コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 197

24年度に紙幣一新

2019年04月10日 09時00分

 ここ1年で現金を使う機会がずいぶんと減った。財布には千円札1枚と小銭だけ、という日も最近は少なくない。電子マネーで事足りるからである

 ▼キャッシュレス社会など別世界の話と思っていたが、使い始めると至って便利。気づけばその世界の住民になっていた。財布代わりのカードはかさばらないし、スマホはいつも持ち歩いている。決済は一瞬のため支払いでもたもたせず、履歴も残るから安心というわけ。作家の小松左京が短編で完全なキャッシュレス社会を描いている。その一コマ。上司が部下に「数字と、唐草模様と、それにひげのはえた人物の肖像画が印刷」された紙片を見せると、部下は「それ―いったい何です?」。紙幣は流通していないため忘れられているのだ

 ▼現実もそんな社会に近付いているらしい。5年後には国民の紙幣に対する意識もさらに変化していよう。麻生財務相がきのう、2024年度の上半期をめどに紙幣のデザインを一新すると発表した。偽造防止が主な理由という。対象は一万円札、五千円札、千円札の3種類。新しい肖像は一万円札が日本の資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一、五千円札が女子教育の礎を築いた津田塾大学創始者津田梅子、千円札が破傷風の治療法を開発した北里柴三郎だそう。いずれもそれぞれの道を究めた立派な人物である

 ▼ただ偉人たちには申し訳ないが、もしかするとキャッシュレス社会の急激な進展で、ご登場願うころには活躍の場がかなり狭まっているかもしれない。紙幣のことは忘れても、業績は忘れていませんのであしからず。


道知事に鈴木直道氏

2019年04月09日 09時00分

 元気を取り戻した地域をよく調べると、「若者、ばか者、よそ者」が重要な役割を果たしている例が多いという。しがらみにとらわれず新風を吹き込むようだ
 
 ▼まちづくり支援に携わる山崎亮studio―L代表は、住民もよそ者を歓迎するところがあると語る。「ヨソモノが入ってきて、みんながやりたいと思っていることを堂々と語ってくれることを待っている」(『コミュニティデザインの時代』中公新書)。夕張市で2期8年市長を務め、「財政再生」に一定の道筋をつけたこの人も市長に就任した当初はまさに絵に描いたような「若者、ばか者、よそ者」だったのでないか。今回の北海道知事選で、相手候補に65万票以上の大差をつけ勝利した鈴木直道氏のことである

 ▼派遣で来ていたとはいえ将来が約束された東京都職員を辞め、財政破綻と過疎に苦しむ山奥の市の首長になるなど相当な「ばか者」でなければできない。その心意気にほれた道民も少なくなかったはず。しかも当時30歳の若さだった。その鈴木氏が今度は道知事。票数はそのまま期待の大きさだろう。ただ道政運営も楽ではない。やはり財政には悩まされよう。硬直化した予算でどれだけ独自色を出せるか。少子高齢化、産業、観光、防災―。課題は山積みである。道庁の大きな官僚組織、道議会、各種関係者等々、うるさ型も格段に増える

 ▼鈴木氏は38歳。「若者、ばか者、よそ者」の力はまだ失っていない。道民目線でありながらしがらみにはとらわれず、「みんながやりたいと思っていることを」大胆に実行してもらいたい。


24時間営業見直し

2019年04月08日 09時00分

 難しいものであちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たずということが世間ではよく起こる。最近のビジネス界でも双方が勝者になる「ウィン―ウィンの関係」が目指されるが、理想通りになる例はそう多くないようだ

 ▼歌手の宇多田ヒカルさんも自ら作った曲『誰かの願いが叶うころ』でこう歌っていた。「誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ みんなの願いは同時には叶わない」。本部の願いがかなうころ、泣いている店舗も相当あったのだろう。コンビニ最大手「セブン―イレブン」の一律24時間営業が見直されることになった。親会社セブン&アイ・ホールディングスが先週、営業時間について柔軟なあり方を模索する方針を発表したのである

