コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 153

どうなる東京五輪

2020年03月24日 09時00分

 関東大震災では推定マグニチュード7・9の巨大地震が首都圏を直撃した。1923年のことである。建物はことごとく崩壊し、一面焼け野原と化した。全壊や全焼、流出した家屋は29万棟、死者は10万人を超えたという

 ▼当時の映像を見ると本当に想像を絶する。ところが日本はどん底から驚異の復興を遂げる。1940年に東京で開かれるはずだったオリンピックには、その姿を世界に広める目的もあったらしい。ご存じの通り日中戦争の勃発により日本は開催地を返上する。間もなく第2次世界大戦が始まったためこの40年と44年のロンドンは中止になった。奇妙な巡り合わせだが、東日本大震災から復興しつつある日本を国際社会にアピールする狙いがあったことしの東京五輪にも暗雲が垂れ込めている

 ▼新型コロナウイルスの世界的感染拡大で、7月の開催が危ぶまれているのだ。列強が足並みをそろえて日本に圧力を加えた戦前のABCD包囲網ではないが、見直しの動きは日ごとに強まってきている。各国の対策が正面撃破から感染ピークを抑えて集団免疫を獲得する長期戦に変わってきた以上、4カ月後に終息しているとは考えにくい。アスリートも練習や調整には苦労していると聞く

 ▼事ここに至っては仕方がなかったのだろう。安倍首相はきのうの参院予算委員会で「国際オリンピック委員会の決定は尊重する」と延期を容認する考えを示した。〝平和な社会を推進する〟五輪精神を実現するには、まずコロナからの復興を成し遂げることである。その先頭にホスト国の日本が立てるといい。


かっこいい

2020年03月23日 09時00分

 春分の日が過ぎ3月も下旬に入った。新型コロナウイルス騒動で気もそぞろになっている間も、月日は確実に巡っていたようだ。来週からは新年度が始まる。新人を迎え入れる職場も多いのでないか

 ▼「初仕事コンクリートを叩き割り」辻田克巳。「初仕事」は新年の仕事始めのことで冬の季語だが、この句は古い殻を破り新たな環境に飛び込む新人の決意を表しているようにも読める。今はさぞ気合が入っていよう。仕事について記憶に残っている話がある。成人式でのことだ。一人の若者がクロネコヤマトの仕事着のまま会場に入ってきた。受付の人が聞くと、「休むとお客さんに荷物を届けられなくなるから仕事の合間に立ち寄った」とのこと

 ▼式典が終わると急いで立ち去ろうとする若者に、受付の人はこれから記念写真の撮影があると伝えた。すると若者は「こんな格好だから…」と辞退しようとしたという。受付の人はすかさずこう言ったそうだ。「何言ってるのよ!あなたが一番かっこいいですよ」。宮崎中央新聞社の水谷もりひと編集長が著書『日本一心を揺るがす新聞の社説2』(ごま書房新社)で紹介していた逸話である。仕事に誇りと責任を持つ若者も立派だが、それに気付き声を大にして「かっこいい」と伝えた受付の人も実に素敵だ

 ▼建設現場なら作業服、事務や営業ならスーツ、介護ならジャージと仕事着にもいろいろある。新人たちもこの春から、そのどれかで身を包むことになるのだろう。それがどんな格好であれ、誇りを持って一生懸命働いている姿は間違いなくかっこいい。


新型コロナが世界の弱さあらわに

2020年03月19日 09時00分

 ことわざでいう「蟻の穴から堤の崩れ」はちょっとしたことが大変な事態を招くとの意味だが、物体は弱い所から壊れていく事実を示してもいる。木材が細い所から折れ、紙が薄い部分から破れるのを誰しも経験していよう。百均の充電ケーブルの端部がすぐに壊れるのもそこの作りが雑だからに違いない

 ▼一見問題がなさそうな物でも外から大きな力が加わるとすぐに弱点があらわになる。案外隠せないものである。これは社会も同じ。今は新型コロナウイルスが世界の弱い所をあぶり出している。欧州は感染爆発を起こしたイタリアが顕著だが、衛生意識の低さに加え、政府の感染予防対策より個人の意思を優先させる国民性が裏目に出た。EU域内で人の行き来が自由なのも災いしたらしい

