コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 174

教師が教師にいじめ

2019年10月09日 09時00分

 高校時代、窪田結衣はリーダー格の女子にいじめられていた。といっても現実の事でなく伊坂幸太郎の短編「メイクアップ」の話

 ▼グループのダンス発表で違う曲を教えられたり、ひどいうわさを流されたり―。会社で友人に打ち明けると、それが「プチ番長」の定番だという。「恰好いいとか、ださいとか、その判定をするのも、何をやるのかを決めるのも、わたしです、ってポジションをいつの間にか取ってる」。結衣が新商品を担当したとき、驚いたことに広告会社から営業に来たのがその女子だった。会っても結衣とは気付かない。一見野心的だが物腰は柔らかく気遣いもこまやか。人が変わったのかと思いきや、ほどなくうそやうわさで状況を操ろうとする本性が明らかになる

 ▼「三つ子の魂百まで」ということか。神戸市立東須磨小で20代の男性教師に壮絶ないじめを繰り返していた30代から40代の先輩教師4人も、突然いじめ体質になったわけではあるまい。報道で見る限り妙に手慣れた様子である。加害者は校内で影響力を持つ男性3人、女性1人。女性が「プチ番長」だったらしい。激辛カレーを目にすり込む、被害教師の新車の屋根に上って蹴る、「LINE」で別の女性教師に性的メッセージを送るよう強要する…

 ▼ここまでくるといじめでなく犯罪だろう。いい大人が、そして子どもにいじめの非を説くべき教師が何をしているのか。情けないのはそれだけでない。学校は問題を闇に葬ろうとした。先の小説で結衣は言う。「いじめっ子ほど、堂々と生きてる」。そんな学校でいいのか。


自由を求める戦い

2019年10月08日 09時00分

 正義の味方が自分の顔を隠して敢然と悪に立ち向かう。いわゆるヒーローものの定番である。頭巾をかぶった「鞍馬天狗」あたりに源流があるのかもしれない
 ▼正体が知れてはいろいろと不都合のある人物なのだろう。だからといって世にはびこる不正を黙って見過ごすつもりはない。仮面やマスクで顔を隠して理不尽に苦しめられている人の所にさっそうと現れ、悪いやつらを一網打尽。どこへともなく消えていく。懐かしいところで横山光輝原作の特撮テレビドラマ「仮面の忍者赤影」を思い出す人もいよう。海外では何度も映画化された「マスク・オブ・ゾロ(怪傑ゾロ)」が有名だ。ヒーローはマスクを着けることで、生身の人間から正義の象徴に姿を変えるのである

 ▼ただ、そんな見栄えのするマスクでなくとも、象徴の役割を果たすには十分だ。現在の香港で起きていることである。多くの市民が風邪予防に使うようなごく普通のマスクを着け、連日連夜、民主主義を守るための抗議活動を続けている。マスクは主に当局から個人を特定されるのを防ぐためのものだ。抵抗の象徴的姿である。ところが林鄭月娥香港政府長官は議会を経ずに規則を定められる「緊急条例」を発動。5日に「覆面禁止法」を施行した。法律で象徴も個人情報も剥ぎ取ろうというのだろう

 ▼デモはそれから鎮静化するどころか激しさを増した。選挙を通じて民意が国政に反映される日本とは違い、中国の息のかかった香港では政治を動かすにはデモに頼るしかない。マスクを着けたヒーローたちの自由を求める戦いが続く。


旬の野菜や果物

2019年10月07日 09時00分

 栽培や保存の技術が発達して年中同じ野菜が食べられるようになった昨今だが、やはり旬の味にはかなわない。「さつまいもあなめでたさや飽くまでは」林翔。普段は食べたいとも思わないさつまいもも、旬の濃厚な味わいのものを口にするとおいしくてどんどん食べてしまう

 ▼果物では桃やブドウや梨。最近は値段が高くて気軽に手は出せないものの、新鮮な甘みが滋養となって体に広がっていく感じはたまらない。去年の9月、国際宇宙ステーションに新鮮な野菜や果物4種類が届けられた。それは北海道のタマネギ、愛媛と佐賀の温州ミカン、宮城のパプリカ、岡山のブドウ。いずれも秋から冬にかけて旬を迎えるものだ。日本の無人補給機「こうのとり7号」によって運ばれたという

