コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 183

暑さ厳しく

2019年07月30日 09時00分

 やろうと思っていることはあるのだが、どうでもいいことにかまけてつい先延ばしにしてしまう。覚えのある人も多いのでないか

 ▼作家の大竹聡さんもエッセー「夏の揺るがぬ決心」に書いていた。陶製の火鉢を手に入れたからメダカを飼おう、野菜の苗を買ったから畑仕事をしよう、と心に決めていたそうだ。ところが暑いため朝からダラダラしているとそばが食べたくなり、そば屋に行くと冷酒が飲みたくなり…。「ぴりっとくる生姜をかじり、酒をひと口。出汁巻きの、毎度毎度のため息のでるうまさに目を潤ませ、またひと口。ぐびり」。かくしてあしたこそは「片をつける」、と決心は持ち越されていくのである

 ▼こう暑くてはその気持ちもよく分かるというもの。「わが町を梱包したる暑さかな」国井貞子。ちょうどそんな感じだろう。本道の広い範囲で真夏日が続く。夏でも涼しいはずの釧路や稚内でも夏日が頻繁に現れるくらいだから、道産子にとっては難儀である。決心など思い出す余裕もない。この厳しい暑さは全国的で、高気圧が広く張り出してくるためあと10日ほど続くという。特に西日本では35度を超える猛暑日もあるそうだ。急速に暖められた空気は大気を不安定にし、ゲリラ豪雨や竜巻を呼ぶこともある。熱中症ともどもしばらくは警戒が必要だろう

 ▼本道も事情は同じ。子どもや高齢者、外で働く人には塩分と水分の摂取にとりわけ配慮が必要だ。水分補給にはならないものの、ときには暑気払いで昼間からビールを飲むのもいい。仕事は、まあ、あしたからで良いではないか。


夏休み

2019年07月29日 09時00分

 学校に通う子どもを持つ親にはいささか憂鬱(ゆううつ)な時期だろう。本道も先週から小、中学校で夏休みが始まった

 ▼子どもには休みでも、特に母親にとっては忙しい日々になることが少なくない。昼食を毎日用意したり、不規則になりがちな生活に気を配ったり。けがや事故にだって注意が必要だ。「登校日これからママの夏休み」女七変化(『平成川柳傑作選』毎日新聞出版)。そんな母親も多いに違いない。父親だっていつものようにのんびり構えているわけにはいかない。見て見ぬふりを決め込んでいたら、妻からも子どもからも冷たい視線を浴びせられよう。「子はなぜに妻の味方につくのだろう」さみしがりやのお父さん(第一生命『サラリーマン川柳』)。愚痴を言ったからとてどうなるものでもない

 ▼暑いからとビールばかり飲んでいないで、祖父母の家に遊びに行ったり、普段できないレジャーに連れて行ったりと行動あるのみである。子どもと共に過ごせる時間は思っているほど長くない。文豪ドストエフスキーも『カラマーゾフの兄弟』(光文社文庫)で三男のアレクセイにこう言わせていた。「何かよい思い出、とくに子ども時代の、両親といっしょに暮らした時代の思い出ほど、その後の一生にとって大切で、力強くて、健全で、有益なものはない」

 ▼折しも本年度から働き方改革で有休を5日取得させない使用者には罰則が科されることになった。胸を張って休暇を申請できよう。親としては大変さもあるが子どもの健全な未来のため。この夏休み、大いに楽しもうではないか。


福島の原発全機廃炉

2019年07月26日 09時00分

 人は事件や事故、大きな災害などに巻き込まれるとトラウマ(心的外傷)を負うことがある。過度なストレスによって心の安定を保つ堤防が決壊してしまうのだ

 ▼症状の現れ方は人それぞれだが、訳もなく不安になったり、怒りや悲しみの感情を抑えられなくなったりする例が多いという。頭痛や呼吸困難といった身体症状が現れるケースも珍しくないそうだ。誰にでも起こることで、心の強い弱いは関係ないらしい。トラウマを負ったときには悪化させないよう原因となった出来事には触れないことが大切。特別な場合を除き想起させる場所や人物にも近づくべきでないとされる

