コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 201

冬最後の映画祭

2019年03月12日 09時00分

 10日閉幕した「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」は、最後の冬開催になるかもしれない。来年からは、夏開催に変更される。かつてタランティーノ監督が「夕張の雪は世界一美しい」と絶賛した冬の映画祭は、大きく様変わりする

 ▼ことしの映画祭のテーマは「ファンタを止めるな!」だった。昨年の映画祭で観客賞を受賞し、その後大ヒットした話題作「カメラを止めるな!」を意識したネーミングだろう。映画祭プロデューサーの深津修一氏は、冬にやると赤字が膨らむと率直に話し、理解を求めた。夏開催を契機に、幅広い層に開かれた新しい映画祭を目指す。ゆうばり映画祭らしいチャレンジだ

 ▼オープニング上映作品は「人間、空間、時間、そして人間」。古い戦艦に乗って旅に出た人々は、船が見知らぬ空間に浮いていることに驚き、パニック状態になる。混乱はエスカレートし、残酷な殺し合いに発展する。悲惨なストーリーだが、ノアの箱舟のような宗教的な寓話とみることも可能だろう。チャン・グンソクが主演しキム・ギドク監督がメガホンをとった

 ▼衝撃的な作品だが、監督を巡っても衝撃的なニュースが流れた。女優から暴行や性被害の告発を受けている。そのため、劇場公開のめどが立っていない。映画界のパワハラ、セクハラが批判されている中で、その作品をあえてオープニング上映に選んだ判断は、賛否が分かれるだろう。昨年は、ゆうばり叛逆映画祭との同時開催で驚かされたが、今年も映画祭のスタンス、映画公開の在り方に、一石を投じた。やんちゃな映画祭だ。


8年目の3月11日

2019年03月11日 09時00分

 漂泊の俳人山頭火が旅の途上でしたためた一句という。「捨てきれない荷物のおもさまへうしろ」。やむにやまれぬ思いから俗世を捨て旅に出た彼にも、抱えて歩かねばならぬ人生の重荷があったのだろう

 ▼きょうは3月11日。東日本大震災から8年がたった。東北地方の太平洋沿岸部で直接被害に遭った方々は言うに及ばず、同じ時を経験した多くの日本人にとっても心の中にずっしり残る重さを意識する日である。書店で『あの日からの或る日の絵とことば』(創元社)という本を見つけた。現地で被災したわけではないけれど、確かに「あの日」を経験した絵本作家たちが3・11にまつわる自らの物語をつづったエッセイ集である

 ▼千葉県に住む石黒亜矢子さんは、原発事故による放射能汚染にひどく過敏になっていた当時を振り返った。東京で暮らす加藤休ミさんは長期戦を予感したからかまずあんぱんと牛乳を買ったそうだ。樋口佳絵さんは〝3月11日〟と印字されたレシートであの日を思い出していた。ところで32人の絵と文で3・11を深く掘るこの本の試みは、率直に言ってあまり成功していないようだ。今一つ言葉が伝わらない。気持ちの整理がつかないまま文字を連ねた人が多かったのでないか

 ▼逆に考えると8年たっても答えを出せない現実を示しているともいえる。皆同じだろう。直接被災した方々はさらに。ヨシタケシンスケさんのこんな一文が印象に残った。「とにかく、私たちには新しい形の希望が必要なのだと思う」。ただ、まだしばらくは荷物の重さを感じながら歩く日が続く。


不適切動画炎上

2019年03月08日 09時00分

 たった一度の過ちで、人生を台無しにしてしまうことは世の中に珍しくない。「覆水盆に返らず」のたとえもある

 ▼過ちと聞くと、高橋真梨子さんが自ら詞を書いた名曲『ごめんね…』(水島康宏作曲)を思い出す。中にこんな一節があった。「消えない過ちに 泣き続けるのなら このまま二度と 目覚めたくない すごく すごく 貴方を苦しめた」。深く考えることなくしでかした行為を後悔しているのである。こちらで苦しめられたのは「貴方」でなく雇い主やお客様だが、過ちを犯した若者も目覚めてつらい現実を見たくない心境でないか。飲食店やコンビニなどのアルバイト先でわざと不衛生な行動をとり、SNS(ウェブ交流サイト)に投稿する若者が後を絶たない

