放っておけない―。地域包括ケアを先導してきた鎌田實諏訪中央病院名誉院長はそんな気持ちに駆り立てられてきたらしい
▼若いころ無医地域に飛び込み、力及ばず亡くなっていく人を大勢見た。当時は制度的な助けもない。文句を言っていても仕方がないと、できることから少しずつ始めたそうだ。健康相談や「寝たきり」の人のケアなどである。すると徐々に病人は減り、住民にも認められるようになったという。多くの経験を経て、鎌田先生はこう確信したそうだ。「結局、見て見ぬふりをしないことが大切」。『トットちゃんとカマタ先生のずっとやくそく』(新潮文庫)で知ったことである。それに引き替え、苦しむ人を救う使命は同じなのにこの対応の違いはどうしたことか
▼神戸市の児童相談所が10日、午前3時頃に助けを求めて来た小6女児を保護することなく追い返していた。対応したのは委託を受けていたNPO法人の男性職員。インターホン越しに警察へ行くよう促すだけで済ませたらしい。これでは面倒を避けるため、〝放っておきたい〟と考えたと思われても仕方ない。「児童相談」の看板が泣く。幸い女児はその足で交番に向かい無事保護されたという
▼神戸に限らず予算不足のため質の低い団体に委託せざるを得ない現状もあると聞く。総務省は新年度、児相を設置する地方自治体への補助を拡充するそうだ。これで人件費や活動費を厚くできる。虐待が絶えない中で児相の役割はますます重要だ。予算を有効に使い、見て見ぬふりをしない社会づくりを確実に前へ進めてほしい。