 ▼宇宙飛行士たちは大喜びだったそうだ。これらが選ばれたのには理由がある。4週間以上の常温保存が可能で生でも食べられ、残りかすが少なく果汁などが飛び散らない。『植物はおいしい』(ちくま新書)に教えられた。何より健康にいい。タマネギの抗酸化物質ケルセチンは血液をサラサラにし、ミカンのミネラルやビタミンは体調管理に役立つ。パプリカは動脈硬化や心筋梗塞を防ぎ、ブドウは手軽に糖分と水分の補給ができる上に栄養も豊富だ

 ▼狭い空間で長期間過ごさねばならず、十分に運動もできない宇宙飛行士にとってはまさに天の恵みだろう。これから長い冬を迎え、活動が大きく制限される道民も似たような状況ではないか。われわれも今のうちに旬の野菜と果物で体を整え、厳しい寒さに備えたい。


駆け込みミサイル

2019年10月04日 09時00分

 消費税が8%から10%に引き上げられて4日になる。連日、分かりにくい軽減税率、不公平なポイント還元、対応に苦慮する小売店など現場の混乱ぶりを伝えるニュースは枚挙にいとまがない。やはり順調な滑り出しとはいかなかったようだ

 ▼もう一つ、消費税といえば話題になるのが駆け込み需要である。ところがこちらもそう大きな反応は見られなかった。皆先を読むことができず、様子眺めをしていたのだろう。消費税の駆け込み需用不発は政府も問題にしていなかろうが、北朝鮮のこのところの駆け込みの多さには頭を抱えていよう。花火でも上げるように間を置かず、ミサイルやいわゆる「飛翔体」の発射を繰り返している。ほとんどが日本に届かぬ短距離型とはいえ実に煩わしい

 ▼ジャーナリストの辺真一氏は自身のサイト「コリア・レポート」で、米朝実務者協議前の駆け込みだろうと分析していた。同じ見解の識者も多い。協議の行方によってはポンポン打ち上げるわけにはいかなくなるからである。実戦に耐え得る性能を有するには実験が欠かせない上に、発射を止め続けていると国内外から弱腰と評価されかねない。やるなら今のうちというところだろう

 ▼ただ、2日の潜水艦発射型(SLBM)とみられる弾道ミサイルは再び国連決議違反の一線を越えた。米国を直接攻撃できるSLBMがわが国の排他的経済水域内に落下したからである。隠していても相変わらず北朝鮮の爪や牙は鋭い。協議はきょう開かれるが、トランプ氏再選の実績づくりのために安易な妥協が行われないことを願う。


折茂武彦選手引退

2019年10月03日 09時00分

 行く手にどんな困難が待ち受けていようとも、夢を信じて進むのが一つの充実した生き方だろう。先日終わったNHK連続テレビ小説『なつぞら』の十勝編後段にこんな場面があったのを思い出す

 アニメーターになる夢をかなえるためには家を離れねばならない―。そう悩んでいたなつに泰樹じいちゃんが涙ながらに言うのである。「行ってこい。漫画か映画か知らんが、行って東京を耕してこい。開拓してこい」。厳しい自然に立ち向かい、荒れ地を農場に造り替えてきた開拓一世のじいちゃんにとっては、新たな世界を切り開こうとする者は皆開拓者だったのである

 ▼その伝でいくと、この人もまた開拓者と呼ばれるにふさわしい。バスケットボールBリーグ1部「レバンガ北海道」の折茂武彦選手兼代表(49)である。本道のプロバスケットボール界を耕し、常に先頭に立って引っ張ってきた。その折茂選手が今季限りでの引退を決めたという。おととい札幌市内のホテルで記者会見を開き、明らかにした。実業団時代は全日本メンバーとしても活躍。2007年に発足したばかりの「レラカムイ北海道」に移籍した。運営会社が経営難に陥ると、チームを救うため自ら「レバンガ北海道」を立ち上げ、本道にプロバスケの火をともし続けた

 ▼引退理由は体力の衰えではないという。そうだろう。ことし1月には日本人選手初の通算1万得点も記録している。ただお疲れさまと言うにはまだ早い。今季リーグはきょう開幕だ。本道のプロバスケを開拓した「レジェンド」の姿をしっかり目に焼き付けたい。


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