コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 203

はやぶさ2着陸成功

2019年02月26日 09時00分

 一つの芸を極めた人は技の伝承について、最後には似たような見解にたどり着くようだ。要は形でなく心を継いで、新たな自分流を開拓せよというのである
 ▼江戸から明治にかけて活躍した落語家三遊亭円朝は弟子にこう言っていたそうだ。「自分の芸は自分でつくれ。たとえ円朝を襲名しても円朝の芸は継ぐな」。俳人松尾芭蕉もこんな言葉を残している。「古人の跡をもとめず、古人のもとめたる所をもとめよ」。芸事でも武道でも、はたまた会社の経営でも初代の功績を超えるのは難しい。だからこそ上回る評価を得たときには最大の恩返しができたといわれるのだろう。その伝でいくと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」も、先代「はやぶさ」に恩を返すことができたのでないか
 ▼22日、小惑星「リュウグウ」にタッチダウン(着陸)し、岩石などの試料採取にも成功した。先駆者だが粗削りな一面もあった先代とは違い、困難をものともしない見事に洗練された運用だった。ミッションが無事完了した直後、管制室からの中継で研究者が誇らしげに「初号機とは違うのだよ初号機とは!」と書かれた紙を掲げた。ご覧になった人もいるのでないか。あれは初号機への最大級の感謝の表れだろう
 ▼地球から3億4000万㌔離れた幅6mの地点に同じ幅の探査機を着陸させ岩石を採取する。「日本からブラジルにある長さ6cmの的を狙う」精度が求められたという。初代の経験あってこその二代目の成果である。「心」が生きていた。来年の凱旋(がいせん)が待ち遠しい。


親ばか

2019年02月25日 09時00分

 落語の枕でこんな一節を聞くことがある。「親ばかちゃんりん そば屋の風鈴」。落語好きの方なら言葉の響きに覚えがあろう

 ▼由来は江戸の昔にさかのぼる。当時、まともなそば屋は粗悪なそば屋と間違われないよう、屋台の四隅に風鈴をつるしたそうだ。当たり前だが冬にもうるさく鳴る。いかにもとんちんかんで風情も何もない。それを子どもかわいさのあまり愚かな振る舞いをする親ばかと結び付けたらしい。かくのごとく親ばかは、どこか憎めないところもあるがやはり愚かさが先に立つ。ところで最近、憎めないどころか掛け値なしで素敵な親ばかを知ったので紹介したい。その人は都竹淳也飛騨市長である
 
 ▼最重度の知的障害のある自閉症児の親だという。「岐阜新聞」のコラム「素描」に投稿した自身の記事をフェイスブックに載せていた。それを読むと次男の障害が分かったのは2歳のころで、今は特別支援学校の中学部に通っているそうだ。「困難なことも多いが、我が子はかわいい」と記す。自分も変わったという。「次男のいいところはどこだろうと毎日見ているうち」「弱い立場の人たちを意識するようになり」「厳しい状況にいる人たちを助けたいと強く思うようになった」
 
 ▼現在、市は子ども子育てやLGBT(性的少数者)分野で全国最先端を走る。なぜ頑張れるのか。「それは次男が私をしてなさしめたことであり、この子が世の中のお役に立てたことになるからだ。このことだけは徹底して親ばかでありたいと思う」。飛騨市の風鈴の音はそば屋とはひと味もふた味も違う。


雪の事故

2019年02月22日 09時00分

 北海道をはじめとする雪国の住人にとって、大地を埋め尽くす雪はあって当たり前の存在であると同時に悩みの種でもある。詩人の津村信夫も「雪」と題する随想に、こんな感慨を記していた

 ▼「雪崩は人の家を埋め、人をも生き埋めにしたり、押しつぶしたりするものですが、町中にゐても、雪といふものは中々こはいものですね」。確かにその通り。さしずめ今の時期なら町中で怖いものといえば雪下ろしだろう。本道で事故が相次ぐ。17日には旭川市のアパートで雪下ろし作業をしていた67歳の男性が、屋根から落ちてきた雪に当たり死亡した。15日には京極町で倉庫の屋根から転落し、53歳の女性が亡くなっている。軽微なけがも含めると、実際には相当な数に上っていよう

