コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 21

太陽光発電の弱点

2023年02月15日 09時00分

 老朽化していれば別だが、雪国では降雪によって建物がつぶされることはほとんどない。適切な積雪荷重を定めた建築基準法に則って建てられているからである。建物に限らない。多くの設備に雪国ならではの工夫が凝らされている

 ▼それが当たり前と考えているため、こんな発表を聞くと不思議に思う。製品評価技術基盤機構(NITE)によると、太陽光発電のパネルが氷雪で大量に破損しているというのである。2018年度から4年間を調査した結果、実に43件、約7万5000世帯分の発電出力に相当する破損事故が起きていた。東北が23件と最も多く、本道の9件がこれに続く。およそ8割は雪の重さで架台が壊れる事故。パネル自体が損傷した例も少なくなかった

 ▼「雪に雪降ってをるなり奥会津」和田順子。弱い架台で重い雪に対抗など、素人が横綱に挑むようなもの。利益を保障する固定価格買取制度はできたが安全を担保する法整備はされなかったため、簡単に形だけ作る業者が現れたわけだ。雪ばかりではない。傾斜地や風の通り道にパネルを敷いた揚げ句、豪雨や強風で破壊の憂き目に遭う例も全国で相次ぐ。脱炭素を錦の御旗に掲げ、再生エネルギーを偏重してきた国策の失敗だろう

 ▼日本初の電力会社「東京電燈」設立からきょうで140年。電力が切実に必要とされる事情は昔も今も変わらない。再エネは新しい大きな戦力だが、それは原子力や火力、水力と支え合ってこそだ。原子力の60年運転延長も決まった。電気料金高騰の今こそ、再エネの位置付けをもう一度見直したい。


子ども持ちますか?

2023年02月14日 09時00分

 問題の大きさに打ちのめされ、どこから手を付けていいか途方に暮れている間に、時間だけがどんどん過ぎていく。人が生きている中で何度か経験することだろう。国にも同じことが起こっているようだ。日本でいえば少子化がそれである

 ▼かなり前から警鐘が鳴らされていたのに、政府も社会も焦点を定められないまま正面から取り組むのを避けてきた。その結果が現在に至る合計特殊出生率の連続的な低下である。岸田首相が「次元の異なる少子化対策」を打ち出したのは今国会でのこと。そんな経緯もあってか、日本財団が去年12月に実施した18歳前後の男女対象の調査がにわかに注目されている。それによると「子どもを持つと思うか」との問いに、「持つ」と答えた人は「必ず」と「多分」合わせても45.6%。50%に届かなかったそうだ

 ▼「持たない」も23%と多数派ではないものの、「持つ」が半分以下は将来を悲観するに十分な結果でないか。「分からない」などが31.3%あったのも不穏である。若者は理由なく子どもを持つ選択を排除しているわけではない。障壁を尋ねると、「金銭的な負担」や「仕事との両立」「時間的な負担」が大きいという

 ▼歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は『パンデミック以後』(朝日新書)で、日本の幻想は「解決策が経済の中にあるように思っている」点だと指摘していた。首相は子育て予算倍増を言うが、お金だけにとらわれてはあぶ蜂取らずとなろう。世代間格差の是正や女性の働きやすい環境づくりといった、社会のありように目を向けなければ。


理想の上司

2023年02月11日 09時00分

 倒産寸前の「はとバス」(東京)を立て直した元社長の宮端清次氏には、心に刻むリーダーシップ論があったという。ソニー創業者井深大氏の講演で学んだそうだ。こんな話である

 ▼井深氏が社長のとき、工場トイレの落書きに悩まされていた。見学者も大勢来るのに指導してもなくならない。ところがある日、急になくなった。訳を聞くと、掃除のおばさんが「ここは私の神聖な職場です」と張り紙をしていたのだ。井深氏はこう反省したらしい。自分にはリーダーシップがなかった。上から下への指導力や統率力がそれだと考えていたが違う。人の行動を変容させる「影響力」こそがリーダーシップなのだ。『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社)で目にしたエピソードである

