コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 19

林外相G20欠席

2023年03月02日 09時00分

 助けた亀に連れられて竜宮城へ行った「浦島太郎」の話はご存じだろう。おいしいごちそうが次から次へと供され、タイやヒラメがきらびやかに舞い踊る。しかも美しい乙姫さまが付きっきりでもてなしてくれるのだから、月日が経つのを忘れるのも当たり前

 ▼城にとどまってさえいれば雑事に煩わされることも、面倒な人間関係に悩まされることもない。誰もが憧れる話である。残酷な現実を突きつけられるまでは。元の場所に戻ってみると数百年が過ぎていて、見知らぬ世界に一人取り残されてしまった。安楽に溺れたツケ。日本もそうなりはしないか。林芳正外相が1、2の両日にインドで開かれる20カ国・地域(G20)外相会合に欠席する。参院の日程と重なるため日本にとどまるという

 ▼理事懇談会で決まったそうだ。G20に出席するのは国会の軽視だと野党が問題視し、2023年度予算の審議でもめたくない政府がこれを受け入れた。波風を立てたくないというわけだ。対決を避け楽をしたのである。世界はウクライナ問題をはじめ食料やエネルギーの安全保障、経済の不安定化など危機的状況にある。一日でがらりと情勢が変わることもしばしばだ。その渦中に日本もいる。これほど外交が重要なときはない

 ▼予算案は既に衆院を通過し、年度内成立が決まっている。国益と国際社会への責任を考えれば外相のG20出席を優先すべきだろう。存在感が薄れるとかつてのような「ジャパンパッシング」も起きかねない。気づいたときには見知らぬ世界に一人取り残されているかもしれないのである。


ガーシー参院議員、陳謝へ

2023年03月01日 09時00分

 世の中には規範や道徳に反する行為をしてとがめられても、自分には独自の考えがあるからと素直に謝れない人物がいる。そうそうあの上司がまさに、などと思った人もいるのでないか。世間知らずの子どもにありがちだが、大人にも少なからずいる

 ▼夏目漱石の『坊っちゃん』にこんな一節があった。祝勝会に向かう生徒たちが大騒ぎし、教師が何度注意してもやめない。校長が雷を落としてやっと収まるのだが―。教師として引率に加わっていた坊っちゃんにはよく分かっていた。「生徒があやまったのは心から後悔してあやまったのではない。ただ校長から、命令されて、形式的に頭を下げたのである」。生徒たちは心の中でべろりと舌を出し、笑っていたに違いない

 ▼ここまでの行状を見る限りそれと似たりよったりだろう。海外に滞在し、国会へは一度も出席しないままユーチューブでゴシップの発信を続けるNHK党のガーシー(本名・東谷義和)参院議員が参院本会議で陳謝することになったそうだ。参院が先の本会議で「議場における陳謝」の懲罰を決めたため、応じる意志を固めたという。形だけの感が否めない。ガーシー氏の行為は新入社員が職場を欠席したまま仕事もせず、趣味だけを楽しんでいたようなもの

 ▼坊っちゃんの話には続きがあった。「商人が頭ばかり下げて、狡い事をやめないのと一般で生徒も謝罪だけはするが、いたずらは決してやめるものでない」。今後を暗示しているようにも聞こえる。議会を軽視するのは、国民をばかにするのと同じ。そろそろ気づいた方がいい。


釧路沖を震源とする地震

2023年02月28日 09時00分

 先週土曜日の夜は肝を冷やした道民も多かったのでないか。午後10時27分ごろに発生した釧路沖を震源とする地震のことである。根室と標津で最大震度5弱を観測。釧路や中標津で震度4、北見や幕別で3だったという

 ▼札幌は体感で1を少し超えるくらい。ほっとしたものの、地震速報で釧路沖が震源と知り驚いた。遠い札幌でこれなら、震源に近い釧路や根室ではいったいどれだけ揺れたのかと心配になったのだ。地震に慣れた土地柄とはいえ、それで怖さが薄れるわけではない。筆者も釧路に勤務していたころ、釧路沖(1993年)と東方沖(94年)で二度、震度6を経験したが、震度3や4とは桁違いの衝撃だった。今回も震度5だった地域の方々は、揺れの大きさに不安をかき立てられたに違いない

