コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 163

ゴーン被告逃亡 

2020年01月07日 09時00分

 正月をのんびり過ごすことはできたろうか。この三が日だけは急な仕事で呼び出されることもほとんどあるまい。時間をぜいたくに使える貴重な数日間である

 ▼筆者はこの機会に、大長編のためなかなか読めずにいた仏作家ジャン=クリストフ・グランジェの『死者の国』(早川書房)に取り組んだ。パリ警視庁のコルソが謎に満ちた猟奇殺人の真相を追うミステリーである。容疑者は有名人で簡単には手が出せない。やっと逮捕できたとき、コルソは容疑者にこんな懸念を抱く。「この男は法律を知っているし、裁判の仕組みも知っている。悪いことに、メディアの扱い方も熟知している。裁判が始まったら、無実を主張し、警察の違法捜査を指摘して、権力の横暴を訴えるに違いない」

 ▼この一節に触れて思わずハッとした。会社法違反(特別背任)などで起訴された日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告について言っている気がしたからである。小説になるくらいだ。フランスではよくある話なのだろう。ゴーン被告が逮捕されて以来、一貫して取り続けた姿勢もそれである。無実を主張し、警察の違法捜査を指摘し、権力の横暴を訴える―。ついには年の瀬も押し迫った昨年12月29日、密出国までして中東レバノンへ逃亡した

 ▼グローバルビジネスを展開する日産やルノーを率いていたのがこんな人だったとは。順法精神の欠如にはあきれるばかり。あすにも記者会見を開き、日本の不正な司法制度を糾弾するらしい。正月は国籍のあるレバノンでのんびり過ごしたろう。さてそれもいつまで続くか。


来年の干支は「庚子」

2019年12月27日 09時00分

 令和の時代になって初めての年の瀬である。とはいえほとんどの人にとっては特に変わったこともあるまい。「垂直に時の逃げゆく年の暮」北村風居。改元、台風、ラグビーワールドカップ―。ことしもあっという間だった 

 ▼さて立派な種が育まれることを意味する「己亥(つちのとい)」は飛躍に向け力をためる年だったが、来年はどんな年になるだろう。恒例により「干支(えと)」が物語るところを紹介したい。2020年は「庚子(かのえね)」である。「庚」は両手できねを持ち穀物をつく姿をかたどった字で、そのさまから足元を築き固める意味を持つ。また発芽した植物の枝や葉などに硬い筋が入り、成長の最終段階に至るとの字義もある

 ▼一方、ねずみ年として知られる「子」は、大人と違い全身に占める頭の比率が大きい小児の姿をかたどった字だ。小児であるゆえ潜在力の固まり。そこから、新しい命が生まれることやどんどん増えていくこと、また万物が茂ることなどが導き出されるという。どちらの字も成長を表していて力強い。陰陽五行ではこれが組み合わさって「庚子」になると、さらに縁起が良いそうだ。「庚」は金、「子」が水でどちらも陽の性質を持つため「相生」となり、それぞれが互いを生み出す好循環を招く

 ▼前回の1960年は、「所得倍増計画」を打ち出した池田勇人内閣が発足した年である。その後、高度経済成長が加速したのはご存じの通り。情勢は異なれど、今が時代の変わり目であることは間違いない。うまく運気をつかみ成長の波に乗りたいものである。


少子化に拍車

2019年12月26日 09時00分

 童謡「仲よし小道」(三苫やすし作詞、河村光陽作曲)を覚えている人は少なくないだろう。歌ったことがあるとすれば小学生のころでないか。一番はこんな歌詞だった

 ▼「仲よし小道は どこの道 いつも学校へ みよちゃんと ランドセルしょって 元気よく お歌をうたって 通う道」。みよちゃんは、やはり女の子であろうこの童謡の主人公の家の隣に住んでいる。学校へ行くのも遊ぶのもいつも一緒である。主人公とみよちゃんに限らない。どこの家にも子どもがいて、毎日誰か彼かと連れ立って学校へ行く。泣いたり笑ったりけんかしたり―。近所にはいつも子どもたちの歓声が響いている。どうやらそんな風景は急速に過去のものになろうとしているようだ

