一つの芸を極めた人は技の伝承について、最後には似たような見解にたどり着くようだ。要は形でなく心を継いで、新たな自分流を開拓せよというのである
▼江戸から明治にかけて活躍した落語家三遊亭円朝は弟子にこう言っていたそうだ。「自分の芸は自分でつくれ。たとえ円朝を襲名しても円朝の芸は継ぐな」。俳人松尾芭蕉もこんな言葉を残している。「古人の跡をもとめず、古人のもとめたる所をもとめよ」。芸事でも武道でも、はたまた会社の経営でも初代の功績を超えるのは難しい。だからこそ上回る評価を得たときには最大の恩返しができたといわれるのだろう。その伝でいくと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」も、先代「はやぶさ」に恩を返すことができたのでないか
▼22日、小惑星「リュウグウ」にタッチダウン(着陸)し、岩石などの試料採取にも成功した。先駆者だが粗削りな一面もあった先代とは違い、困難をものともしない見事に洗練された運用だった。ミッションが無事完了した直後、管制室からの中継で研究者が誇らしげに「初号機とは違うのだよ初号機とは!」と書かれた紙を掲げた。ご覧になった人もいるのでないか。あれは初号機への最大級の感謝の表れだろう
▼地球から3億4000万㌔離れた幅6mの地点に同じ幅の探査機を着陸させ岩石を採取する。「日本からブラジルにある長さ6cmの的を狙う」精度が求められたという。初代の経験あってこその二代目の成果である。「心」が生きていた。来年の凱旋(がいせん)が待ち遠しい。