日本経済の底力の源泉が中小企業にあるというのは神話のようなものだ―。小西美術工藝社社長を務める経済評論家デービッド・アトキンソン氏は『日本人の勝算』(東洋経済新報社)でそう分析する
▼中小企業は高度成長期に雇用の受け皿が大量に必要になって増えたもので、当時、屋台骨だったのは間違いない。ただ今では経営資源が分散されることで逆に生産性向上を阻害する要因になっているとの指摘である。では神話を抜け出し現実を生きるにはどうすればいいか。アトキンソン氏の処方箋は企業規模の拡大だ。学校が統廃合するように企業も集約の方向に進み、人や技術、知識、資金を効率的に運用して新しい価値を生み出すべきだという
▼中小企業はもちろん、世界市場の中では大企業もこの例外ではない。トヨタ自動車とスズキの狙いも同じだろう。おととい、両社が資本提携に合意したと発表した。これでトヨタ連合、日産・三菱連合、ホンダの国内自動車業界3陣営の競争は一層激しさを増す。自動車業界は今、自動運転やICT活用、電動化といった最先端技術の開発で異業種からの参入が相次ぐ大変革期。そんな中、スズキとしては単独では難しい自動運転技術を共同開発でき、トヨタとしてもスズキが圧倒的シェアを持つインド市場に飛び込める。経営資源をそれぞれの得意分野に集中できるメリットは計り知れない
▼人口が減り市場が縮小に向かう国内では特に、自動車に限らずさまざまな業界でこれから合併や提携、グループ化の流れが進むのだろう。神話の出る幕はなさそうだ。