 ▼2019年生まれの子どもの数(出生数)が86万4000人となり、初めて90万人を割るそうだ。過去最少である。厚生労働省がおととい、19年人口動態統計の年間推計を発表し明らかになった。将来推計より2年も早い86万人台落ちという。夫婦一組当たりの子どもの数は近年さほど変化がない。ところが今は適齢期の男女の数自体が少ない上、結婚する人も減少傾向。いわばダブルパンチで少子化に拍車がかかっているのである

 ▼未曽有の大災害に匹敵する状況だというのに政府や国会は桜だ何だとのんきこの上ない。年齢の高い人が多いからだろうか。若い人たちが憂いなく子どもを産み育てられる環境を早急に整えねばならないのだが。このままではひとりで学校に通う子どもばかりになり、「仲よし小道」も歌えなくなりそうだ。


安倍首相の外交

2019年12月25日 09時00分

 明治日本外交の第一人者といえば欧米列強との不平等条約改正を成功させた小村寿太郎だろう。1901(明治34)年から11年までに外務大臣を2度務めた

 ▼当時、日露の交渉を見ていた米国務長官ハルはこう評したという。「穏当な譲歩は躊躇せず行い、自国の安全に関する点については断然とその主張を譲らず、その公明にして堅実なる交渉ぶりは(中略)例を見ません」(『日本の偉人100人』致知出版社)。安倍首相が23日、北京で習近平中国国家主席と会談した。トップ外交である。小村と比べるのが適切かどうかは分からないが、話し合いのテーブルに載せられた議題を見ると、首相は言いにくいことも断然と主張したようだ

 ▼尖閣諸島周辺海域での中国公船の活動自粛を求め、中国で日本人の拘束が続いている現状に懸念を表明。さらに新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧について国際社会に説明するよう促し、香港情勢を憂慮していることも伝えた。中国が触れられたくないことばかりである。当然の要求もはっきりとは伝えられない弱腰の外交が多かった過去の首相とはひと味違う。弱い経済や「桜を見る会」問題、複数の大臣の辞任などあまりいいところがなかったことしの首相だが、外交の強さは相変わらずだ

 ▼中国は首相が主張したからといって「はいそうですか」と応じる国ではない。ただ今回も北朝鮮の完全非核化に向けた連携と、お互い緊密に意思疎通を図っていく点では一致した。小村が首相に点数を付けるとするなら、満点とはいかないまでも合格点は与えるのでないか。


総務省情報漏えい

2019年12月24日 09時00分

 近頃はそうでもないが、日本には人品骨柄に関係なく一年でも早く生まれると先輩として後輩を従わせる悪弊があった。文学界も例外ではなかったらしい。太宰治も随筆「如是我聞」で、ある先輩をこう批判している

 ▼「先輩というものは、『永遠に』私たちより偉いもののようである。彼らの、その、『先輩』というハンデキャップは、殆ど暴力と同じくらいに荒々しいものである」。うなずく人も多いのでないか。早く生まれただけで先輩という有利な立場に立てるのだからこんな楽なことはない。その甘い汁を捨てようとは終生考えもしないだろう。今回の不祥事もそんな旧態依然とした先輩後輩関係の中から生まれたとみて間違いない

 ▼総務省の鈴木茂樹前事務次官が日本郵政に天下っている同省の先輩、鈴木康雄上級副社長に情報を漏らした件である。かんぽ生命保険の不正販売でグループの役員刷新が避けられないため、鈴木副社長はその行政処分内容など内部情報を後輩に提供するよう求めたようだ。役員の辞任があれば席が空き、新たな天下りを受け入れられる。人事掌握は組織内で権力の源泉。この情報提供はOBにとっても現役にとっても悪い話ではなかったのだ。後輩としてもいずれ郵政の役員に就任して悠々左うちわ、との思いがあったのかもしれない

 ▼第一生命の『サラリーマン川柳』に以前、こんな作品があった。「追い越すな先輩は急に進めない」駄馬サラ。席を譲ってもらうためには黙って先輩に従わねばならぬ。今回の件では国益より省益が優先された。そこが一層荒々しい。


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