コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 157

児相の責任放棄

2020年02月21日 09時00分

 放っておけない―。地域包括ケアを先導してきた鎌田實諏訪中央病院名誉院長はそんな気持ちに駆り立てられてきたらしい

 ▼若いころ無医地域に飛び込み、力及ばず亡くなっていく人を大勢見た。当時は制度的な助けもない。文句を言っていても仕方がないと、できることから少しずつ始めたそうだ。健康相談や「寝たきり」の人のケアなどである。すると徐々に病人は減り、住民にも認められるようになったという。多くの経験を経て、鎌田先生はこう確信したそうだ。「結局、見て見ぬふりをしないことが大切」。『トットちゃんとカマタ先生のずっとやくそく』(新潮文庫)で知ったことである。それに引き替え、苦しむ人を救う使命は同じなのにこの対応の違いはどうしたことか

 ▼神戸市の児童相談所が10日、午前3時頃に助けを求めて来た小6女児を保護することなく追い返していた。対応したのは委託を受けていたNPO法人の男性職員。インターホン越しに警察へ行くよう促すだけで済ませたらしい。これでは面倒を避けるため、〝放っておきたい〟と考えたと思われても仕方ない。「児童相談」の看板が泣く。幸い女児はその足で交番に向かい無事保護されたという

 ▼神戸に限らず予算不足のため質の低い団体に委託せざるを得ない現状もあると聞く。総務省は新年度、児相を設置する地方自治体への補助を拡充するそうだ。これで人件費や活動費を厚くできる。虐待が絶えない中で児相の役割はますます重要だ。予算を有効に使い、見て見ぬふりをしない社会づくりを確実に前へ進めてほしい。


踏んだり蹴ったり

2020年02月20日 09時00分

 大河小説『青春の門』などで知られる作家五木寛之氏がエッセーにこんな話を書いていて、読んで思わず笑ってしまった

 ▼「タクシーを待っていると、なかなかこない。やっと来たと思えば、客が乗っている。必要がないときには、続々と空車がやってくる。なんだ、こりゃ」。似たような経験をしている人も多いのでないか。おまけに雨まで降ってきて、車がはね上げた道路脇の水で体がびしょ濡れになったりして。悪いことは重なるというが、そんなことも確かにあるようだ。安倍首相も今、自身の不運を呪っているかもしれない。2019年10―12月期の国内総生産(GDP)が実質で前期比1.6%減、年率換算で6.3%減と、5四半期ぶりにマイナスに転じたのである

 ▼反対をはねのけ断固として消費税率10%化を実行したものの、大型経済対策に国民はさほど踊らず、台風や暖冬の影響もあって消費は伸び悩んだ。20年1―3月期に託した回復の望みも、新型コロナウイルス騒動で断たれてしまった。まさに踏んだり蹴ったり。日本経済を引っ張るのは個人消費だが、このエンジンが今後も未知のウイルスによって不完全燃焼を強いられる。何せ外出は控えイベントも自粛、海外から観光客も来ないのだから消費の高まるはずもない。景気悪化はほぼ確実だ

 ▼五木さんは「幸運二分、不運八分」と覚悟すれば平然としていられると言うが、国の浮沈が懸かることだけにそう悟りを開いてもいられない。ここは積極的にタクシーを探しに行くべきだろう。まずは徹底してこのウイルスを抑え込みたい。


また覚せい剤

2020年02月18日 09時00分

 波乱万丈の人生を歩んだ文学者太宰治には、パビナールという麻薬性鎮痛剤の依存症に苦しめられていた時期もあった。その経験を反映させたものだろう。『人間失格』にモルヒネを使う場面がある

 ▼自分で腕に注射すると「不安も、焦燥も、はにかみも、綺麗に除去せられ、自分は甚だ陽気な能弁家になるのでした」。しかも疲れを感じず、仕事にも精が出て、普段考え付かないようなアイデアも出たりするという。主人公の男は節度を持って薬を使えると思っていたらしい。ところが1日1本が次第に2本になり、4本になり。禁断症状もひどく、ついにそれなしでは生活ができなくなってしまう。こうなるともう自分を抑えることもできない