 ▼見直しのきっかけは大阪の加盟店が人手不足でやむを得なく夜間営業を取りやめたところ、本部が多額の違約金を請求し社会問題に発展したこと。現場の過酷な実態や本部の高圧姿勢が明るみに出て、セブン側に批判が殺到した。なぜそこまで全店24時間営業にこだわるのか―。大阪の騒動を聞いた多くの人はそう思ったのでないか。新たな社会インフラとも呼ばれ、今では日本が世界に誇る交番以上の充実ぶりだが働く人がいないのではもとより続くまい

 ▼平成の30年間でコンビニは3・5倍の5万6000店に増えた(日本フランチャイズチェーン協会)。これでは無理が出るのも当然だ。セブン―イレブンに限らない。コンビニ業界には客と店舗と本部、みんなの願いを同時にかなえる「ウィン―ウィン」の工夫がいる。


口は災いのもと

2019年04月05日 09時00分

場を盛り上げようとつい調子に乗り、あることないことしゃべってしまう人が世の中にはいるようだ。落語にもそんな人物を描いた「柳の馬場」がある

 ▼あん摩の富市が旗本屋敷に上がると、主人が武芸の話を持ち出した。富市はここぞとばかり自分は柔術の免許皆伝だと自慢する。そればかりか剣や馬も名人の域に達しているという。「目が見えないのにか」と驚く主人に富市は、「心の目で見ることができます」。怪しんだ主人が嫌がる富市を馬に乗せ走らせると案の定素人。大騒ぎの揚げ句、木の枝に引っ掛かる。主人に「下は深い谷だ」と脅されるが力尽き、落ちるとすぐに地面。「舌先三寸、足下三寸、口は災いのもと」というオチである

 ▼どうやらこの富市並みに「口は災い」の軽率な人物が現れたようだ。それは塚田一郎国土交通副大臣。福岡県と山口県を結ぶ下関北九州道路に直轄調査費が付いた件に触れ、「安倍総理や麻生副総理が言えないから私が忖度(そんたく)した」と発言したのである。内輪の集会での自己アピールも含めた冗談だったのだろう。ただ、忖度や失言では当の安倍、麻生両氏がここしばらく、やみくもな批判にさらされていたところでないか。それを「ネタ」に使う神経を疑う

 ▼何より関門橋と関門トンネルの老朽化を憂い、代替道路の必要性を長年真剣に訴えてきた地元の努力を土足で踏みにじるものである。国民に利益誘導との誤解を与え、真面目に社会資本整備に取り組む多くの人をも傷つけた。舌先三寸が招いた失態。塚田氏の足元にまだ地面があるかどうか。


若者の政治離れ

2019年04月04日 09時00分

 日本の若者の政治離れが問題になって久しい。次代を担う者たちが政治に無関心では、国政の停滞は免れないのだから事は深刻である

 ▼英フィナンシャルタイムズのデイヴィッド・ピリング元東京支局長が社会学者古市憲寿氏にそのあたりの事情を尋ねると、こんな答えが返ってきたそうだ。「一緒に生産的なことをできそうな仲間を見つけて、生産的なことをすればいい」(『日本―喪失と再起の物語』早川書房)。社会のために積極的に行動する意志はあるものの、政治はお呼びでないというわけだ。日本財団(東京・笹川陽平会長)が先日発表した国会改革についての18歳意識調査も、それを裏付ける結果だった

 ▼「国会は国民生活の向上に役立っていると思うか」との問いに、30%が「役立っていない」と答えたのである。「役立っている」は20・9%。ちなみに残りの49・1%は「わからない」。意をくむとつまり「実感できない」ということだろう。この結果を見た政治家は頭を抱えているのでないか。そもそも国会での議論を知らないのでは、との疑問も浮かぶがさにあらず。56・3%は多少なりとも知っていた。その上で54・8%が有意義な政策論議の場になっていないと考えているのである

 ▼その理由は「議論がかみ合っていない」「国民の関心と乖離(かいり)がある」「パフォーマンスが過ぎる」等々。若者をことさら持ち上げる気もないが、そんな国会に役立つことなどできないと考えるのはある意味当然だろう。問題は若者の政治離れでなく、政治家の浮世離れにあるのかもしれない。


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