コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 178

防災関係予算

2019年09月06日 09時00分

 暗い中に稲光が走ると周囲が一瞬明るくなり、見慣れた風景もどこか異様に感じられる。昼でも気持ちの良いものではないが夜だと恐ろしさが増す。「いなびかりみなとみらいに空地あり」太田良一。3日の横浜ではそれが延々と続いたらしい。皆気の休まる暇もなかったろう

 ▼雨の降り方も激しく、一時は大雨警報も発表された。横浜駅は水浸しになり市内では内水氾濫も発生。横浜ではめったにないことだそうだ。豪雨被害のニュースが引きも切らない。三重では5日明け方までの6時間雨量が200㍉を超え、土砂災害警戒情報が出された。先月26から29日にかけても佐賀や長崎、福岡を中心に雨が降り続き、厳重な警戒が呼び掛けられたばかり。その都度、堤防決壊や土砂崩壊、床上浸水、農地被害におびえねばならない

 ▼自然災害には大きく分けて天から来るものと地から来るものの二種類ある。天由来のものの代表格が雨なら、地由来のもののそれは地震だろう。胆振東部地震からきょうで1年である。思いはどうしても災害に向く。気になるのは防災関係予算。実に心もとない。小泉政権が2005年度に3兆円に減らし、民主党政権が10年度に過去30年間で最低の1兆3000億円にまで削った。東日本大震災で上積みされたものの、再び減り本年度当初は2兆円台半ば。災害復旧に多くが費やされるため予防に十分手当てできないのが実情だ

 ▼頻発する豪雨、予測される巨大地震。いつか見た映画を思い出す。ゴジラが襲ってくると分かっているのに、防御する手段がまるで足りていなかった。


どの国で働きたい?

2019年09月05日 09時00分

 英金融大手HSBCホールディングスが先日発表した「海外駐在員が住みたい・働きたい国ランキング」の結果を見て、いささか考えさせられた。33カ国中、日本がビリから2番目だったのである

 ▼しかも調査対象は先進国ばかりでない。いわゆる発展途上国も含まれている。日本はどの国よりも素晴らしいなどと言うつもりもないが、まさか32位とは。ちなみにベスト3は順にスイス、シンガポール、カナダだった。各国は生活の質や収入、政治的安定性、キャリア形成、子どもの教育といった多くの指標で比較され、それを総合したスコアで順位が決められる。個別の指標を見ると日本は政治的安定性が6位、生活の質と経済的安定性が13位。これだけ見るとさほど悪いわけではない

 ▼ところが収入とワークライフバランス、子どもの教育は何と最下位の33位。子どもの友達のつくりやすさも32位と際立って低い。長引くデフレによる収入の低迷や働き過ぎ、閉鎖的な社会環境が日本の評価を下げているようだ。身近な国としてはインド18位、米国23位、フィリピン24位、中国26位など。例えば中国は生活の質と心身の健康が著しく低いものの収入は極めて高く、子どもの成育環境も悪くない

 ▼日本はことし4月、深刻な人手不足解消のため入管法を改正。外国人材受け入れ増にかじを切った。ただ、国際社会の目はこの順位の通りである。研修に名を借りた外国人の低賃金労働も名を落とす一因になっていよう。来月からは消費税も上がる。政府は受け入れの旗を振る前にもっとやることがあるのでないか。


ヒグマが人里に

2019年09月04日 09時00分

 アイヌ文化の伝承と研究に一生をささげた萱野茂氏がまとめたアイヌ民話集『炎の馬』(すずさわ書店)に、「ユカラを聞きたいクマ」という話があった。長らく山奥に暮らしていた一匹のクマが自分の身に起こったことを語るのである。アイヌ民話はこうした主人公による独白形式が多い

 ▼クマはこう語り始める。「ある日のこと、人間の住んでいる里へ行ってみたくなり、ゆっくりゆっくり山を降りて来ました」。クマは人里へ遊びに行ってみたかったのである。なぜかというとそこでは「神の国でも食べたことのない」おいしいだんごや菓子、干し魚、山菜、酒をたっぷりと飲み食いさせてくれるから