 ▼シンガーソングライターの槙原敬之容疑者(50)が先週、覚せい剤取締法違反などの疑いで逮捕された。1999年にもやはり同法違反で逮捕され、有罪判決を受けている。あれから21年もたっているのに、自分を抑えられるまでには至っていなかったということか。警察庁組織犯罪対策企画課がまとめた19年の情勢によると、覚せい剤再犯者率は全年代平均の66.1%に対し、40―49歳が71.8%、50歳以上が82.6%と高い。年齢が上がるほど依存から抜け出すのが難しくなるようだ。槙原容疑者もその例に漏れない

 ▼先の小説でモルヒネを使うきっかけは、薬局の奥さんが親切でくれた注射液だった。「酒よりは、害にならぬと奥さんも言い、自分もそれを信じて」、気軽に始めたのである。甘い言葉に誘われ、安易に手を出してはいけない。どんなときも。


給食にズワイガニ

2020年02月17日 09時00分

 とつとつと語るように歌う千昌夫さんの『味噌汁の詩』(中山大三郎作詞作曲)が好きな人は多いのでないか。間に挟まる「金髪?き…金髪だけはいいんじゃないべかねえ」のせりふが印象的だった

 ▼中にこんな一節もある。「日本人なら忘れちゃこまる 生まれ故郷と味噌汁を」。ふるさとを出て16年の男が冬のしばれた日に温かいみそ汁を飲んで、育った町と「おふくろ」を思い出し望郷の念に駆られるのである。誰にでもおふくろの味があろう。人によりそれは卵焼きだったりカレーライスだったり。子羊の香草焼きだったという人だっているかもしれない。その味はまた同時にふるさとの記憶を呼び覚ます。食べ物とは実に不思議な働きをするものである

 ▼鳥取県岩美町の中学校で先週、給食に地元特産の「若松葉がに」が出たそうだ。漁港で水揚げされたばかりの新鮮なズワイガニらしい。地元の味も、おふくろの味と似たところがある。その土地の食文化として生活と密接に結びついているからだろう。カニは毎年この時期、卒業する3年生に地元の漁業団体が無料で提供しているのだという。ことしも一人一匹、100人分が届けられた。ニュースで映像を見たが、なかなか食べごたえがありそうな見事な体格である。あれは生徒たちの思い出に残るに違いない

 ▼これだけ豪華なのは珍しいものの、多くの学校給食でこうした「郷土食」が供されている。岩美の子どもたちは就職などで地元を離れたとしても、ズワイガニを見るたびこの給食とともにふるさとを思い出すのだろう。みそ汁のように。


中国のくしゃみ

2020年02月14日 09時00分

 戦後長い間、日本経済が米国の対日政策や景気に大きく左右されてきたのはご存じの通り。占領下にあるときはもちろんのこと、独立を回復してからも構造改革や規制緩和、米国産品の輸入拡大といった要求に応じ続けてきた

 ▼米国の経済が停滞するときは、やはり共に沈んだ。まさに一心同体である。そんな日米関係を表すのに当時はこんな言葉が使われていた。「アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪を引く」。近頃は情勢が変わりそんなことも少なくなったが、グローバル経済は日本をそのまま放っておくほど甘くはない。すぐに米国の代わりをよこした。最近は「中国がくしゃみをすれば日本が風邪を引く」である。今回の新型肺炎騒動では、あらためてその現実を見せつけられた

 ▼感染拡大で生活や産業に深刻な停滞が生じている中国のあおりを受け、国内中小企業の事業活動にかなり支障が出ているという。支援のため政府が緊急対策に乗り出すそうだ。ウイルスへの対処だけでは十分でないらしい。最新の統計(2018年)を見ると対中国輸出は15兆9000億円、輸入は19兆1900億円でどちらも国別1位。訪日中国人観光客も959万人で断トツである。「さっぽろ雪まつり」もことしの人出は少なかったが、京都や奈良も閑古鳥が鳴いていると聞く。部品製造を中国に頼る企業も困り果てていよう

 ▼しかし中国のくしゃみでここまで「風邪」が悪化する日本の産業構造もいかがなものか。騒動が一段落したら、日本はこの病気がぶり返さないよう体質改善と予防に取り組んだ方がいい。


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