 ▼非常事態宣言が出された米国では信じられるのは自分だけとばかり銃が普段の数倍売れているという。また中国は初期の段階で事実を隠蔽(いんぺい)し、世界に感染を広げるという共産党独裁の一番悪い部分が出た。ただ最も危ういのは日本を含め各国が共通して持つ不確かな情報に踊らされる弱さだろう。この程度の感染拡大でリーマンショック以上ともいわれる金融危機など本来起きるはずがない。過剰な自粛により経済活動も停滞を強いられている

 ▼病気をなめてはいけないが、恐れすぎてパニックに陥ってしまっては冷静な判断ができない。現下の世界はそんな危険な状態に近付きつつあるのでないか。うかうかしていると、新型コロナウイルスでなく疑心暗鬼の穴から世界の堤は決壊するかもしれない。


やまゆり園事件に判決

2020年03月18日 09時00分

 童謡「ぞうさん」や「一ねんせいに なったら」の作詞でも知られる詩人のまど・みちおさんは、こんな考えを持っていたそうだ

 ▼「私は私という人間ですけど、こういう人間になってここにいようと思ってここにいるわけではないんです。私だけでなくてあらゆる生き物がそうなんです。気がついたら、そういう生き物としてそこにいる。ということは、やっぱり、生かされてるっちゅうことじゃないでしょうか」。100歳の時の言葉だという。『どんな小さなものでも みつめていると 宇宙につながっている』(新潮社)に教えられた。全ての生き物は生かされてここにいる。小さな命にも常に優しいまなざしを向け続けたまどさんは、生涯を通じそれを伝えてきたのだ

 ▼2016年に相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人を殺害し殺人罪に問われた植松聖被告の頭には、最後までそんな考えはかけらも浮かばなかったに違いない。16日、横浜地裁は求刑通り死刑判決を言い渡した。まどさんの詩を引く。〝ぼくが/ここに/いるとき/ほかの/どんなものも/ぼくに/かさなって/ここに/いることは/できない(略)ああ/このちきゅうの/うえでは/こんなに/だいじに/まもられているのだ/どんなものが/どんなところに/いるときにも/その「いること」こそが/なににも/まして/すばらしいこと/として〟

 ▼入所者が全力で生きようとして「いること」、家族らに愛されて「いること」。その素晴らしさに気付こうともしなかった惨めな人間の末路がこれである。


共犯関係

2020年03月17日 09時00分

 ニュースや事件物のテレビドラマで見た覚えがある人も多いのでないか。犯罪集団が内部の結束力を強めるため昔からとっている方法に、構成員一人一人に法律を破る悪事を働かせるやり方がある

 ▼その中身は暴行や盗み、詐欺など犯罪そのものから、見張りや下準備、逃走の手伝いといった後方支援までいろいろだ。捕まるときは一蓮托生(いちれんたくしょう)。共犯関係を作り、裏切りをできにくくするわけだ。関西電力の役員らが高浜原子力発電所が立つ福井県高浜町の森山栄治元助役から表に出せない金品を受領していた事件も、それと似た構図があったらしい。第三者委員会が14日に報告書を発表した。懇意の企業に工事を受注させ自分も利を得たい森山氏と、地元で隠然たる力を持つ森山氏を使って原発事業を円滑に進めたい関電。そこにあったのはある種の共犯関係である

 ▼その結果が30年以上にわたる森山氏と関電の異常な癒着だった。水をも漏らさぬ鉄壁の秘密主義は犯罪集団も顔負けだろう。この間に金品を受け取った役職員は75人で、総額は3億6000万円にも上るという。ただ報告書には、受け取りを断ったときの森山氏のどう喝や嫌がらせがひどく、自身と家族への危害や事業妨害など現実の恐怖もあったと記されている。耳を疑う内容だ

 ▼とはいえ関電の「事なかれ主義」が森山氏を増長させたのも事実。経済産業省はきのう、関電に電気事業法に基づく業務改善命令を出した。再発防止や企業統治の強化を求めるという。共犯関係による結束などいつまでも続くものではない。


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