コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 177

千葉の停電

2019年09月13日 09時00分

 ことわざに「雨晴れて笠を忘る」がある。雨が降っている間は体の一部のようになっていた笠なのに、晴れたときにはもう頭の中から消えていたというのである。現代なら笠でなく傘だろう。当方もいったい何本買い直したものやら

 ▼どうやら人は忘れっぽい生き物のようだ。傘に限らない。電気もである。胆振東部地震から1年が過ぎ、それが当たり前に届けられるありがたさを忘れかけていた人も多いのでないか。台風15号の影響により暴風が吹き荒れた千葉県全域で停電が発生していると聞き、昨年本道で起きたブラックアウトの記憶がよみがえった。生活を支え、人の命を守る電気が断たれ、情報も物流も回らない。便利な暮らしも足元は案外もろいことを実感させられた

 ▼千葉県では発生から4日たったきのう午後5時現在でなお31万軒以上が停電していた。東京電力はもとより、北海道電力など全国から技術者が続々と現地に駆け付け、自衛隊や消防、警察と協力しながら早期復旧に努めているそうだ。道民がそうだったように県の方々もきょう回復するか、あしたこそはと祈るような思いだろう。酷暑の中でエアコンが使えず、冷蔵庫も役立たない。水が出ない所もあるというから事は緊急を要する

 ▼送電塔が2本倒れ、電柱損壊は数知れず。倒木のため現場に近付けない所も多く、作業は難航を極めているのだとか。一日も早く安全な暮らしが戻るよう願うばかりである。日本ではいつ災害に襲われるか分からない。晴れている日も傘のありがたさを忘れず、もしものときの備えもしておきたい。


内閣改造

2019年09月12日 09時00分

 優れた組織とは―。組織人なら誰でもその答えを探していよう。経営評論家大橋武夫氏は著書『兵法 孫子』(PHP文庫)でサッカーやバレーボールのチームを答えの一つとして例示していた

 ▼いわく、「どこへボールがとんで来ても、全選手が機敏に反応して行動を起こし、遊んでいるものはない」。ボールから離れていて動いていない選手も常に作戦を意識し、すぐに行動できる態勢が整っているというわけだ。こちらの組織は理想のチームに仕上がったのだろうか。第4次安倍再改造内閣がきのう発足した。ざっと見て気付くのは、在職日数が歴代2位となった今も変わらぬ安倍首相の意欲である。全19閣僚のうち13人を初入閣させる大胆な入れ替えで、息の合う議員を多数迎え入れた

 ▼何より政権の最中枢である麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官はそのまま残し、「地球儀を俯瞰する外交」を両輪で進めてきた河野太郎前外務相は防衛相に横滑りさせている。皆が同じ目標を向いたチームは強い。首相の掲げる「安定と挑戦の強力な布陣」とはそのことだろう。国政では消費増税や社会保障改革、憲法改正、外交では自由貿易の推進や歴史問題、軍事対立など日本の前には多くの難題が横たわっている。政権が盤石でないと解決の糸口さえ見つけられない

 ▼一つ心配なのは、少したつと往々にしてボールを無視して遊びだす者や勝手なプレーで試合を台無しにする者が現れることである。持論に固執した監督が暴走する展開もないとはいえない。さてこのチームはどれだけ点数を挙げられるか。


台風15号の強風

2019年09月11日 09時00分

 江戸時代の絵師歌川広重が江戸から京都までの宿場風景をいきいきと描いた浮世絵に「東海道五拾三次」がある。永谷園のお茶漬けに付録として入っているカードの絵を思い出す人も多いだろう

  ▼このうち44番目の「四日市」は、三重川のほとりの一本道を草木が大きく揺れるほどの強風が吹き荒れている場面。その中を歩く一人の旅人はかっぱを必死に押さえ、もう一人は飛ばされた編み笠を慌てて追いかけている。風景に動きを持たせることで、本来は目に見えないはずの風を見えるようにした広重の技だろう。この名浮世絵師の表現する風情とは趣を異にするが、今回の強い台風15号でも見えないはずの風が見えるようになった出来事が多々あった

