古典落語のため現代の倫理観とは相いれない部分もあるが、当時の世俗ゆえお許し願いたい。遊郭を舞台にした「三枚起請」というドタバタ劇がある
▼遊女が客をつなぎ止めるため、何人もの男に「年季が明けたらあなたと夫婦になります」としたためた証文を渡していたという噺だった。もらった者たちはそれぞれ、自分こそが本当にほれられた男と信じて通い詰めるのだが―。ある日、真相がばれて大騒ぎになる。証文は本人が手ずから書き、ご丁寧に判まで押してある本物。ただ内容には疑義があったというわけだ。全部うそだったかどうかは「正確性や作成の経緯が判明しないため精査が必要」だろう。昨今話題の総務省文書同様、ひっそり作られた文書とはそういうものである
▼松本剛明総務相が7日、立憲民主党の小西洋之参院議員が〝国家権力が放送に介入した証拠〟として先に公表したその文書は「行政文書」だと認めた。ところが残されている文書の内容が全て事実かどうかは分からないという。これが注目されたのは小西氏が、当時総務相だった高市早苗経済安全保障相が放送法の解釈をねじ曲げた記録だと告発したため。文書は78枚に及ぶが、高市氏は自身に関する4枚の記述は「捏造だ」と反論。事実なら辞職するかと国会で問われ、結構だと応酬した
▼文書を見ると確かに高市氏に関する部分は日時も場所も不明で誰が言ったかもはっきりしない。行政文書なのに真実味がないのである。小西氏は総務省の職員からひそかに受け取ったと聞く。さて思わぬオチに驚くのは誰になるのか。