コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 168

地球と隕石

2019年11月25日 09時00分

 昔読んだSF小説に、『悪魔のハンマー』(ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル、早川書房)という作品があった。いわゆる終末もので巨大隕石によって地球が壊滅的被害を受ける作品の先駆けである
 
 ▼アマチュア天文学者が未知の彗星(すいせい)を発見するところから物語は始まる。喜んでいたのもつかの間、その軌道が地球に向いていることが分かり世界は大混乱。皆の願いも空しく隕石は地球に激突した。この作品が優れているのは、残ったごく少数の人々の生きるための戦いを描いていることだ。終末だけでなく再生の物語にもなっているのである。1977年に発表された作品だが、既に隕石の衝突は危機を招くと広く知られていたのだろう

 ▼最近も新たな事実が判明した。地球の歴史上、生物が最後に大量絶滅したとされる1160万年前も、原因は隕石の衝突だったというのである。直径数キロの巨大隕石が海に落ちたらしい。海洋研究開発機構などの研究チームが先週、英科学誌に発表した。大量絶滅が過去何度もあったことは分かっている。ただ、この時代の原因はまだ解明されていなかった。研究チームは南鳥島付近の海底を調査し、隕石衝突を裏付ける物質を見つけたそうだ
 
▼別の研究だがこれもつい先日、東北大などが隕石から生命に欠かせない糖の分子を発見。地球生命の材料が宇宙から来た証拠をつかんだ。飛来した隕石が生命の絶滅と誕生、両方の物語に関わっていた事実が相次いで報告されたわけである。事実は小説より奇なり。やはり宇宙は奥が深い。当然ではあるが。


iPS研究継続の危機

2019年11月22日 09時00分

 財務大臣として2015年のギリシャ経済危機を乗り切った経済学者ヤニス・バルファキス氏が著書『父が娘に語る経済の話。』(ダイヤモンド社)で愚かな経営者と賢い経営者の違いに触れていた

 ▼「労働組合の全国組織が賃金の2割カットを受け入れた」とのニュースを見たときの反応の差である。「いいことを聞いた。うちの会社も便乗して賃金をカットし、コストを減らそう」と大喜びするのが愚かな経営者。一方、「コスト削減も大切だが、これでは働く人が生活必需品まで買えなくなってしまうのでは」と心配するのが賢い経営者だという。消費が弱まれば経済は停滞する。長い目で見ると会社にとって良くない結果を招きかねない。その観点があるかどうかが分かれ目である

 ▼経営者ではないが、政府もこれに関しては愚かさを露呈しているようにしか見えない。拒絶反応の少ない再生医療を目指し研究を続ける京大iPS細胞研究所への資金援助を、来年度からカットする方針を打ち出したそうだ。研究所が独自に寄付金を集めているのをいいことに、支援をやめようとの魂胆らしい。山中伸弥所長が全国を駆け回り、必死に集めた寄付金である。本来なら国の支援と寄付金で万全の研究環境を整え、世界に先駆けて実用化に道筋を付けるのがあるべき姿だろう

 ▼山中所長は先週、日本記者クラブで政府の決定過程の不透明さと理由の理不尽さに不満を表明し、支援継続と明確な説明を求めたという。財政負担軽減にばかり気を取られ、金の卵を産むガチョウを弱らせるのは賢いやり方ではない。


「桜を見る会」前夜祭

2019年11月21日 09時00分

 現実にそれで痛い目に遭った人が多いからか、落語には早合点の滑稽さを描いた噺が多い。「しめこみ」もその一つ

 ▼亭主が予定より早く家に帰ると金目の物が風呂敷に包まれている。妻の姿はない。それを見た亭主は妻が浮気して逃げる用意をしていたと思い込んだ。妻が戻ると烈火のごとく怒り出し、「証拠は上がってんだ。離縁するから今すぐ出てけ」と取り付く島もない。実は空き巣狙いの仕業だったのだが。冷静に考えればすぐ間違いに気付いたはず。ところがパッと見て浮気と決めてしまったものだからもういけない。あとはその結論に引っ張られ妄想を膨らませていくだけ。こちらも似たようなものでないか。国民民主党や立憲民主党などが首相主催の「桜を見る会」の「前夜祭」を追及している件である

