コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 211

冬至

2018年12月21日 07時00分

 あしたは冬至である。ことしの北海道は今月初めまで妙に暖かい日が続き、雪が積もるのも遅かった。一体いつ冬になるのかといぶかっていた人も少なくないのでないか

 ▼ところが帳尻を合わせるかのように5日から気温はぐんぐん下がり、雪も不足を取り戻すように降り続いた。「降る雪の音を沈めて積りけり」(河田たま子)の句のごとくである。気が付けばすっかり冬のたたずまい。まさに冬に至った感がある。スーパーをのぞくと、カボチャやユズが店頭の目立つ所にたくさん置いてあった。季節の風物詩の一つである。さて、カボチャならどれがお好みだろう。甘じょっぱく味付けした煮物、小豆との相性が絶妙なぜんざい、ほっこり揚がった天ぷら

 ▼一方のユズはもっぱらゆず湯に用いられる。『半七捕物帳』で知られる小説家岡本綺堂が随想でゆず湯について触れていたのが気になった。「すき透るような新しい湯は風呂いっぱいにみなぎって、輪切りの柚があたたかい波にゆらゆらと流れていた」。丸ごと湯船に浮かべるのが一般的なため、輪切りにしてみようなどとは考えたこともなかった。確かに香りも立つし成分も湯に溶け込む。後始末は少々面倒だがこれはこれで気分の良いものかもしれない

 ▼冬至のこうした習慣は、冬の厳しい寒さを健やかに過ごすには滋養の付く物を食べ、体を温かくして暮らすようにとの生活の知恵を今に伝える。ことしもあと残りわずか。冬はまだ長いがまずはこの忙しい年末を乗り切らねばならぬ。では今晩家に帰ったらユズを輪切りにでもしておきますか。


恵庭の狩猟事故

2018年12月20日 07時00分

 昔からよく聞かされてきた言葉に「注意一秒、けが一生」がある。ご存じの通り、一瞬の不注意が一生を駄目にするような大けがを招くとの教えだ。この「けが」だが自分とは限らない。他の人の場合もしばしばある。ときには命を奪ってしまうことさえ

 ▼これも不幸な出来事だった。北海道森林管理局石狩森林管理署の職員菅田健太郎さんがハンターの誤射で亡くなった恵庭の事故のことである。きょうで1カ月だ。先週、同局の新島俊哉局長が出した「狩猟者の皆様へのお願い」を見て胸が締め付けられる思いがした。こう書かれていたのである。「彼は38歳とまだ若く、奥さんと3人の小さな子供がいて、子供達もお父さんと遊ぶのが大好きでした。一家の大黒柱を失った奥さんや子供達をはじめご両親の大きな悲しみは、並大抵のものではない」

 ▼組織の長としてはもちろん、大切な仲間を失った一人の職員としても二度とこんな悲惨な事故は起こしてならないと、強く訴えずにはいられなかったのだろう。他にも、当時は葉が落ちて見通しが良く、菅田さんも十分目立つ姿をしていた点を指摘し「本当にすべての狩猟者一人一人にまで、狩猟関係法令と狩猟ルールが徹底されているのだろうか、と疑念を抱かずにはいられません」

 ▼「お願い」としては異例ともいえる強い調子だが、一瞬の引き金で人生を狂わされる人をこれ以上出さないためにはこれでも弱過ぎるくらいに違いない。大部分の狩猟者はルールを順守していよう。しかし猟銃所持の責任を考えれば、不心得な者は一人もいてはいけない。


国会の長短

2018年12月19日 07時00分

 世の中には気の長い人と短い人がいる。何事をするにしてもそれぞれペースが違うため、分かり合うのはなかなか難しい。そんな人間模様を面白おかしく描いた落語に「長短」がある

 ▼のんびり屋の長さんがせっかちな短七の長屋に遊びにきた。長さんは出されたまんじゅうを一口食べると牛のようにずっとモチャモチャ噛んでいる。まだるっこしさに耐えられなくなった短七はそれをもぎ取って丸のみし、目を白黒。次にたばこを勧められた長さん。やはり火をつけてから吸い始めるまでに延々と時間をかける。見ていられなくなった短七が言い放つ。「俺なんざ急いでるときは火がつく前に一服のんじまうんだ」。もはやたばこの意味がない

