コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 175

豚コレラにワクチン

2019年10月02日 09時00分

 幕末のころ、江戸の人々を恐怖に陥れた妖怪がいたそうだ。その名は「虎狼狸(ころうり)」。いろいろ説はあるが明治時代に描かれた錦絵を見ると、文字通り虎の頭、狼の胴体、狸の睾丸(こうがん)を持つ獣として描かれている

 ▼当時、日本で伝染病が大流行し、江戸だけでも数十万人が感染した。人はバタバタと死んでゆくのに原因が分からない。これはきっと妖怪の仕業に違いない、とうわさになったわけだ。今では原因がはっきりしている。コレラだった。どうやら黒船に乗ってやってきた西洋人が持ち込んだらしい。そんなことは知る由もない江戸の人々である。その不安を思えば見えない敵を妖怪と信じても不思議はなかったろう

 ▼「豚コレラ」の感染拡大が止まらない。ここまで封じ込めにてこずると、これも妖怪の仕業でないかとばかげた想像もしたくなる。岐阜でたたいたはずが長野で発生し、大阪に出たと思えば埼玉にも飛び火するといった具合。発生が確認されてからかれこれ1年である。豚コレラも元はといえば黒船と同様に中国など海外から感染肉が入り込んだようだ。その肉に接触したネズミやイノシシがウイルスを各地の豚舎に広め、人や車の移動がそれに拍車を掛けた

 ▼封じ込めに万策尽きたのだろう。農林水産省がワクチン接種にかじを切った。接種した肉や加工品は輸出できなくなるが、ワクチンをせずに感染をさらに広げる事態にでもなれば日本産豚肉の信用は地に落ちる。妖怪がのさばるのをこれ以上許すわけにはいかない。目に見えないものとの厳しい戦いが続く。


関西電力役員に金渡す

2019年10月01日 09時00分

 子どものお迎え時間に遅刻する親が多いことに困った保育園が、遅刻に罰金を科してみたそうだ。最初は遅刻が減ったものの、そのうち意外な変化が出てきた

 ▼お金を払えば遅れても大丈夫と考える親が現れ、その行動はすぐ他の親にも広まったのである。「自分はお金でサービスを買っている」と自らの行動を正当化する気持ちが湧き、罰金制度の導入前にはあった遅刻に対する罪悪感がなくなってしまったらしい。親たちは罰金という「免罪符」を買うことで道徳的問題を解決し、遅刻の権利を手に入れた。この例を『ヤバい経済学』(東洋経済新報社)で紹介したスティーブン・D・レヴィットはそう分析している。魔力ともいうべきお金の力だろう

 ▼さて、こちらの元助役はどんな権利をわが手にしようとしていたのか。八木誠会長ら関西電力の役員に、高浜原子力発電所が立つ福井県高浜町の元助役が約3億2000万円相当もの金品を渡していたのである。少なくとも20人の役員が受領していたそうだ。報道によると元助役は原発担当の部署に着任した役員らにお祝いなどとして現金や商品券を持参。返そうとすると激高するため断れず、個人で保管していたのだとか

 ▼ただ金額が大き過ぎる。金を払っているのだから多少のことには目をつぶれという圧力だったか。役員らに悪気はなかったとしても、金を受け取ったことで元助役に「免罪符」を与えたのは確かだろう。たとえ事業を円滑に進めたかったとしても道徳を無視して良いわけがない。原発産業への信頼を揺るがした役員らの責任は重い。


あしたから消費税10%

2019年09月30日 09時00分

 保険やクレジットカード、携帯電話を購入するときに付きものの「利用規約」や「契約概要」を読む作業ほど苦痛なものはない。虫眼鏡がなければ識別できないような小さな字がページをびっしり埋め尽くすあの説明書きである。読ませたくないとしか思えない

 ▼昔から好きではなかったが、老眼になってからはもはや黒い点の羅列にしか見えなくなった。立ち向かうのは諦め、引き出しの奥にしまい込むのみである。ところがこの説明書き、実は結構大切な事柄がたくさん記されているからたちが悪い。まあ、読まないこちらが悪いのだが…。保険が下りない場合やカードの安全性、携帯使用の注意点など。いざ確認して驚くことが少なくない。商品内容がそれだけ複雑ということだろう

