コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 205

北方領土の日

2019年02月12日 07時00分

 本道でもレギュラー番組を持つ人気お笑いコンビ「サンドウィッチマン」は売れないころ、東京の古いアパートの1DKで一緒に暮らしていたそうだ。思い出を語っているのを何度かテレビ見た。その期間、なんと10年に及んだという

 ▼よく言えばルームシェアだが、実際は生活費を切り詰めるための苦肉の策。下積み時代の芸人にはこの手のエピソードが多い。どちらかの部屋にもう一方が転がり込んでくるらしい。近頃はもっと前向きなシェアハウスが広がりを見せつつあるようだ。気の合った仲間や目標を同じくする者が住宅設備を共同で使い、合理的に暮らす形である。最近は自動車や自転車のシェアもよく聞く。世の流れは所有から共有へと向かっているのかもしれない

 ▼おとといは「北方領土の日」。返還要求全国大会など関連ニュースを見ながら、四島もシェアハウスのように日ロで新しい共有の形がとれないものかと夢想していた。敵対しているなら無理だが平和条約の下では考える余地もあろう。近代以前は世界中に共同統治領があった。英仏、米独といった国々が同じ地域で主権を握っていたのだ。植民地主義のあだ花で、多くは国として独立して統治も終わった

 ▼もちろん北方領土にそのまま適用はできない。ただ、2だ4だと水を掛け合っているだけでは交渉が進まないのも事実。島民の故郷も固有の領土も遠のくばかりだ。地域発展の共通目標を持つ両国が主権をシェアする。自国優先主義がはびこりつつある世界に融和を象徴するそんな先進の枠組みが一つあってもいいのでないか。


サッポロ対国税

2019年02月08日 09時00分

 海外ミステリーが好きでたまに読むのだが、面白い作品に当たったときはうれしいものだ。意外と〝はずれ〟も多いのである。最近一番楽しめたのはアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』(創元推理文庫)。物語に劇中劇のような重層構造を持ち込み、謎に深みを与えていた

 ▼ところで、作家がミステリーを書く上で守らねばならない決まりがあるのをご存じだろうか。「ヴァン・ダインの20則」という。自身も著名なミステリー作家であるヴァン・ダインが提唱した規則である。最も重視すべき第1則は「事件の謎を解く鍵は探偵と等しく全て開示されていなければならない」。読者に推理する材料を与えず、後でつじつまだけ合わせるご都合主義を厳に戒めたものだ

 ▼サッポロビールの「極ZERO」訴訟でサッポロが敗訴したと聞き、その規則を思い出した。国税庁の「第三のビールでない疑いあり」との指摘から始まった騒動だが、誰にも材料が示されないまま「クロ認定」された印象が強い。サッポロは第三として売り出したものの国税から照会を受け、一度暫定的に発泡酒との差額115億円を納付。その後社内で検証した結果、やはり第三と判断したため税金の返還を求めていた

 ▼判決は下った。ただ国税が当初、第三と発泡の線をどうやって引いたのか、なぜ税金は返還されないのか真相は見えない。しかもビール類の税率は2026年までに一本化される予定だ。分かりにくく煩雑だからだろう。このサッポロ対国税の話、三流のミステリーを読まされたようでどうも後味が苦い。


月の石の産地は

2019年02月07日 09時00分

 観光旅行に出掛け、その地の土産物店で「名産」「話題の人気商品」などと書かれたお菓子を喜んで買い求める。「決めました皆が提げてる名物に」新屋洋子(観光立国川柳)といったところ

 ▼さて、帰ってふと土産物に付いていた商品表示を眺めると、製造者欄には全く別の地域の食品会社の名が…。しかも原料も地元の物でない。そこでしか買えないため偽物ではないのだが、少しがっかりな気持ちにさせられる。こちらも似たような話である。ただしスケールの大きさは文字通り宇宙レベル。1971年にアポロ14号が月から持ち帰った石は地球の石だった可能性が高いというのだ。米航空宇宙局(NASA)の研究者らが学術誌「アース・アンド・プラネタリー・サイエンス・レターズ」に発表した

