コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 150

新型コロナの真実

2020年04月14日 09時00分

 洪水のような情報に日々さらされていると、何が本当で何が間違いかさっぱり分からなくなる。物理学者の寺田寅彦もそのことを苦々しく感じていたようだ。随筆にこんな興味深い見解を記している

 ▼「きのうの出来事に関する新聞記事がほとんどうそばかりである場合もある。しかし数千年前からの言い伝えの中に貴重な真実が含まれている場合もあるであろう」。鋭い観察眼による氏の世相分析には定評があった。ただ、こちらの真実を見つけるには数千年もさかのぼる必要はない。半年ほどで十分だろう。新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)を起こした原因である。世界中の人が今、同じ疑問を抱いているのでないか。「そもそもどうしてこんな事態に―」

 ▼あらためて振り返ると中国が昨11月頃発生した正体不明の感染症を当初、隠蔽(いんぺい)しようとした事実に突き当たる。本来なら即刻封じ込め措置が取られるべき最初期に、感染者は自由に国内外を往来しウイルスを拡散させた。台湾が11日に明らかにした事実がある。昨12月末、武漢の感染症への懸念を世界保健機関(WHO)に伝えていたというのだ。WHOはこれを無視した。その後の経過を見ると中国に配慮したと勘ぐられても仕方ない

 ▼一足先に危機を脱した中国は現在、自国の感染症対策を誇り、マスク外交を展開し、弱った海外企業の株を買いあさっていると聞く。率直に言ってどうかと思う。今は日本含め多くの国が感染拡大防止に必死でそれどころでないが、終息した暁には真実を求める声が一層高まろう。


不安を力に

2020年04月11日 09時00分

 日本人が幸福を感じにくい民族であることはよくご存じだろう。先月公表された国連の2020年版「世界幸福度ランキング」でも153カ国中62位と、いつもながら先進国としては低位に甘んじていた

 ▼豊かな経済や高度な民主主義の下で暮らしているのに一体どうしたわけか。その辺の事情について脳科学者の中野信子さんは、日本には「幸福度が高いことが生存に不利になる可能性」があったのではと指摘する。近著『空気を読む脳』(講談社)に教えられた。自然災害の多い国に楽観や緩い空気は禁物だったのかもしれない。ただ、中野さんはむしろこの精神性を有利と見る。「ネガティブな未来を感じる力」が「あらゆる不測の事態に対する準備を私たちにさせて、より生き延びる確度を上げる」というのだ

 ▼日本で新型コロナウイルスが海外のように感染爆発を起こしていないのも「未来を感じる力」のおかげなのでないか。感染者数こそ増えているものの、死者は85人(9日現在)にとどまっている。小学生の時、給食の前に「せっけんで手を洗おう~」の歌とともに手洗いしたのを覚えている人も多いに違いない。われわれはただ水で流すのでなく、せっけんを付けて隅まできれいにする教育を受けて育ったのである

 ▼高温多湿で食中毒が発生しやすいため国を挙げて取り組んだとも聞く。やはり恐れの心理が衛生的な習慣を生んだのだ。中野さんは「日本人は不安を力に変える」能力があるとする。ならばこの際、幸福度はひとまず脇に置いて、ウイルス撲滅のため不安を武器にするとしよう。


道内で特殊詐欺横行

2020年04月10日 09時00分

 どうしても欲しいが他人の物で簡単に譲ってもらえそうもないときはどうすればいいか。落語「猫の皿」では茶屋で使われている猫の餌皿を手に入れたい客が、いろいろ策を弄(ろう)して店の主人をだまそうとする

 ▼古道具に目が利く客はその皿が三百両は下らない逸品と見たのだった。自分も猫を飼っているだの、ちょうどいい餌皿を探しているだの口から出任せを言い放題。主人から取り上げようと手を尽くす。落語だから笑えるものの、実際にこんな怪しい客がいたら大いに警戒するに違いない。ところが現実にはだまされるまで気付かない人が後を絶たないのである

