前に問題視された黒川弘務東京高検検事長の定年延長に絡むもので、要は政権の司法介入を許さないというのである。ただ、これは見当違い。国会で今審議しているのは国家公務員の定年を段階的に引き上げるための法改正で、検察官の定年もその一環。そもそも民主党政権時代からの懸案である

 ▼著名人らもある程度調べてから投稿すればいいものを、知ったかぶりをするとやはり後で恥をかく。しかもツイートのほとんどは水増しだったというから見抜けなかったメディアも情けない。


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