コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 172

54万件のいじめ

2019年10月25日 09時00分

 少しだけお時間よろしいでしょうか―。街頭でそう呼び止められ、アンケートへの協力を頼まれた経験のある人も多いのでないか。このアンケートだが、用意された回答の選択肢によって結果に違いの出ることが知られている

 ▼例えばある質問に対し「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択と「賛成」「どちらかといえば賛成」「どちらかといえば反対」「反対」の4択があったときに、4択の方が意見は割れる。つまり質問を工夫し周到に練られた回答項目を用意すれば、アンケートする側に都合の良い結果に誘導できるというわけ。文部科学省が先週発表した2018年度の児童生徒の問題行動に関する調査結果を見て、そのことを思い出した

 ▼いじめの認知件数が前年度比13万件増の54万件に上ったというのである。前の年度から3割以上も増えているとは穏やかでない。ところがこれ、文科省が早期発見の指導を強めたがゆえの数字という。現場が「どちらかといえばいじめ」もカウントしたのだろう。これまではどちらとも判断できないとしていた事例を、いじめのくくりに入れたのだ。文科省としては政策効果が現れた、と鼻高々かもしれない。ただ、大切なのは認知件数の激増がいじめ解消につながるかどうかである

 ▼いじめの芽を早く摘めるならいいが、今の学校にそんな余裕や力量があるだろうか。件数に追われる教師が、当事者同士を握手させて終わらせるような安易な方法に走らないとも限らない。調査は文科省が仕事をした気になるためでなく、子どもたちのためにこそあるのだが。


マラソンは札幌に?

2019年10月24日 09時00分

 アメリカ大陸を横断する5000㌔のウルトラマラソンに挑んだ選手たちの人間ドラマを描いた小説『遥かなるセントラルパーク』(文藝春秋)に、モハーヴェ砂漠を走る場面がある

 ▼「悪魔の遊び場」と称される区間の殺人的暑さを経験者が教えるのだ。「気温が二十四度を超えると、あんたの体は体温のバランスを保てなくなる。どんなに汗を出してもだ。そのくらいの暑さだと、体の動きに狂いが生じてくる」。国際オリンピック委員会(IOC)もこの暑さをかなり警戒しているらしい。2020年東京五輪の男女マラソンと競歩の競技会場を東京から札幌へ移すと発表したのである。札幌の8月の平均気温が5―6度低いというのがその理由という。波紋が広がっている

 ▼9月にあった世界陸上ドーハ大会の女子マラソンで、酷暑のため4割以上の選手が棄権したことに危機感を覚えたようだ。棚からぼた餅の秋元札幌市長は喜びを隠さないが、はしごを外された小池東京都知事は大層おかんむりである。唐突だったがIOCに理がないわけではない。マラソンが予定される8月上旬の東京の平均気温はことし最高が34・9度、最低が26・2度だった。湿度は76・7%だ。ドーハ大会の30度超、湿度80%弱とほぼ一致する

 ▼東京を想定し、暑さ対策とコース研究を重ねてきた日本選手にとっては会場変更が理不尽と映ろう。ただ、他の国の選手も同じ思いとは限るまい。「悪魔の遊び場」のごとき環境で走りたくない選手もいるはずである。このIOCと東京のデッドヒート、制するのはどちらなのか。


穏やかならぬ晩秋

2019年10月23日 09時00分

 急に寒くなったと思ったら、またしばらく暖かい日が続く。毎年のことながら、日により、また朝晩で寒暖の差が著しいこの時期は体調を整えるのに苦労する

 ▼何を着て出掛ければいいか、毎朝頭を悩ませている人も多いのでないか。きれいな青空にだまされコートを持たずに出ると、外では冷たい風が吹きすさんでいたりする。かと思えばいかにも凍えそうな曇り空なのに、玄関を出てみるとほんわり暖かかったり。先の日曜日に札幌から小樽へと向かう道すがら、周りの景色がかすむほど大量に発生した雪虫を見た。迷惑この上ないが雪虫にだって雪虫なりの事情がある。まあ、これも一つの風物詩だろう。「ひそやかにそしてたしかに霜の声」大野崇文。あしたは二十四節気の霜降。雪虫、霜とくれば冬も間近である