 ▼だとするとやりくりして続けるよりこうなった方が良かったのかもしれない。東京電力ホールディングスがおととい、福島第2原子力発電所1―4号機を廃炉にすると正式表明した。2011年の東日本大震災で事故を起こした同第1原発の1―6号機は既に廃炉が決まっているため、これで福島県にある原発10基全てが廃炉になる。精神医学の定義に則った言い方ではないが、福島の原発に対しては県民のみならず日本人のほとんどがある種のトラウマを抱えていよう。事態は収束に向かっているとはいえ、事故の象徴たる福島の原発に心をかき乱される人もまだかなりいるのでないか

 ▼第2原発は事故とは関係がないものの、原子力規制委員会の安全審査に基づき再稼働を進める他の地域の原発と同列に論じることはできまい。トラウマを乗り越えるにはきっかけが必要である。福島原発の全機廃炉がその第1歩になればいい。


京アニ放火事件

2019年07月25日 09時00分

 北米アラスカの雄大な自然を撮り続けた写真家の星野道夫さんが著書『旅をする木』(文春文庫)に、感動を人に伝えることについてこんなエピソードを記していた。ある夜の友人との会話である

 ▼二人は宇宙に手が届くようなアラスカの星空を眺めていた。美しさに心を動かされ、この気持ちを人に伝えるにはどうすればいいか話し合ったらしい。そのとき友人はこう言ったそうだ。「自分が変わってゆくことだ」。写真を撮っても、絵を描いても、言葉をつづってもそのとき感じた気持ちは正確に伝わらない。感動を糧に成長した姿を見せることができてはじめて、それがどれだけ大きかったか伝わるというのである

 ▼彼ら、彼女らにとってその星空はアニメーションだったに違いない。非道な放火によって命を奪われた34人の方々である。感動を与えてくれたアニメを糧に成長し、仕事に選んだ方ばかりだろう。京都市伏見のアニメ制作会社京都アニメーション第1スタジオ放火事件からきょうで10日である。犠牲になった34人のうち、半数以上が20―30歳代の若者とみられるという。痛ましい以外の言葉が見つからない。しかもいまだ全員の身元確認はできていないそうだ。どれだけひどい火事だったか

 ▼亡くなった方々は自分が受けた感動を優れた作品に変え、多くの人に広めていた。悩みながら成長していく生徒の姿を描いた学園物も多く、等身大の物語に励まされた人も多いと聞く。これからもたくさんの感動を伝えるはずだった。その未来は永遠に失われた。こんな蛮行を許すわけにはいかない。


日記の中身

2019年07月24日 09時00分

 本田技研工業創業者の本田宗一郎氏は経営手腕の高さだけでなく、独特の表現で的確に世事全般をひもといてみせることでも有名だった。経営者の資質論もその一つ。著書『俺の考え』(新潮文庫)で、なるほどその通りかもと思わされる興味深い見方を披露している。題して「消しゴムのない日記」

 ▼氏は経営者の一番大事な資質は信頼だとする。ただし信頼できる人物かそうでないかは言葉や文字では分からない。そこでどうするか。日記を見るのだそう。その人物が日頃周囲に見せている姿や行動という消せも隠せもしない「日記」をである。それで信頼が裏付けされなければ「百万べんしゃべったって、どんなPRしたって人はついてこない」

 ▼岡本昭彦吉本興業社長のおとといの記者会見を見て、その日記の話を思い出した。日本を代表するお笑い事務所の社長としては内容があまりにお粗末。所属芸人までもが次々と不満を述べていることから察するに、「日記」の中身もかなりずさんな人なのだろう。今回の件は看板芸人の宮迫博之、田村亮両氏らが反社会的勢力の会合に出席し、金銭を受け取ったことが発端。両氏が20日に謝罪会見を開いた際、吉本側から不当な扱いを受けたと告白し、これに応える形で岡本社長が登場したのだった

 ▼ところが会見は5時間半も続いたのに、不当な扱いや責任の所在に関しては要領を得ないまま。受け答えもちぐはぐで吉本ならではのユーモアもない。やれやれな気持ちにさせられたが、そこでふと気になったのは自分の「日記」。はて、中身はどうだろうか。


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