 ▼それを伝える「ナショナル・ジオグラフィック」Web版によると、40億年以上前に隕石が地球に激突し、その衝撃で石が月まで弾き飛ばされたのだとか。話が大きすぎてがっかりどころかびっくりである。調べた石は重さ約9㌔のナンバー14321。研究者は石を構成する鉱物ジルコンに目を付けた。性質分析の結果、月では容易に形成されないものの、地球では普通に存在することが判明したという。表示をよく見ると、「製造者 地球」だったわけである

 ▼人類が英知を結集して月に到達し、困難を乗り越えて持ち帰った土産がもともと地球にあった石だったとは。天体物理学者にとっては地球の起源に迫る大発見かもしれないが、宇宙飛行士が存命だったら少し複雑な気持ちになるのでないか。


与野党手を携え

2019年02月06日 07時00分

 結婚生活を実りあるものにするには相手を尊重することが大切。よく聞く助言だが完璧な実践はなかなか難しい。その教えを伝える昔話が北欧スカンジナビア地方にある。こんな話だ

 ▼ある日、仕事から帰ってくるなり夫が妻に怒鳴った。「疲れて帰ってきたのにまだ飯もできてない。おまえは一日中家にいて家事も満足にできないのか」。妻が返す。「そんなに怒らないで。じゃあ明日は仕事を取り替えましょう」。翌日、夫は休日気分で家事に取り掛かる。最初に洗濯を始め、次に乳搾り。ところが洗濯物を干そうと思ったら赤ちゃんが泣き出し、ブタが搾乳機を蹴り倒し、ついには牛も逃げ出した。夕飯づくりになどまるでたどり着けない

 ▼夫婦ではないが共に国を運営する任を負う国会でも、最近、相手を尊重しないこの夫のような姿が見られる。厚生労働省の統計不正に端を発する国の統計問題で一部野党が、不正は国民にアベノミクス成功を印象付けるため政権が主導したものだとかみついているのだ。さすがに無理がある。不正は民主党政権を挟む2004年からで、12年の安倍政権発足後も数字は長らく悪いまま使われていた。政権主導ならなぜ当初から下駄をはかせなかったのか

 ▼昔話の夫と妻同様、政府批判する野党議員の多くもかつて仕事を取り替え政権を担っていたはず。本質は厚労省のモラルや人員の不足だと察していよう。尊重はせずとも相手を責めるばかりでは能がない。政府が謙虚になるのは当然だが、ここは与野党手を携え統計の信頼回復に努める方が国民生活の実りになる。


救えなかった命

2019年02月05日 07時00分

 子どものころ、悪さをして父親によくたたかれたものだ。真冬の夜に外の石炭庫に放り込まれ、しばらく出してもらえないこともあった。今となっては笑い話だが当時はそれどころでない。怒られるのが怖くてたまらなかった

 ▼現在の感覚ならそれも虐待と呼ばれるのかもしれない。ただ、50年前はどの家も似たり寄ったり。世間的に問題になることはなかった。同じような経験をしてきた人も少なくないのでないか。肝心なのは叱るときに大人が限度をわきまえていることだろう。死ぬまで暴行を続けるなど常軌を逸している。千葉県野田市の自宅で小4の女の子が亡くなった事件。父親の栗原勇一郎容疑者が執拗(しつよう)に虐待した揚げ句、死亡させたとみられている

 ▼しつけの一環で悪いとは思っていないと供述しているようだが、限度もわきまえられぬ人間の何がしつけか。この件では父親の暴力を何とかしてほしいと先生に助けを求めた女の子の学校アンケートが市教委から父親に渡る失態もあった。普段きれいなことを言っている大人たちが一人も頼りにならず、寄ってたかって女の子の命を奪ってしまったようなものだ。きのうは母親のなぎさ容疑者も暴行に関与したとして傷害の疑いで逮捕された。当日は自宅にいたのにもかかわらず黙認していたらしい

 ▼かつて筆者を石炭庫から出してくれたのは母親だった。女の子にとっても母親は最後の頼みの綱だったろう。激しく殴られ、冷水を浴びせられ、その上母親からも見捨てられた女の子の絶望はどれほどだったか。大人たちの責任は重い。


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