 ▼きのうは皇居で「即位礼正殿の儀」が行われ、天皇陛下が国の内外に即位を宣言するお言葉を述べられた。季節の変わり目と、時代の変わり目とが同時にやってきた感のあるこの晩秋である。寒暖差が大きく時折強い風は吹くものの、さほど大崩れしないのが晩秋の天気なのだが、今季は何やら様子が違う。季節外れの台風が次々と襲ってくるのである

 ▼気象庁によると10月の台風上陸数(平年値)は0・2で例年ならほぼ上陸はない。ところがことしは台風19号が未曽有の被害をもたらし、追い打ちを掛けるように20号と21号の発生である。19号で痛手を受けた被災地には過酷な状況が続く。着る物に頭を悩ませるくらいで済む、穏やかな秋の日が少しでも早く戻ってくるといいのだが。


北海道大分水点

2019年10月21日 09時00分

 時代をえぐる骨太の小説に定評のある五木寛之氏だが、氏の生き方が深く刻まれた随筆もまた味わいがあって胸にしみる。数ある随筆の中でも代表作と言っていいだろう。『大河の一滴』(幻冬舎)にこんな一節があった

 ▼川を眺めていて自然と浮かんできた思いらしい。「それは小さな一滴の水の粒にすぎないが、大きな水の流れをかたちづくる一滴であり、永遠の時間に向かって動いてゆくリズムの一部なのだ」。一滴の水が山を流れ下るうちに大河となり、やがて「海に還る」自然の営みを人の一生に例えているのである。国土地理院の地図に「北海道大分水点」という地名が新たに加えられるとの報に触れ、その一節を思い出した

 ▼名前が与えられるのは三国山の西約300mに位置する小ピーク。ここに降った一粒の雨も落ちた所が石狩側なら日本海へ、十勝側なら太平洋へ、北見側ならオホーツク海へとやがて運ばれていく。最初の小さな違いで運命が大きく変わるところはどこか人生に似ていないか。もともと三国の名は開拓使時代、石狩国、十勝国、北見国の国境だったことから付けられた。そこが分水点でもあったのである。三つの外海に流れる分水点は日本でここだけだという

 ▼「北海道大分水点」は地元の方が提唱し、2005年に木柱が設置された。今回、これが老朽化したため関係自治体と森林管理局などが石碑を立てることにしたそうだ。同時に国土地理院の地図記載も決まった。さて大分水点からの眺めはどんなだろう。来年は一滴の水が三つの海へ旅を始める地を訪ねてみたい。


恩赦 

2019年10月18日 09時00分

 正体を隠し、「遊び人の金さん」としてちまたにはびこる悪をあぶり出す江戸北町奉行遠山金四郎景元の活躍を描いた時代劇といえば『遠山の金さん』である。ドラマの中にこんな場面がよくあった

 ▼親玉にだまされ、犯罪の片棒を担いでしまった男が改心して事件の解決に協力する。そんなときの金さんの沙汰だ。「遠島申し付けるところなれど、心からの悔悛が認められるゆえ、罪一等を減じ江戸所払いとする」。つまりはそれと同じことなのかもしれない。「恩赦」の件である。政府は皇位継承に合わせて行う恩赦の対象を約55万人と見込み、きょうの閣議で決定するそうだ

 ▼ただ、正直に言うと実施する意義がよく分からなかった。同じ思いの人は案外と多いのでないか。恩赦は裁判の手続きを踏まずに、有罪判決の効力を失わせたり軽減したりする。いわば行政が司法の懐に手を突っ込み、書類を書き換えるようなもの。王国でもあるまいに、おめでたいからといって勝手に判決を覆していいものなのか。疑問を感じ調べてみると、そこまで大きな話ではなかった。実は慶事がなくとも恩赦は毎年行われているのである。法務省の統計によると2018年19人、17年23人、16年29人といった具合

 ▼一度は罪を犯したものの、更生著しく早期の社会復帰が望まれる場合に本制度が使われるとのこと。それなら不思議はないしむしろ当然のことでもあろう。今回はそれを大々的に実施しようというわけだ。せっかくの機会、罪一等を減じられた人々がこの社会で新たな責任を果たすきっかけにできるといい


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