 ▼君津市で東京電力の送電用鉄塔2基が倒壊したのをはじめ、市原市ではゴルフ練習場のネットと支柱が倒れ住宅複数を直撃、羽田空港の駐車場では改修中の工事用足場が崩れた。不幸なことに強風にあおられて転倒し、頭を打って亡くなった女性もいたという。千葉県は特に被害が大きかったらしい。最も驚いたのはやはり市原市の山倉ダムで発生した水上メガソーラー火災である。映像で見るとかなりめくれ上がったり折り重なったりしていた

 ▼投資回収率の高さから急増したメガソーラーだが安全性や環境面で配慮不足の施設もあり、地震や豪雨のたびに事故が伝えられる。自然に優しい開発がなされているかいま一度点検が必要だろう。ともあれメガソーラーを含め構造物は、広重が風の絵に使えないくらいしっかりと安定していてほしいものである。


10月から消費税

2019年09月10日 09時00分

 山登りをする人はお分かりと思うが、「偽ピーク」と呼ばれるものに出くわすことがたまにある。山頂の手前にあるそれとよく似た形状のとんがりのことだ

 ▼これがなかなか登山者泣かせなのである。偽ピークを山頂と思って息も絶え絶えにたどり着いてみると、その先に本物がそびえ立っているという具合。もう山頂までそれほど遠くではないものの、体力を使い切ってへとへとの中でのこの距離はかなりこたえる。消費税も似たところがありはしないか。増税まであと20日あまり。息切れへの不安がにわかに高まりつつある。8%から10%への上積みは2%にすぎない。ただ8%の偽ピークで青息吐息だった消費者には、そこから山頂へ続く2%の道のりが数字以上に険しく感じられよう

 ▼ほとんどの飲食料品が軽減税率の対象になるとはいえ、生活に欠かせない電気やガス、上下水道、灯油にはそのまま上乗せ。もとより家具や家電、エコカー減税対象外の車といった値が張る商品は2%でもばかにならない。来月から10%が適用され、ほどなく冬である。特に電気代や暖房費がかさむ本道はじめ積雪寒冷地にとっては別の意味でも寒い冬となろう。光熱費関係は経過措置もありすぐに上がるわけではないが、猶予もせいぜい1、2カ月だ

 ▼いざ始まると日本経済に大ブレーキがかかってもおかしくない。そうならないよう、政府も疲れた国民を頑張って登らせる分厚い補正予算を組むのだろう。そうして必死にたどり着いてみると、その向こうで財務省がさらに高い15%の山頂をそびえさせていたりして。


日ロ首脳会談

2019年09月07日 09時00分

 ロマン主義詩人の代表格とされる島崎藤村の詩集『若菜集』に、「逃げ水」と題する一編があった。藤村らしい叙情あふれる作品である

 ▼冒頭の部分を引く。「ゆふぐれしづかに ゆめみんとて/よのわづらひより しばしのがる/きみよりほかには しるものなき/花かげにゆきて こひを泣きぬ」。夕暮れ時に過ぎ去った恋の思い出にふけろうと、二人しか知らない秘密の場所へ行き泣いていた、というのである。失くした恋を、追っても追ってもつかまえられない逃げ水になぞらえているのだろう。安倍首相も目の前に見えてすぐにつかめそうに思っていた水が、再び遠くに離れてしまったように感じているのでないか。北方領土問題を含む日ロ間の平和条約締結の件である

 ▼5日にウラジオストクでプーチン大統領と首脳会談を開いたものの、交渉を前に進めることはほとんどできなかったようだ。2016年の日本、17年のAPECでの首脳会談あたりまでは事態が大きく進展しそうに思えていたのだが。今は首相がプーチン氏に、一方的にラブコールを送っているように見える。早期返還を願う日本にとってはやきもきさせられる話でないか。今回、両首脳が合意したのは「未来志向」で交渉を続けることだけだったそうだ

 ▼プーチン氏は最近の変動著しい大国間のパワーバランスを眺めて、もう少し日本に「未来」という逃げ水を見せておこうと判断したのかもしれない。ロシアは昔からしたたかな国である。日本も陰で「泣きぬ」では話にならない。ロシアに本物の水を出させる方策を練らねば。


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