コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 18

総務省文章のオチは

2023年03月09日 09時00分

 古典落語のため現代の倫理観とは相いれない部分もあるが、当時の世俗ゆえお許し願いたい。遊郭を舞台にした「三枚起請」というドタバタ劇がある

 ▼遊女が客をつなぎ止めるため、何人もの男に「年季が明けたらあなたと夫婦になります」としたためた証文を渡していたという噺だった。もらった者たちはそれぞれ、自分こそが本当にほれられた男と信じて通い詰めるのだが―。ある日、真相がばれて大騒ぎになる。証文は本人が手ずから書き、ご丁寧に判まで押してある本物。ただ内容には疑義があったというわけだ。全部うそだったかどうかは「正確性や作成の経緯が判明しないため精査が必要」だろう。昨今話題の総務省文書同様、ひっそり作られた文書とはそういうものである

 ▼松本剛明総務相が7日、立憲民主党の小西洋之参院議員が〝国家権力が放送に介入した証拠〟として先に公表したその文書は「行政文書」だと認めた。ところが残されている文書の内容が全て事実かどうかは分からないという。これが注目されたのは小西氏が、当時総務相だった高市早苗経済安全保障相が放送法の解釈をねじ曲げた記録だと告発したため。文書は78枚に及ぶが、高市氏は自身に関する4枚の記述は「捏造だ」と反論。事実なら辞職するかと国会で問われ、結構だと応酬した

 ▼文書を見ると確かに高市氏に関する部分は日時も場所も不明で誰が言ったかもはっきりしない。行政文書なのに真実味がないのである。小西氏は総務省の職員からひそかに受け取ったと聞く。さて思わぬオチに驚くのは誰になるのか。


日韓関係改善なるか

2023年03月09日 09時00分

 毎週日曜日の夜、テレビ朝日系列の音楽番組『関ジャム 完全燃SHOW』を楽しく見ている。前回の特集はK―POP(韓国ポップス)のガールズグループだった。華やかで精度の高いダンスと歌唱力に定評がある

 ▼昨年末のNHK紅白歌合戦にも3組が出場していた。年配の方々の中には、なぜ日本でこんなにK―POPが押されているのかと、いぶかしんでいる人もいよう。若者を中心に今、大人気なのである。何を隠そう当方も2010年に日本デビューしたガールズグループの草分け的存在「少女時代」のファンだった。ただ、半導体を巡る貿易摩擦や韓国海軍艦艇の海上自衛隊艦へのレーダー照射、「元徴用工」訴訟など日韓間に次々ともめ事が起き、韓国の不誠実な態度にすっかり熱が冷めてしまった

 ▼少女時代に罪はないが、こればかりは気持ちの問題だから仕方がない。他の国の文化を楽しめるのも、友好な関係があってこそである。さて今度は、長く両国に刺さっていたとげが抜けるだろうか。韓国が6日、韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工問題の解決を図るため、政府傘下の財団が賠償を肩代わりすると発表。日本も受け入れる意向を示した。関係改善の端緒とするもので、貿易や安全保障も正常化させる狙いらしい

 ▼要は水に流そうという話だが、煮え湯を飲まされ続けた日本には割り切れぬ思いの人も多かろう。とはいえ韓国との間に垣根のない若者の姿が理想なのは確か。韓国の政権が代わった今はいい機会でもある。筋を通しながらも前へ進む潮時なのかもしれない。


児童生徒の自殺

2023年03月07日 09時00分

 人気音楽グループ「ケツメイシ」に、後世へつなぐ希望を歌った『子供たちの未来へ』(2008年)がある。CMにも使われたため覚えている人もいよう

 ▼胸に響くこんな一節から始まる。「たった一つの巡り合いから生まれた 君とのすれ違いの時代へ 君の為に 君たちの為に 何をし何を残してやれるだろう 子どもたちの未来が 想像よりも幸せで また その子どもたちの未来も 君よりもっと幸せで」。大人たち誰もが心から願っていることでないか。ただ、そんな思いとは裏腹に、子どもたちにとって今は受難の時代らしい。厚生労働省が先月発表した統計によると、昨年1年間に自殺した小中学生と高校生の数は512人(暫定値)に上り、過去最多を記録した。500人を超えるのも初めてだという

