子どものころによく聞いた歌はいつまでたっても不思議と忘れないものである。岡本敦郎さんの『高原列車は行く』(丘灯至夫作詞、古関裕而作曲)もその一つ。当方が生まれる前の歌謡曲だが、長く歌い継がれていたのだろう
▼こんな歌い出しだった。「汽車の窓から/ハンケチ振れば/牧場の乙女が/花束なげる/明るい青空/白樺林/山越え谷越えはるばると/ララララ…/高原列車は/ラララララ/行くよ」。牧場や白樺林が出てくるあたり本道の歌といわれても違和感はない。実は作詞した丘さんの故郷福島県がモデルという。いずれにせよ陽気な曲調とも相まって汽車旅の高揚感が伝わる歌である
▼そんな旅情をかきたてる鉄路が一つ、また一つと消えていく。先日も日高線鵡川―様似間の関係7町がJR北海道の提案する廃止案を受け入れ、バス転換に向けた協議に入る方針を決めた。災害で2015年から不通になっていたとはいえ、地元としては苦渋の決断だったろう。復旧を願っていたはずだ。企業なら不採算部門の見直しは避けられない。ただ廃止理由がそれだけでいいのか。技術者の長井士郎氏は『土木技術を未来へはしわたしする12のことば』(共同文化社)の中で「費用に対する効果の方に、単に収入だけでない『何か』を評価して」と記していた
▼観光や過疎地への貢献などの価値を認め補助する仕組みを作れば国民も納得するのでは、というのだ。維持困難線区はまだ幾つもある。「ラララララ」と思わず歌い出したくなる存続策を求め、今ほど知恵が試されているときはない。