 ▼道内で被害が加速している。道警が8日公表した2020年3月末時点の特殊詐欺事件発生状況(暫定値)によると、認知件数は39件、被害総額は9831万円に上った。前年同期に比べ13件、3970万円増えている。種別で最多は17件のキャッシュカード詐欺。不正利用されているから回収するなどと言って、だまし取る手法である。次いで多いのは銀行口座におかしな点があるとして通帳や暗証番号の提供を求める預貯金詐欺の13件。どちらも警察官や銀行関係者を装って現れるのが特徴である。一方で従来型のオレオレ詐欺は1件のみ。詐欺団も次々と新手を繰り出しているようだ。知識を更新しないとだまされてしまう

 ▼さて、先の噺では主人が断固として皿を渡さなかった。客が訳を聞くと「高価な物だから盗まれないよう安物に思わせている」。主人に倣って詐欺団の考えを読み、うまく出し抜いて警察に突き出したい。


緊急経済対策

2020年04月09日 09時00分

 二宮金次郎の言葉を弟子が書き留めた『二宮翁夜話』に、飢饉(ききん)を救う話がある。翁は各地で救済を成功させているが、烏山藩ではこんな方法をとったそうだ

 ▼まず老人、幼児、病人、婦女子といった社会的弱者を一カ所に集め、十分ではないものの何とか飢えをしのげる程度の食事をしっかり与える。同時に健康な男女に対しては、できる仕事を考えわずかでも金を稼ぎ、飢饉後に備えるよう諭したという。本当の危機に直面したときには、官民問わず一人一人に我慢と工夫が求められるということでないか。それは現代も変わらない。新型コロナウイルス感染拡大による経済危機に対処するための政府の緊急経済対策が固まった。はっきり言えば物足りなさを感じる内容である

 ▼過去最大規模となる総額約108兆円の事業費を積み上げてはいる。なのに不足を感じるのは低所得世帯などへの給付金が4兆円、収入が激減した企業へのそれは2兆円と、現金で直接支給される施策が過小に見えるからだ。とはいえ当座をしのぐ現金があるのとないのとでは大違い。金次郎の時代に置き換えると、この営業自粛で収入を失う人々が今回の社会的弱者というわけだ。その他の人には無利子融資や雇用調整助成金、納税猶予を使って消耗を最小限にとどめ、挽回のための力をためてもらう

 ▼考えてみればあしたも見えぬこの段階で完璧な経済対策など出せるはずもない。あえて言うなら国民が協力して一日も早く流行を終息させることが一番の経済対策だろう。そのためには今を我慢と工夫で乗り切りたい。


緊急事態宣言 

2020年04月08日 09時00分

 現実を正しく把握するには思い込みを捨てねばならない―。その方法を説いて世界的ベストセラーとなった『ファクトフルネス』の著者ハンス・ロスリング氏は、医者で公衆衛生の専門家でもあった

 ▼モザンビークで働いた過去の経験を著書に記している。病院には肺炎やマラリアといった重病で毎年1000人ほどの子どもが運び込まれた。そのうちの20人に1人は命を落とす。毎週1人は亡くなっていたのである。医師も薬も設備も足りない。命を救えず悩むハンス氏はある日、病院という思い込みに気付く。答えは病院の外にあったのである。地域の衛生環境だ。それからは人々に自覚を促し、地域全体で改善に努めた。死者は劇的に減ったそうだ

 ▼これも同じだろう。きのう、安倍首相が改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。わが国でも医療が崩壊し、新型コロナウイルスの犠牲者に歯止めがかからなくなる局面が近づいている。それを国民に自覚させる必要があった。今回は感染拡大が続く東京をはじめ7都府県を対象とした。緊急の場合は医薬品や食品の強制収用が可能なほか、臨時医療施設開設のためなら土地や建物を所有者の同意なしで使える

 ▼ただ他国と違い私権を制限する力はない。知事にできるのは、今までと同じ外出自粛の要請や遊興施設など特定施設の使用制限のみ。それだけに個人の節度ある行動が成功の鍵になる。いつも以上の冷静さが求められよう。今は一人一人がコロナに病む社会の回復に取り組む治療者であることを忘れてはいけない。


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