 ▼先週閉会した臨時国会でも、野党と政府・与党とでそんな落語が演じられていたようだ。細かい点を上げつらいなかなか審議を進めようとしない野党が長さん。それに対し法案の不備が明らかとなって議論に火がつく前に次々と採決に持ち込む政府・与党が短七である。これでは国会も正常に機能しなかろう。と思いきや、終わってみれば延長なしの会期48日間で改正入管法や改正水道法など政府の新規提出法案13本がことごとく成立。全法案が成立したのは2007年の臨時国会以来だという

 ▼必要な法律が遅滞なく決まるのは歓迎だが、与野党が対立を演出しながら最後はあうんの呼吸で着地させたようにも見える。先の落語でも長さんと短七はけんかばかりしているが実は仲良し。与野党も表ではいがみ合っても裏では…。まあよくできた噺、いや話なのかも。


平岸爆発炎上事故

2018年12月18日 07時00分

 昔の推理小説にはヒ素をトリックに使った犯罪がよく出てきた。やはり定番で即効性のある青酸カリとは違い、蓄積して徐々に被害者を死に至らしめる毒物である

▼はたからは病気が悪化して亡くなったように見えるため、殺人が行われたと疑う者はいない。犯人はたいてい被害者に近い人物だった。献身的に看病をしていると見せかけて、その実ひそかに毎日の食事や飲料、薬に少しずつヒ素を盛っていくのである。1回は少量でも蓄積されると重大な結果をもたらすわけだ。ヒ素を仕掛けにした推理小説は単なるご都合主義だが、今回の事故には現実にもそんな出来事があることを見せつけられた。札幌の平岸で16日に発生した店舗の爆発炎上である

▼事実は小説より奇なり。どうやら現場の不動産会社従業員が100本以上のスプレー缶のガス抜きをしたのが原因らしい。直後に手を洗おうと湯沸かし器をつけたら爆発したのだとか。1本の残ガス量など大したことはあるまい。ただこれだけ大量なら話は別。フロンガスの禁止以来、スプレー缶には無色無臭で毒性もないLPガスが多く使われる。ところが可燃性が高い上、空気より重いため下にたまって異常に気付きにくい。今回はそこが盲点になったのだろう。徐々に蓄積されたガスがヒ素のように危険域に達したようだ

▼ニュース映像を見ると不動産会社と隣接する居酒屋は共にほぼ崩壊。41人もの重軽傷者が出たそうだ。お見舞いを申し上げる。スプレー缶に絡む事故が後を絶たない。ちょっとした油断が大きな事故につながる。十分にご注意を。


アニメと土木

2018年12月17日 07時00分

 土木系総合誌『土木技術』(土木技術社)12月号が「アニメと土木」特集を組んでいると聞いて興味を引かれ、早速読んでみた。はてアニメと土木、言葉だけ見ると水と油ほど違うようだがどの辺りに接点があるのか

 ▼巻頭言にこうあった。アニメは物語を扱うため架空にせよ実在にせよある社会が提示される。「そこには土木が描かれ、時には制作者らの意図を超え、それらが重要なトピックとして浮上してくる」。言われてみればその通り。それを分かりやすく伝えるため、特集では人気アニメ『転生したらスライムだった件』の原作者伏瀬氏へのインタビューを掲載していた。この作品は通り魔に殺されたゼネコン技術者が異世界でスライムに転生し、誰もが幸せに暮らせる世界を造るため奮闘する物語である

 ▼伏瀬氏は舗装業を営む家に生まれ、中堅ゼネコンで長年修行もしてきた人だという。現場代人として経験した職人教育や発注者との調整、近隣住民対応といった苦労が作品に生かされているそうだ。インフラの重要性や事業効果、社会貢献について詳しく紹介する場面もあるらしい。土木技術者時代を振り返って伏瀬氏は言う。「大変なことは山ほどありましたけど、土木の仕事自体はとても面白くやりがいがあるんです。モノを作る楽しさってやつですね」

 ▼建設業の若者離れが語られて久しい。いろいろ理由はあろうが、アニメ同様新たな世界を造り上げる土木の喜びが伝えきれていないことも原因の一つでないか。若者に人気のアニメが土木の入り口になるのだ。参考に一読をお薦めする。


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