 ▼あえてひと言で表現すると、物事に取り組む真摯(しんし)な姿勢でないか。どんな時代にも通用しよう。明治安田生命保険が6日発表した「理想の上司」ランキングを見て思い出した逸話である。ことしの1位は男性がお笑いタレントの内村光良さん、女性がアナウンサーの水卜麻美さん。共に7年連続でトップを維持している。どちらにも指導力や統率力を発揮するイメージはない。上の者にも下の者に穏やかに接しながら、仕事には妥協なく向き合うタイプだろう。そこに影響力が生まれる

 ▼今春就職する学生の目には、それが理想の上司と映っているのである。新人を迎える時期が近付いてきた。上から目線で指導してやろうと待ち構えている人は、今のうちに軌道修正をした方がいい。


トルコ大地震

2023年02月10日 09時00分

 東日本大震災で親を失った子どもたちの作文集『お空から、ちゃんと見ててね』(あしなが育英会編、朝日新聞出版)に、こんな一文があったのを思い出す

 ▼「おかあさんがいたら、いろんなことができたね。ケーキをつくったりできたよね。ほいくえんからかえると、おかあさんがつくってたべさせてくれたね。3月10日までは、いい日だったね」。年齢は記されていないが、ひらがな文と内容からするとまだ幼い。トルコ南部のシリア国境付近で6日発生した地震の死者数が日ごと増え続けている。どれだけの悲しみが生まれていることか。東日本を経験した日本人の多くは、人ごとと思えずにいよう。現地の方々の苦しみはいかばかりか

 ▼9日現在で死者数は既に1万5000人を超えている。ただ救助が追い付いていないため、あとどれくらいの人ががれきの下に埋まっているのかつかめていない状況という。現地では懸命の救助・捜索活動が行われているが、発生から72時間が過ぎ、焦燥感ばかりが募る。今回の地震の規模はマグニチュード7・8。耐震化が十分でない建物は倒壊する強さである。一瞬にして崩れる建物から逃げられなかった人が多いと聞く。厳しい寒さも事態をさらに難しくしている。氷点下の日も珍しくないそうだ

 ▼東日本のときも地震や津波からは何とか逃れたものの、避難中に寒さで体調を崩す被災者がたくさんいた。二次的被害の防止にも適切な措置が必要である。今は迅速な救助と生活支援を祈るばかり。悲しい記憶を抱え込まねばならない人が一人でも減りますように。


植村直己冒険賞に札幌の野村さん

2023年02月09日 09時00分

 冒険と聞くと無性に胸が躍るのは男に生まれた者の宿命だろう。危険があると分かっていても未知の領域に踏み込んでみたくなる。頭が単純なのかもしれない

 ▼とはいえ冒険には、新たな扉を開くような高揚感があるのも確か。冒険家植村直己も対談集『男にとって冒険とは何か』(潮文庫)でこう語っていた。「何かをやろうとし、精一杯やれば、そこに何か新しいものが生まれる、それが冒険の神髄じゃないか」。かくして今までもこれからも、冒険に挑む者のやむことはない。その植村さんの精神を継承する創造的な行動をたたえることしの「植村直己冒険賞」に6日、札幌市の山岳ガイド野村良太さん(28)が選ばれた。積雪期に宗谷岬から襟裳岬まで本道の分水嶺となる山脈を縦走し、一度も中断することなく単独で踏破したのである

 ▼出発は去年の2月26日。宗谷丘陵から北見山地、十勝・大雪連峰、日高山脈と南下し、4月29日にゴールへ到達した。全行程約670㌔を、63日間かけて歩いたという。登山経験のない人にはこのすごさがあまり伝わらないかもしれない。掛け値なしに不可能と思えるくらいの偉業である。体力的に過酷なのはもちろん、行く手を阻む積雪に猛烈な吹雪、雪庇(せっぴ)の張り出した鋭い稜線と試練が続く

 ▼自ら記録した映像をまとめた『白銀の大縦走』(NHK)を見たが、よくこんな悪条件の中を歩き切ったものだと感心した。国内、しかも身近な北海道を舞台にした活動での植村賞の受賞は27回目にして初めて。多くの男たちの冒険心に火をつけたのでないか。


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