 ▼あしたから消費税率が10%に上がる。増税は嫌だが計算はしやすくなる、のかと思えばさにあらず。不本意ながら「利用規約」の類いが読みたくなるくらい、負担の仕方が分かりにくいらしい。理由は軽減税率の扱いである。飲食料品が8%に据え置かれるのはいいとしよう。さてそこからだ。例えばサプリメントやペットボトルの水は8%で薬や水道水は10%。ぜいたく品を高税率にするのではなかったか

 ▼電子決済時のポイント還元は値引き方法や還元率が店や決済手段でまちまち。店内飲食と持ち帰りで税率が変わるはずの外食も、価格に差をつける企業とつけない企業がある。プレミアム付き商品券はもらえたりもらえなかったり。全てを理解するには分厚い説明書きがいる。消費税もますます苦痛になりそうだ。


釜石でラグビーW杯

2019年09月27日 09時00分

 実現不可能に思える夢も信念を持って進めば必ずかなう。米映画『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)は見る者にそんなメッセージを伝える作品だった

 ▼過去に悔いを残す主人公レイがある日、トウモロコシ畑の中で謎の声「お前がそれを造れば、彼は来る」を聞く場面から物語は始まる。自分のやるべき事に気付いたレイは周囲がばかにするのも構わず大切な畑をつぶし、そこを野球場に変えてしまう。どうなったか。八百長疑惑で球界から永久追放されたシューレス・ジョーをはじめ、既に亡くなったはずの往年の名選手たちが次々と現れたのである。最初は戸惑っていた彼らもその特別な場でのプレーを大いに楽しんだ

 ▼いい話だがしょせんは作り話。そう考えるのが自然だろう。ところが同様のことが実際に起きたのである。それは東日本大震災で壊滅的被害を受けた釜石市に新設された「釜石鵜住居復興スタジアム」。ラグビー・ワールドカップ日本大会の一戦がこの会場にやってきたのだ。復興の励みになる何かをと地元有志が大会誘致に乗り出したのは震災直後のこと。ゼロどころかマイナスからのスタートだった。15年、ラグビーの街の熱意は認められ、国内で唯一会場がなかったにもかかわらず開催都市に決定

 ▼スタジアムはそれから、津波に破壊された釜石東中と鵜住居小の跡地に造られたのである。25日のフィジー―ウルグアイ戦は大会序盤屈指の好ゲーム。1万6000の席はほぼ埋まり、会場は熱気に包まれたそうだ。信念を持った多くの人がいたからこその奇跡だろう。


セクシーな方法

2019年09月25日 09時00分

 もう10年近く前になるが、組織人の生態をコント形式で面白おかしく描いたNHKのバラエティー『サラリーマンNEO』を毎週楽しみにしていた。ファンだったという人も多いのでないか

 ▼中でも異色のキャラクターとして絶大な人気を誇ったのが、沢村一樹さん扮(ふん)する「セクスィー部長」こと色香恋次郎である。毎回、強烈な男性的魅力で女性たちを骨抜きにしながら、会社を窮地から救って去っていく。色気をことさら過剰に演出した人物造形や、「セクシー」を本来の発音に近い「セクスィー」と呼び直させる遊び心が笑いを生んでいた。誇張しているとはいえほとんどの日本人にとって、「セクシー」はこうしたエロチックなイメージを帯びた言葉だろう

 ▼それが22日、国連で小泉進次郎環境相の口から飛び出したのだから皆が驚いたのも無理はない。気候変動に関連する会合後の記者会見で、「問題を解決するにはそれが面白く、カッコよく、セクシーでなければならない」と語ったのである。性的な興奮を利用して人にやる気を出させる、という趣旨ではなかったようだ。セクシーには俗語で「イカした」の意味があるのだとか。そもそも小泉氏は同席者の演説を引用しただけだったらしい

 ▼ただ正式な場で使わない言葉のためメディアが面白おかしく紹介した。新人大臣への洗礼だろう。今回に限らず小泉氏で気になるのは話題にはなるものの具体的中身のない発言が多いことである。このままでは女性人気が高いだけの「セクスィー大臣」になってしまいそうだが本人の自覚やいかに。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 川崎建設
  • 北海道水替事業協同組合
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,392)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,305)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,304)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (1,114)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,050)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。