 ▼高校生が前の年より38人も多い352人、小学生が6人多い17人、中学生が5人少ない143人だった。高校生の増加が目立つが、もともと少ない小学生が6人増えているのも気になるところ。原因を見ると学業不振や進路の悩みが1番で、心の病気、親子関係の不和がこれに続く。失恋や友人との仲たがいも少なくない。自殺はコロナ禍に突入した2020年から急増している。行動の自由を奪い、生きる意欲を失わせた結果だろう

 ▼自殺は一線を越える行為。それがこれだけ増えているということは、もっと大勢が過酷な状況にあると見て間違いない。コロナ対策は児童生徒への目配りが足りなすぎた。子どもたちの未来のためにどうすべきか。今後のためにもいま一度見つめ直したい。


諫早湾干拓事業開門せず

2023年03月06日 09時00分

 会社の経営者を題材にした、こんなジョークを聞いたことはないだろうか。部下が社長に尋ねるところから話は始まる

 ▼「社長、イエスマンについてはどうお考えですか」。社長が答える。「私の言うことにただ従うだけの社員など必要ない。私がおかしなことを言っていると思ったら反対の意見を堂々と突きつけるべきだ」。「社長、お言葉ですが…」。部下が口を挟もうとすると社長が怒鳴る。「私に逆らうな」。社長はこれで大真面目なのだから始末が悪い。世の中には矛盾した出来事が案外あるものである。とはいえ国の事業に絡むこれほどの矛盾も珍しい。長崎県の諫早湾干拓を巡る複数の裁判で、締め切り水門を「開けよ」の判決と、「閉めよ」の判決が長らく並立していたのだ

 ▼干拓と防災が目的のため事業は閉門を前提としていた。漁業者は水質の悪化を理由に開門するよう提訴。これが通った。ところが今度は農業者らが営農被害と災害防除を理由に開門しないよう提訴。これも通ったのだった。開けたい方も閉めたい方も正当な根拠を持つ、奇妙な事態が生まれたのである。開門判決は2010年。当時の首相菅直人氏が自民党の進めた事業に反対だったため国として上告をせず、開門が決まった。一方、自民党への政権交代後に起こされた裁判では事業効果が再評価され、開門差し止めの判決が出た

 ▼この不毛な状況にやっと終止符が打たれた。最高裁が2日、開門を認めないとの判断を下したのだ。「私に逆らうな」と幅を利かす政治家に現地の方々がいいように踊らされた年月だった。


西山事件と報道

2023年03月03日 09時00分

 かつて中国のある指導者は「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕るのが良い猫だ」と言ったそうだが、日本でも最近、それを思い出させる言説が相次いだ。先月末に西山太吉元毎日新聞記者の訃報が伝えられてからのことである

 ▼西山氏は沖縄返還に絡む日米の「密約」を暴こうと、外務省の女性事務官を利用して資料を持ち出させた人物。2人は裁判にかけられ、女性は一審で有罪、西山氏も最高裁で有罪が確定した。最高裁の判決には「初めて誘って一夕の酒食を共にしたうえ、かなり強引に肉体関係をもち」、持ち出しをそそのかしたとある。西山氏は入手した資料を社会党の議員に渡し、国会で政府を追及させることまでしていた。報道倫理はどこへやら

 ▼ところが訃報が出ると多くのメディアやジャーナリストが、密約を暴いた孤高の記者だと西山氏を持ち上げたのである。朝日新聞の現役記者などはツイッターに「目的が手段を浄化する」と投稿した。政府に楯突くのが良いジャーリストというのだろう。大きな勘違いをしていると思わざるをえない。当時、やはり朝日新聞だが、名執筆者深代惇郎氏は『天声人語』で西山氏の姿勢に強く疑問を呈した。取材が報道目的だけで使われなかったことに加え、ニュースソースを明かした点や、取材に男女関係を利用した事実がモラルに反するというのである。深代氏は女性に深い哀れみの念を示してもいた

 ▼「西山事件」は1972年。あれから50年が過ぎ、教訓が風化しているとすれば問題だ。報道至上主義の思い上がりから信頼が生まれるはずもない。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 日本仮設
  • 川崎建設
  • 東宏

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,370)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,287)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,278)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,072)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (987)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。