コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 199

奥地

2019年03月27日 09時00分

 おとといの参院予算委員会で少し意外な一幕があった。国民民主党の徳永エリ氏が北海道新幹線の赤字をJR北の経営に絡めて質問した場面である

 ▼麻生財務相は函館まででは収益構造が弱いとした上で、現在は「奥地の札幌の方が奥地じゃない」「今でも函館の人は(札幌から来た人に)、『ようこそ奥地から』と言うよね」と答弁。これに対し徳永氏が「北海道の人は奥地とは言っておりません」と反論したのだ。徳永氏は元リポーターで北海道選出だからご存じかと思ったが、どうやらそうでなかったらしい。それが意外だったのである。歴史を振り返るとかつて北海道の入り口は函館だった。そこから見れば北の地域は「奥地」というのがいわば常識

 ▼これは渡島総合振興局の「道南方言集」にも載っていて、「奥地」は「道南より北を指す」とある。筆者も函館に転勤した当初、特に年配の人に「奥地から来たのかい」とたびたび言われた。さほど昔の話ではない。むしろ麻生氏がよく知っていたものだ。一部マスコミも麻生氏の発言を問題視し〝北海道で反発の可能性も〟と書いていたが、いささか滑稽の感は否めない。言葉尻をつかまえるのも善しあしである

 ▼ただ徳永氏の質問自体は重要な部分を突いていた。きのうで開業3年となった新幹線の赤字が当初見込みより膨らんでいる事実、在来線存続への影響、JR北海道の経営は札幌延伸完了まであと12年大丈夫か―。残念ながらこれらに関して政府側から安心材料は出てこなかった。どうやら解決策は本当の奥地に迷い込んでいるようである。


自殺を防ぐために

2019年03月26日 09時00分

 研ぎ澄まされた感性を抱えているせいか、芸術家と呼ばれている人の中には心の傷つきやすい人がかなりいるようだ。歌人の石川啄木はその筆頭だろう。「我を愛する歌」を読むと、常に絶望のふちぎりぎりを歩いている印象を受ける

 ▼例えばこんな一首があった。「大といふ字を百あまり 砂に書き 死ぬことをやめて帰り来れり」。「大」と書くあたり、理想とわが身の現実との差に相当苦しんでいたのでないか。啄木は辛くも思いとどまり帰ってきたが、やはり傷つきやすく一線を踏み越えてしまう人も世の中には数多くいる。今月下旬は特にそういった人が増える時期だ。学校であれば入学や進級、会社なら異動や決算といった年度末特有の不安が自殺の引き金になるらしい

 ▼電車を待っていて定時に来ないのを不思議に思っていると、駅員から人身事故発生のアナウンスが―。最近も何度かそんな経験をした。待合客は皆、文句を言わず押し黙っている。迷惑というよりやりきれない思いが強いのだろう。雇用改善と景気回復の大きな後押しを受けて、年間自殺者数はここ10年で1万人以上減少し2万835人になった(2018年)。それでも年間交通事故死者数の約6倍に上るという

 ▼本人は冷静な判断力を失っているため最後のとりでは周りの人である。同じ歌人でも命を慈しむ川出麻須美はこう歌う。「極まればまた蘇る道ありて いのちはてなし何かなげかむ」。絶望のふちに立ったときによみがえりの道が見つかる。直接言葉にせずともこんな気持ちで話をし、見守ってあげられるといい。


自覚できない磁覚

2019年03月25日 09時00分

 空を駆け巡る自由への憧れと、住み慣れた場を離れねばならぬ悲哀とが混然一体となって心を刺激するからだろう。昔から渡り鳥に着想を得た歌は多い

 ▼年配の方であれば小林旭の『ギターを持った渡り鳥』(西沢爽作詞)を思い出すのでないか。「別れ波止場の 止り木の 夢よさよなら 渡り鳥」。若い人ならアレクサンドロスの『ワタリドリ』(川上洋平作詞)あたりか。「ワタリドリの様に 今旅に発つよ」。日本の南の地域ではもう春の渡りが始まっているという。ところで渡り鳥が毎年正確に目的の地まで飛べるのは、地磁気を感じ取ってナビゲーションに利用しているからだといわれている。体内に優れたセンサーがあるわけだ

