コラム「透視図」

道議会新庁舎

2016年07月27日 10時16分

 ▼語られる状況によって中身は少しずつ変わるようだが、こんな例え話を聞いたことはないだろうか。教会の新築現場で、ある人が作業している者に「何をしているのか」と尋ねる。木工職人は「働かなきゃ食っていけないでしょうが」と答え、石工は「見て分からんか、石を積んでるんだ」と返したそうだ。最後に掃除をしていた老婆に問うと、「神様が気持ちよく過ごせますようにお宿を整えております」

 ▼仕事に取り組む姿勢とともに、一つの事業がどんな理念で行われているのか自覚することの大切さを教える。その伝でいくと新しい北海道議会庁舎の整備は、民主主義の基礎となる地方自治を守り育て、豊かな北海道を実現させる場づくりということになろう。公募型プロポーザルで選定を進めていたその道議会庁舎改築工事基本・実施設計の設計者が、先日決まった。イメージパースを見ると、広域自治体で初めてという、道産木材を活用した木造大屋根の議場がひときわ目を引く。

 ▼建物全体で道内15地域の地場産材を使用するらしい。庁舎が議員だけのものでなく、道民のものであることを示す仕掛けでもあろう。現庁舎は重厚だが親しみやすさに欠け、耐震性の低さは公共建築として致命的だった。懐古趣味を持つ者としては寂しいが、改築は仕方ない。最新のエネルギー技術や合理化工事の採用を考えると、決断の早さがトータルコストを抑えることにもなる。大事なのは完成後、道民の意見が集まる場を最大に生かし、コストを上回る成果を出すことだろう。


鴨長明と無常

2016年07月26日 09時47分

 ▼古典のことはさっぱりわからぬという人も、この冒頭の一節には聞き覚えがあろう。「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし」。平安から鎌倉時代にかけて生きた歌人鴨長明の随筆『方丈記』である。和歌と琵琶の名手として知られ、後鳥羽上皇にも認められたものの出世できず、50歳ごろから閑居を始めたとされる。

 ▼きょう26日がその長明の没後800年の日であるらしい。あらためて『方丈記』を開いてみたのだが、優れた文学とはこういうものだろう、時代を超え真っすぐ今に訴えかけてくるものがあった。主題はご存じの通り「無常」である。『広辞苑』(第三版)を引くと「一切の物は生滅・転変して常住でないこと。人生のはかないこと」とある。文字になるといまひとつピンとはこないものの、一定の年齢に達した日本人であれば、あえて意識せずとも心身に備わっている感覚でないか。

 ▼地震や水害など災害時に被災者らが秩序を失わず振る舞えるのも、そんな無常感が根底にあるからだろう。外国からは不思議に見えるのか必ず称賛の声も聞かれる。宗教学者山折哲雄が『日本文明とは何か』(角川ソフィア文庫)で、この無常は「文明の衝突」による世界の紛争を解決する重要な鍵になると書いていた。運命に逆らわず非暴力で、対立を飲み込む思想が第3の道を開くのだという。いつか無常で世界のテロが収まり、こう言えるといい。「平和のながれは絶えずして」


ポケモンGO

2016年07月23日 09時30分

 ▼子どものころ、夏からの大きな楽しみの一つといえば虫捕りだった。ランドセルを家に放り投げ、友達と原っぱや林に向かう。草をかき分けてバッタを探し、止まっているトンボの目の前で指を回した。まれにオニヤンマなど捕まえるとしばらくは鼻高々だったものだ。「鍬形虫執念の子にみつけられ」(井上厚明)の句もあるが、クワガタは成虫でなく、幼虫を掘り出して育てることにも面白味があった。

 ▼アナログとデジタルの違いはあるがそれと同じ感覚なのでないか。ポケモン捕りならぬ、「ポケモンGO(ゴー)」の話である。スマートフォンに映った実際の風景に合成映像のポケモンが現れ、それにボールを当てて「ゲット」(捕獲)するゲームだという。日本国内でもきのうからアプリの配信が始まったそうだ。これまでテレビやゲーム機の中でしか会えなかったポケモンが、スマホ画面を通してとはいえ現実世界に出現するのだから、ポケモン世代が熱狂するのもうなずける。