 ▼彼らの疑いはこうだ。一流ホテルなのに会費5000円で開けたのはおかしい。首相側が補てんしたかホテル側の便宜供与があったのでは。それなら公職選挙法や政治資金規正法に違反する―。どうやら自分らが持ち出した「高級店のすしが出ていた」「1万1000円以下ではできない」との情報で違法の結論に飛び付いたらしい。ただどちらも事実ではなかった。出席者もホテルの正式な領収書を受け取っている

 ▼すると今度は怪しいからホテルの担当者を国会に呼ぶと言い出す始末。ここまでくると民間の自由な商行為を政治力で圧迫するに等しい。条件によって料金が変わることは、普通の社会人なら誰でも知っている。頭に血が上っている野党の方々も少し冷静になった方がいい。


ヤフーとLINE統合

2019年11月20日 09時00分

 日本は1980年代の終わりまで電子立国として栄え、半導体や電子計算機の市場で世界をリードしていた。若い人には信じられない話だろう。あの華やかな時代も今は昔である

 ▼総務省が7月に公表した「情報通信白書」にその停滞ぶりを端的に示すデータがあった。各国のICT投資額の推移である。95年を100としたとき、15年に米国とフランスは300、英国は150。日本はというと100のままだった。中国の投資額は不明だが、AI(人工知能)の導入状況を見ると中国は85%で世界一。51%で2位の米国を大きく引き離している。これも日本は39%にとどまり先進国の中では下位クラスだ。つまり日本はこの分野で世界から大きく後れを取っているのである

 ▼そんな閉塞(へいそく)した状況を打開するきっかけになるかもしれない。ネット関連サービスのポータルサイト「ヤフー」を運営するZホールディングスと対話型SNSを提供するLINEが18日、経営統合に基本合意したと発表した。利用者は単純合計で1億人超。双方の強みを生かしてサービスを有機的につなげ、世界をリードするIT企業を目指すそうだ。米国の「GAFA」、中国の「BAT」といった巨大プラットフォーマーと同じ土俵に立とうというのである

 ▼ただ売上高や株式時価総額、研究開発費で示される体力、実力差は力士でいえば白鵬と炎鵬の比ではない。壁は高いだろう。情報通信白書は今後の日本経済の成長の鍵を握るのはICTだと指摘していた。この動きが電子立国復活ののろしになるといいのだが。


GSOMIA失効へ

2019年11月19日 09時00分

 一度言い出したら後でそれが間違いだと分かっても、断固として主張を変えない強情な人が世の中にはいる。誰もが一人や二人、すぐさま思い浮かぶ顔があるのでないか

 ▼江戸時代初期の仮名草子『清水物語』にも「榎の実は成らば成れ、木は椋の木と言ひたる」の一文がある。「この木は椋」と言った男が後でその木に榎の実が成ったのを見ても、「何の実が成ろうとこれは椋だ」と言い張り前言を撤回しなかった。明らかな勘違いで、はたから見るとばかばかしい話である。言った本人が突っ張って得することは一つもない。「またあの人か」と評価を落とすだけだろう。ところでこれは国と国との関係でも同じ。どうやら今回もそんな様相を呈してきた

 ▼日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の件である。東アジアの安全保障分野で協力関係にある日本と米国が繰り返し延長要請をしたにもかかわらず、韓国は断固として協定廃棄の方針を変えない。理由は「日本が先に輸出規制を撤回しないから」。軍事転用可能な工業製品を日本から大量に輸入しておいて、行方知れずにしているのだから輸出管理を厳しくされても仕方がない。ずさんな態勢を棚に上げ、筋の違うGSOMIA拒否であだを討とうとしているのが今の韓国の姿である

 ▼「何の実が成ろうと、これはとにかく日本が悪い」というわけだ。韓国の文在寅大統領が15日にエスパー米国防長官と会い、延長しない意向をあらためて伝えた。これで今月23日の失効はほぼ確実である。この強情な態度で得をするのはいったい誰なのだろう。


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