助けた亀に連れられて竜宮城へ行った「浦島太郎」の話はご存じだろう。おいしいごちそうが次から次へと供され、タイやヒラメがきらびやかに舞い踊る。しかも美しい乙姫さまが付きっきりでもてなしてくれるのだから、月日が経つのを忘れるのも当たり前
▼城にとどまってさえいれば雑事に煩わされることも、面倒な人間関係に悩まされることもない。誰もが憧れる話である。残酷な現実を突きつけられるまでは。元の場所に戻ってみると数百年が過ぎていて、見知らぬ世界に一人取り残されてしまった。安楽に溺れたツケ。日本もそうなりはしないか。林芳正外相が1、2の両日にインドで開かれる20カ国・地域(G20)外相会合に欠席する。参院の日程と重なるため日本にとどまるという
▼理事懇談会で決まったそうだ。G20に出席するのは国会の軽視だと野党が問題視し、2023年度予算の審議でもめたくない政府がこれを受け入れた。波風を立てたくないというわけだ。対決を避け楽をしたのである。世界はウクライナ問題をはじめ食料やエネルギーの安全保障、経済の不安定化など危機的状況にある。一日でがらりと情勢が変わることもしばしばだ。その渦中に日本もいる。これほど外交が重要なときはない
▼予算案は既に衆院を通過し、年度内成立が決まっている。国益と国際社会への責任を考えれば外相のG20出席を優先すべきだろう。存在感が薄れるとかつてのような「ジャパンパッシング」も起きかねない。気づいたときには見知らぬ世界に一人取り残されているかもしれないのである。