 ▼深い考えもない単なる悪ノリ。称賛を表す「いいね」の数を増やしたいがための面白アピールに違いない。ところが動画は投稿者のそんな意図を超えて拡散し「炎上」。雇用していた店は評判を落とし、多大な損害を被ることになる。実際客足が遠のき、閉店に追い込まれた例もあるという。損害賠償請求も辞さないとの構えを見せる企業もかなり増えているとのこと。当の若者は個人情報を暴かれた上、多額の賠償金を請求され、就職も難しくなる。まだこれからの人生が台無しになりかねない

 ▼やはり不適切動画が問題になった「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングスは12日、全店休業にして従業員研修をするそうだ。「若き者と風上の火とは油断ならず」のことわざもある。炎上を防ぐための火の用心だろう。


早い雪解け

2019年03月07日 09時00分

 この雪の少なさはいったいどうしたことか。札幌の中心部は道端の雪山もだいぶ小さくなり、あすから4月と言われても違和感のない風情である。いわば豪速球を覚悟して構えていたのに、スローボールで肩すかしを食わされた気分。楽できるのはうれしいのだが季節感が狂って困る

 ▼先月の中旬あたりから暖かい日が続く。さすがに朝晩は冷えるが昼間は3月下旬並みの気温という。雪が消えるのも当たり前である。2月に降雪がほとんどなかったこともあり、平年と比べて積雪は全道的に少ない。気象庁によると、6日現在で札幌(中央区)が平年比39%の27cm、旭川が80%の59cm、毎年雪の多い岩見沢でも78%の69cmにとどまっている。きのうの雨で雪解けはさらに進んだろう

 ▼「天つ日の喰ひ余したるはだら雪」山尾滋子。太陽が雪を所々解かし地表をまだらに変える情景を描いた句である。例年なら本道では3月末頃に見られるものだが、ことしは食い余すどころか既に食い尽くされてしまった感がある。きのうは二十四節気の啓蟄。いつもであればまだ眠っているはずの本道の虫たちも、こんなに早く地表が暖かくなったことに戸惑っているのでないか。「蟻穴を出でて混み合ふ出入口」鈴木征子。働き者のアリなどはもう準備万端、身ごしらえを終えているかもしれない

 ▼眺めるとアリばかりでなく、街を歩く人々もすっかり春の装いである。札幌管区気象台の1カ月予報では、3月も気温が高い確率70%。これはいよいよ間違いない。肩すかしでなく、肩の力を抜いても大丈夫ということだろう。


胆振東部地震から半年

2019年03月06日 09時00分

 災害が発生したときには決して慌てず騒がず、一人一人が落ち着いて行動することが何よりも大切。とはいうものの、たいてい予告なしで襲ってくるものだから取り乱さずにいるのはそう簡単でない

 ▼池原綾子さんは詩「虫」でそんな家族の風景を描いている。「地震の時/母は毛布をかぶって/みの虫になった 父は壁によりかかって/蝉になった そして私は/健一郎にしがみついて/ひっつき虫になっていた」。池原さんは1995年の阪神淡路大震災を経験して、この詩を書いたという。北海道で初めて震度7を記録した昨年9月の胆振東部地震からきょうで半年。あの日、「みの虫」や「蝉」、「ひっつき虫」になった道民も多かったに違いない

 ▼それらに加え、本道ではほとんどの人が「さなぎ」になったのでないか。全域停電「ブラックアウト」で夜は闇の中にじっとしているほかなく、都市機能がまひしたため昼も活動を大きく制限された。安全な場所で電気の復旧を待つしかなかった2日間である。土砂崩壊や家屋倒壊が集中した厚真など3町には約220戸の仮設住宅が建てられた。今も不便な生活を強いられている方々がいる。農地が被災し、収入の糧を失った生産者もいるそうだ。厚真町の宮坂尚市朗町長もおととい記者会見を開いていたが復興はこれから

 ▼昨年の地震は文字通り、一寸先には闇が横たわっている事実をわれわれに教えた。2月21日にも余震とみられる大きな地震があり、冬の災害の恐怖を呼び覚ました。危機に際して慌てず騒がず。そのための備えを忘れてはいけない。


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