 ▼一方で問題も起きている。米国や欧州ではゲームに夢中になった若者が、危険地域に入ったり事故に遭ったりするケースが後を絶たないのだとか。崖から落ちた人までいるそうだ。ポケモンを手に入れるつもりが、逆に命や健康を手放すのではつまらない。昔も虫を捕まえようとして木から落ちることがあった。多くの虫をゲットしてきた昭和の子どもは夢中になることの危険を知る先輩である。子や孫にその経験と知恵をぜひ教えてあげてほしい。ただし、うるさがられない程度に。


機を見るに敏

2016年07月22日 09時28分

 ▼作家織田作之助は、明治期に大阪経済を復興に導いた五代友厚が無名であることに、我慢ならなかったらしい。1943年に、その生涯を描いた作品「大阪の指導者」(河出文庫『五代友厚』所収)を発表している。中に五代が成功するための心得を説く場面があった。「一歩先んじて進む者は成功し、後るる者は不遇を嘆つ。故に人は常に機を見るに敏なることを要する」。平素から公言していたそうだ。

 ▼この言葉を思い出したのは、ソフトバンクグループが18日、英半導体設計大手のARMホールディングスを買収すると発表したからである。買収金額約3・3兆円はことしのM&Aで世界3番目の規模という。いやはや庶民にはまるで想像もつかない。孫正義社長も「機を見るに敏」な人物だから、先を読んでかなりの勝算があると踏んだのだろう。ARMはあらゆるモノをインターネットとつなぐ「IoT」に積極投資していたとのこと。孫氏は新しいインフラに目を付けたわけだ。

 ▼ARMの名を今回初めて聞いたという人も多かったのでないか。筆者も全く知らなかった。ところが同社HPによると世界中のスマホに使われている半導体の実に95%を設計しているのだという。世の中の動きを見極め確実に先の時代のために布石を打っておく。なるほどソフトバンクが成長を続けられるゆえんだろう。さて、ビジネス界の大胆な挑戦は見た。次に見たいのは政府の挑戦である。経済対策は20兆円を超える規模との声も出てきた。「機を見るに敏」の実施を待ちたい。


トルコの苦境

2016年07月21日 09時37分

 ▼作家半藤一利氏は、著書『昭和史1926―1945』(平凡社)で日本陸軍の一部が暴発した二・二六事件のその後を分析している。最も適切な説明だと思うとして松本清張の『二・二六事件』(文芸春秋)を挙げ、重要な箇所をこう引用していた。事件以降「軍部は絶えず〝二・二六〟の再発をちらちらさせて政・財・言論界を脅迫した」。つまり軍が国民の恐怖をあおり実権掌握に利用したのである。

 ▼トルコで15日発生したクーデター未遂事件のその後の展開を見ていると、何やら二・二六事件後と同じ図式が出来上がりつつあるようで少々気味が悪い。エルドアン大統領はクーデターに関わったとされる者を片端から拘束し、厳罰に処すため死刑制度復活も辞さない構えだという。エルドアン氏はこれまでも意に染まない人物や言論、街頭デモを徹底して弾圧してきた。いわゆる強権型の指導者である。この5月にも大統領の権力強化に慎重だった首相を辞任に追い込んだばかりだ。

 ▼とはいえトルコが今かなり不安定な状態にあるのも事実。過激派組織「IS」が活動するイラクやシリアと国境を接しているためテロや紛争が絶えず、難民流入にも悩まされている。大統領が権力の集中を狙うのにはそんな背景もあろう。それでも人々の恐怖をてこに権力を強めるやり方は再び国内に騒乱の種をまくだけでないか。もちろんトルコ国民だってそんなことは分かっているはず。ただ分かっていても権力者からの弾圧におびえて口に出せないとすれば息苦しいことである。


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