 ▼道警のまとめでは昨冬(2017年11月―18年3月)発生した落氷雪や雪下ろしなどに絡む雪の事故は126件。22人が死亡している。やはり作業中に屋根やはしごから落ちたり、雪に埋もれて身動きがとれなくなるケースが多い。札幌管区気象台がきのう発表した週間予報によると、28日まで気温は平年より高めになるそうだ。特に今週末あたりはかなり高くなる見込みというから、雪下ろしを予定している人は要注意。暖気で緩んだ屋根の雪が、重さを増して急になだれ落ちる危険がある

 ▼できるだけ複数人で作業し、屋根に上る場合は命綱と安全帯の使用を徹底したい。先の随想で詩人が書き留めたおばあさんのひと言も覚えておいた方がいい。「あゝほんとに魂消(たまげ)えやした、雪も、どうして馬鹿にならない」。


ホンダ英国工場閉鎖

2019年02月21日 09時00分

 働く能力はあるのに不況や不安定雇用などで十分な収入が得られないと、人の心は次第にすさんでいくものである。英国のコメディ映画『フル・モンティ』(1997年)はそんな男たちの悲喜こもごもを描いて印象深い作品だった

 ▼舞台は90年代の英国の町シェフィールド。かつて鉄鋼業で栄えたが、このころにはすっかりさびれている。登場するのは工場を解雇され失業中の男6人だ。自堕落な生活を送っている。子どもの養育費を支払えず、妻からはなじられ、自暴自棄に陥りとそれぞれ悲惨な状況。町には良い働き口がないためどうにもならない。そこで彼らは何を考えたか。当時人気だった男性ストリップグループを結成し、ひともうけしようと悪戦苦闘を始めるのである

 ▼ホンダが21年に英国スウィンドンに置く自動車工場を閉鎖するとの報に触れ、その映画を思い出した。3500人の従業員が解雇されるという。人口21万人の町である。家族や取引先も含めると生活や経済への影響は計り知れない。世界的な生産体制見直しの一環で英国のEU離脱は関係ない、とホンダは説明するが全く関係ないこともあるまい。離脱で関税が跳ね上がれば価格に転嫁せざるを得ず、売り上げは確実に落ちる。座視できなかったはずだ

 ▼日本企業が英国の町の人々の暮らしを左右する。これがグローバル経済の非情というものか。ところで「フル・モンティ」とは素っ裸のこと。日本流に言えば「裸一貫で出直す」意味が込められている。ホンダも従業員がそんな挑戦に踏み出す手助けくらいはするべきだろう。


駅弁

2019年02月20日 09時00分

 子どものころのことだから1960年代の話である。SL(蒸気機関車)が引く「汽車」で家族旅行をした際、目当ての駅で父親がいったん汽車を降り、ホームの売店まで名物の駅弁を買いに走った

 ▼ところが発車ベルが鳴っても父親は戻ってこない。無情にも汽車は動きだす。置き去りにされてしまったんだと動揺していると、不意に扉が開き駅弁とポリ容器のお茶を抱えた父親が現れる。そんなことがよくあった。駅弁といえば釧路支社に勤務していた若手時代、札幌に向かうときは朝必ず釧路駅で「かに飯」を買い込んでから特急に乗り込んだものだ。たっぷりとのったかにはもとより、甘じょっぱく煮付けられたシイタケのうまさといったら

 ▼「かにめし」といえば長万部駅も忘れるわけにはいかない。こちらは函館駅を出発してから車内販売に注文し、長万部駅で受け取るという寸法。出来たての風味に加え期待感も調味料となり、えも言われぬ味わいである。函館にいたころ、よく利用させてもらった。惜しいことに車内でその出来たての「かにめし」を食べることが、もうできなくなるそうだ。JR北海道が最後まで残っていた特急「スーパー北斗」の車内販売を今月28日で終了させるためである

 ▼コンビニなどの普及で利用が減り、赤字が続いていたらしい。あまたある駅弁の一販売形態が消えるだけと言ってしまえばそれまでだが、独特の経験ができる機会が失われる意味は決して小さくない。経営難の折、不採算事業の削減はやむを得まい。旅情が置き去りにされるのを見るのは忍びないが。


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