 ▼折しも道が今月13日、日本海溝・千島海溝海溝型地震減災計画を策定したばかりのタイミングだった。海溝沿いの巨大地震で最大14万人以上の死者が出るとの被害想定があるだけに、気は緩められない。幸い今回は、沈み込んだ陸側のプレートが跳ね上がって爆発的にエネルギーを解放する海溝型ではなかったそうだ。海側のプレート内の断層運動が原因だという。93年の釧路沖と翌年の東方沖と同じである

 ▼トルコ南部で最近起きた地震では建物の下敷きになった人が多かった。インフラや建物の耐震化が進む日本ではまず見られない事態だが、では津波への備えも万全かというとそうではあるまい。条件によってはトルコ以上の被害が出る想定もあるのだ。楽観を排し減災の取り組みを急ぎたい。


プーチン氏の演説

2023年02月27日 09時00分

 古代ギリシャ三大悲劇詩人の一人であるエウリピデスは、派手な英雄物語より人間をありのままに描く作品が得意だったという。哲学的素養がそうさせたらしい。同時代のソクラテスと影響を与え合ったといわれるくらいである

 ▼それだけに言葉へ託すものも大きかった。こう言っている。「言葉は人の耳を喜ばすようなものではなく、世の人から尊ばれるような人間になる道理を教えるものでなくてはなりません」。さて、ロシアのプーチン大統領の言葉はどうだったか。ロシアのウクライナ侵略から1年が過ぎた。その直前の21日に行った「年次教書演説」でプーチン氏は国民に、この「特殊軍事作戦」は祖国を守るための戦いだと断言。加えて、米欧の制裁にもかかわらずロシア経済は安定を保っていると強調した

 ▼ウクライナの国土を一方的にじゅうりんし、人々を虐殺している事実には触れず、ロシア国民が聞けば喜ぶであろう作り話を聞かせたわけだ。経済の安定もこの先長く続けられるものではない。ロシア国民はプーチン氏の演説をどの程度信じたのだろう。それを知るすべはないが、少なくとも日本をはじめ民主主義陣営の国の人々にとって、ロシアは世の道理に反するとの印象を強める結果になったのは間違いない

 ▼エウリピデスは「長い話を切り詰めて、短い言葉で適切に語れるのは賢い人」との言葉も残している。今回の演説は1時間50分という異例の長さに及んだそうだ。うそをうそで固めるのだから話が長くなるのも当たり前。まあ、賢い人なら最初から侵略などしなかったろうが。


臓器移植の無許可あっせんで逮捕

2023年02月24日 09時00分

 愛する人を救う方法は知っているのに、目の前に立ちはだかる高い壁のせいで手が届かない。日本の臓器移植とはそういうものらしい。法整備はされているものの国内にドナー(臓器提供者)は少なく、海外で移植するとなると莫大(ばくだい)なお金がかかる

 ▼東野圭吾さんの小説『人魚の眠る家』(幻冬舎)にも重い心臓病を抱える子どもを米国で治療するため、募金で費用2億6000万円を集める話があった。子の父親が友人に話す。「海外で臓器移植を受けるための手順は確立されている。その費用の捻出方法についてもな。世間に頭を下げて、助けてもらうしかない」。娘の命をつなぎ留めるため、意地もプライドも捨てたというのである

 ▼患者本人や親族らのそんな必死の思いを逆手にとって、私腹を肥やしていたのだとしたら、人でなしというほかない。NPO法人「難病患者支援の会」の菊池仁達理事が先日、海外での臓器移植を無許可あっせんした疑いで警視庁に逮捕された事件のことである。臓器移植法違反容疑での摘発は全国初だという。報道によると菊池容疑者はベラルーシでの移植費用として患者に約3000万円を請求、1000万円を懐に入れていた。本件以外にも100件以上、無許可あっせんをしていたとみられる

 ▼海外移植には危険が伴う場合も多い。菊池容疑者が仲介した中にも患者が死亡した例があったと聞く。無許可が横行するのは国内事情ゆえだが、臓器移植には死生観が絡むため急な改善は望めないのが実態だ。ブローカーを取り締まるしかない現実が悲しい。


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