 ▼最近も同じかもしれない。札幌をはじめ北広島、江別の住宅街でヒグマの出没する例が後を絶たない。住宅街には「山では食べたことのない」おいしくてカロリーも高い備蓄食材や残飯、畑作物がたくさんある。果実やドングリ、小動物をちまちま探して歩くより効率がいい。きっと神に戻った気分だろう。藤野に居座っていた個体は駆除されたものの、小別沢や清田、江別市森林公園内、北広島市西の里とその後も目撃、食痕の情報は枚挙にいとまがない。当社「e―kensin」のクマ情報マップを見てもその多さは一目瞭然だ

 ▼通常は木の実の豊富な秋には山から出ないとされるが近頃は様子がおかしい。推計に反して増え過ぎていないか、個体数の把握にも本腰を入れるべきでないか。先の民話で歓迎の宴が開かれるのはクマを眠らせ(殺し)てからである。そんな事態はできるだけ避けたい。


柔道男女混合団体戦

2019年09月03日 09時00分

 講道館四天王の一人、柔道家富田常次郎は1905(明治38)年から明治の終わりまで米国で柔道を教えていた。当時、こんなことがあったそうだ。次男の富田常雄が書き残している

 ▼ボクサーが常次郎に試合を申し込んできた。柔道は見世物でないと拒んだものの納得しない。度重なる挑戦にとうとう断りきれなくなり試合を受諾。日本柔道を代表する者として、やるからには負けられない。丸一日、作戦を練った。常次郎は試合開始と同時に床に寝転んだ。そして攻めあぐね態勢を崩しながら打ち掛かってきた相手に見事なともえ投げを決めたのである。時代は違えど、日本代表としての責任感と誇りは常次郎と寸分の違いもなかったろう

 ▼柔道・世界選手権東京大会の最終日に行われた男女混合団体戦で、日本がフランスを下し金メダルを獲得した。お家芸として勝って当たり前とされる中、しかも日本武道館での試合である。大会3連覇がかかってもいた。選手はどれほど重いプレッシャーを感じていたか。柔道は個人競技だが、6人でチームを組む団体戦には独特の面白さがある。負ける選手がいても、先に4勝すれば良いのである。見ている方は一喜一憂、興奮の大きな波が寄せては返す

 ▼対戦で芳田司と村尾三四郎は惜しくも敗れたものの、影浦心と大野将平の機を見るに敏な技の切れ味、新井千鶴と浜田尚里の盤石な寝技はまさに圧巻。今大会で日本は金5個、銀6個、銅5個のメダルを獲得した。来年の東京五輪では男女混合団体戦が新種目として加わる。また一つ五輪を見る楽しみが増えた。


世界初のiPS角膜手術

2019年09月02日 09時00分

 見えるありがたさを目の不自由でないわれわれは忘れがちだ。富士メガネ(札幌)がボランティアで続ける海外難民視力支援を知り、それを痛感させられた

 ▼目で情報を得られない難民の生活は極めて過酷。状況を改善しようと1983年から、同社は世界中の難民らに眼鏡を贈る活動に取り組んでいるのである。創業者金井武雄氏の「モノが見えることで、人生を助けることもできる」との思いが基礎にあるという。活動を伝える『日本でいちばん大切にしたい会社2』(あさ出版)に印象深い一節があった。国連難民高等弁務官事務所から掛けられた感謝の言葉だ。「〝視覚〟という贈り物は貴重だ。視力が回復するや、個人の人生は大きく変わる。子供も大人も学習が可能となり、阻害された状況から立ち直ることができる」

 ▼西田幸二大阪大教授(眼科学)らのグループが人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した角膜組織を患者に移植する世界初の手術を実施したとの報に触れ、先の例を思い出した。今回の臨床研究が成功すれば、亡くなった人からの角膜提供を待つしかなかった多くの患者を救うことになる。容易に手に入らなかった眼鏡を必要なだけ供給できる体制が整えられるようなものだ

 ▼幸い手術後の経過も良く、ほぼ見えない状態だった40代の女性の視力は日常生活に支障がない程度にまで改善しているとのこと。危惧されていた拒絶反応も起きていないそうだ。うれしかったろう。人生を大きく変える視覚という貴重な贈り物が、回復を願うたくさんの患者に早く届けられるといい。


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