 ▼さすがに動物は人間にない超能力を秘めている。これまではそう感心していたのだが、この能力、どうやら人間にもあることが分かってきた。東大や米カリフォルニア工科大などの共同研究チームが先日、人間も地磁気を感じる能力があることを実験で明らかにしたのだ。チームは磁気を遮断した部屋で被験者の頭部に地磁気程度の刺激を与えた。すると脳波にはっきり反応が現れたそうだ。人間が持つのは五感とされ、第六感といえば直感のことだったが、今回は科学的に「磁覚」の存在が証明されたのである

 ▼もっとも視覚や聴覚と違い非常に弱く、意識もできないためすぐに役立てられるわけではない。犬の嗅覚は最大で人の1億倍というから、磁覚も渡り鳥と人ではそれくらい差があるのかもしれない。まあ、自由と悲哀を抱えた渡り鳥は歌の中だけで十分か。


よのなかルール

2019年03月22日 09時00分

 春分の日を挟む今週は小学校の卒業式ウイーク。全道各地のほとんどの小学校で、きょうまでに式が行われる。「卒業の子の肩にある師の手かな」皆谷露子。入学時には子どもの頭に置かれていた手も、今は肩の上だ。6年間で背も伸びたが心も成長した。送り出す先生としては万感胸に迫る思いだろう

 ▼子や孫が健やかに育つのを楽しみに見守ってきた親や祖父母もそれは同じ。心配事もたくさんあったはずである。中学生になると子どもたちは競うように大人への階段を駆け上る。生きていく中で壁にぶつかることも多くなろう。心配の種は尽きない。そこで中学入学までのこの貴重な端境期に読むのにぴったりの、1冊の児童書を紹介したい

 ▼それは『メシが食える大人になる! よのなかルールブック』(高濱正伸監修、日本図書センター)である。「メシが食える大人」とは少々生々しいが、要は生きる力を備え自立した大人という意味。簡単な言葉とイラストで、人生を生き抜く50の知恵を教えている。ルール1はこう。「いいことを言うよりも、よい行動をとる」。ごみのポイ捨てを口で批判するだけの人より、さっと拾う人の方が世の中で認められる。ルール11「話を聞くときは、ことばではなく相手の心にこそ耳をすます」。言葉通りでないことも多いのである

 ▼ルール41「合わない人がいるのは『よのなかの当たり前』だと知る」。世の中は合わない人だらけと知っていれば楽に生きられる。児童書だが小学校を卒業してうん十年の人も、自分は「メシが食える大人」か確かめてみるといい。


黒幕

2019年03月20日 09時00分

 表に顔を出さず、裏で糸を操っている人物を俗に黒幕という。政界工作や企業の買収劇、事件などに絡んでうわさされることが多い。あれはAの手で行われたが、実は全てBの企てだ、という具合

 ▼歴史上の出来事も格好の材料だろう。坂本竜馬暗殺がその典型かもしれない。西郷隆盛が黒幕だったとの説が根強く語られる。大山が鳴動しているのにネズミが一匹しか出てこないとき、人は黒幕の存在を感じるようだ。賃貸住宅大手「レオパレス21」の物件に施工不備が多数見つかった問題も、どうやら現場の不注意や法令軽視だけで終わらないようだ。外部調査委員会がおととい、2006年まで社長を務めた創業者深山祐助氏が関与していたとする中間報告書を発表した。黒幕的存在を明らかにしたわけである

 ▼「深山祐助氏の指示の下、同氏の直轄部門となっていた商品開発部門において」、界壁の内部充填(じゅうてん)剤に遮音性の基準を満たさない「発泡ウレタンを使用する方向性が示された」という。外壁仕様と天井仕上げが国交省の規定に適合しない、小屋裏に界壁がないといった不備もあった。卒業や異動の時期に間に合わせるための裏技だったようだ。〝住む〟という生活の最も基本となる部分で信頼を裏切った責任は重い

 ▼レオパレスは中間報告を受けて記者会見を開き、当時の社長は違法性を認識した上で指示したわけではないとの見解を示したそうだ。さて、多大な迷惑をこうむっている建物オーナーや入居者はどう受け止めたろう。黒い幕の向こうにも光は見えなかったのでないか。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 日本仮設
  • 北海道水替事業協同組合
  • 古垣建設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,381)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,302)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,295)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (1,108)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,046)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。