正月をのんびり過ごすことはできたろうか。この三が日だけは急な仕事で呼び出されることもほとんどあるまい。時間をぜいたくに使える貴重な数日間である
▼筆者はこの機会に、大長編のためなかなか読めずにいた仏作家ジャン=クリストフ・グランジェの『死者の国』(早川書房)に取り組んだ。パリ警視庁のコルソが謎に満ちた猟奇殺人の真相を追うミステリーである。容疑者は有名人で簡単には手が出せない。やっと逮捕できたとき、コルソは容疑者にこんな懸念を抱く。「この男は法律を知っているし、裁判の仕組みも知っている。悪いことに、メディアの扱い方も熟知している。裁判が始まったら、無実を主張し、警察の違法捜査を指摘して、権力の横暴を訴えるに違いない」
▼この一節に触れて思わずハッとした。会社法違反(特別背任)などで起訴された日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告について言っている気がしたからである。小説になるくらいだ。フランスではよくある話なのだろう。ゴーン被告が逮捕されて以来、一貫して取り続けた姿勢もそれである。無実を主張し、警察の違法捜査を指摘し、権力の横暴を訴える―。ついには年の瀬も押し迫った昨年12月29日、密出国までして中東レバノンへ逃亡した
▼グローバルビジネスを展開する日産やルノーを率いていたのがこんな人だったとは。順法精神の欠如にはあきれるばかり。あすにも記者会見を開き、日本の不正な司法制度を糾弾するらしい。正月は国籍のあるレバノンでのんびり過ごしたろう。さてそれもいつまで続くか。