コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 215

財政審の建議

2018年11月22日 07時00分

 そんな無責任な30年をわれわれは過ごしてきてしまったのか―。この報に触れ、思わずため息をついた人も少なくなかったのでないか。財務省の諮問機関である財政制度等審議会がおととい、平成30年間の財政運営を「極めて厳しい財政状況を後世に押しつけてしまう格好となった」と総括する建議を提出した

 ▼嫌なことは後回しにして国の借金ばかりを膨らませ、負担だけは孫や子どもに残していくと批判したわけ。事実、本年度末(見込み)の公債残高は1990年度の5倍を超える883兆円。バブル崩壊やリーマンショック、少子高齢化といった諸課題に正面から向き合おうとせず、バラまきを繰り返した結果が現在の状況だという

 ▼ところで1カ月前に国際通貨基金(IMF)がこんな報告を出していたのをご存じだろうか。負債だけでなく資産も考慮して試算すると、日本の純資産はほぼプラスマイナスゼロ。つまり借金と貯金が同額あるため、今のところ日本の財政状況に心配はないとの分析である。国の財政を正確に把握するには、負債と資産両方を見る必要があるとIMFは説く。借金だけに着目し「後世への押しつけ」と断じた財政審とは対照的である。見方を変えれば平成は後世の人々のために贈り物たる資産を積み上げてきた時代ともいえるのだ

 ▼「盾の両面を見よ」のことわざもある。一面だけで物事の真の姿は分からない。予算と税収の差を埋める努力は当然としても、消費税率引き上げ前の新年度予算編成時期にこの建議を出してくるとは。財務省の作戦も一面的ではないようだ。


ゴーン容疑者逮捕

2018年11月21日 07時00分

 封建制度が社会の隅々にまで浸透していた江戸時代のことである。藩主に対し家臣は絶対服従だったと思いきや、実態は必ずしもそうでなかったらしい

 ▼公金を遊興に費やし藩財政を危機に陥れるような藩主も当時少なからずいたようで、そんなとき家臣団はひそかに打ち合わせて手はずを整え藩主を拘束。座敷牢や離れに幽閉したそうだ。「主君押込」という。やむを得ないこととして、幕府もこれを容認していた。もちろんそのころの日本に民主主義が機能していたわけではない。お家を守るため家臣団に残された最後の手段が、素行の悪い藩主の排除だったのである。世間をあっと言わせた今回の出来事を見て、その「主君押込」を思い出した

 ▼日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者がおととい、金融商品取引法違反で東京地検特捜部に逮捕された事件のことである。疑惑を指摘する内部通報を受け社内で数カ月にわたって秘密裏に調査を進めた結果、ゴーン容疑者の重大な不正が明らかになったという。日産はこの情報を地検に提供。羽田空港での電撃逮捕につながった。対象期間中約100億円の報酬を受けていたのに、有価証券報告書にはその半分しか記載していなかった疑いが持たれている。会社資金の私的流用もあったようだ

 ▼かつて大胆な合理化で日産をV字回復に導き、今はルノーと三菱自動車を加えた3社連合を率いる大藩の主も強欲の罠からは逃げられなかったか。そういえば高額報酬へのこだわりが異様に強い人ではあった。日産の不祥事が止まらない。名君は現れるのだろうか。


ゆるキャラ2018

2018年11月20日 07時00分

 ことしの人気日本一を決める「ゆるキャラグランプリ」の投票結果がおととい発表され、ご当地部門で埼玉県志木市文化スポーツ振興公社の「カパル」が第1位に輝いた。市に伝わるかっぱ民話を基にした公式キャラクターだという

 ▼ところで今回のグランプリで話題を集めたのは順位より、一部の自治体がそれを上げるため駆使した組織票戦術だった。ネット投票のためのIDを大量に作り票を水増ししたのだとか。その自治体のゆるキャラは四日市市の「こにゅうどうくん」と大牟田市の「ジャー坊」、泉佐野市の「イヌナキン」の3体である。組織票発覚前にはいずれも100万票超えで上位3位を独占していたが、細工が明るみに出て組織票が無効になると全て2位以下に転落。4位だった「カパル」が1位に浮上した。かっぱだけに、といったところか

 ▼狙った結果を確実にしようと、数集めにばかり意を注いだ3市に付けが回ったということだろう。罪のない「こにゅうどうくん」らには気の毒な話だ。ただ、組織票より気になるのが相も変わらぬ自治体の入れ込みようである。「くまモン」や「ひこにゃん」は分かっても、ここ数年の1位を知っている人はほとんどいないのでないか。例えば去年の「うなりくん」(千葉県)

 ▼サラリーマン川柳(第一生命)にこんな句があった。「正論を吐かぬ聴かぬが出世道」。担当者も本音では疑問に思いながらも役所特有の前例主義や横並び志向に飲み込まれ、「もうやめよう」の正論が言えなくなっているのでは。ゆるキャラもゆるくないご時世である。


陛下が被災地厚真に

2018年11月19日 07時00分

 人の背中は意外と多くのことを語るものらしい。「子は親の背中を見て育つ」の言葉もあるくらいだ。日本人の精神史に造詣が深い文芸評論家亀井勝一郎氏の随想『大和古寺風物詩』にも、人の後ろ姿について触れたこんな一節があった

 ▼「人間の心は、目や表情にもあらわれるが、後姿にはっきりあらわれることを忘れてはならぬ。人は後姿について全く無意識だ。そして何げなくそこに全自己をあらわすものだ」。東京の赤坂御苑で開かれた平成最後の秋の園遊会。その模様を伝えるニュース映像を見ていたら、雨の降りしきる中、招待された人々と歓談する天皇陛下の右肩がずぶぬれになっていた。一つ傘の下、左に並ぶ皇后さまに雨が当たらないよう気遣っていたのだろう。失礼ながらその格好良い後ろ姿に少々しびれた

 ▼それがつい先日のこと。譲位を来年に控え何かとお忙しいに違いないが、そんな中で今度は先週15日、両陛下は胆振東部地震で大きな被害を受けた厚真町を訪れ、被災者を見舞われた。前日に大きめの余震があり現地入りが心配されたものの、予定の変更はなし。周囲の負担が大きくならないよう新千歳空港からはマイクロバスで移動したという

 ▼皇后さまが熊本地震の被災地を訪れた後に詠んだ歌がある。「ためらひつつさあれども行く傍らに立たむと君のひたに思せば」。陛下は今行って何ができるのかとためらいながらも、人々のそばにとの一心でいつも被災地に向かわれるというのだ。今回親しく懇談した被災者も、どれだけ励まされたことか。平成の後ろ姿は実に優しい。


北方領土交渉新展開

2018年11月16日 07時00分

 幾多の苦難を乗り越えて身に付けた今の実力がもし20歳のころの自分にあれば、人生は全く違ったものになっていただろう―。誰しも一度はそんな夢想をしたことがあるのではないか

 ▼SF小説『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(角川文庫)はそれが現実になった男の姿を描く。男は死ぬと元の記憶を持ったまま生まれ変わり、蓄積した知恵と経験で失敗を回避。前の人生でやり残した事業を仕上げるのである。こちらも状況は似ているかもしれない。安倍首相とプーチンロシア大統領が14日、訪問先のシンガポールで首脳会談を行い、1956年の「日ソ共同宣言」を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した
 ▼共同宣言には平和条約締結後、北方4島のうち歯舞と色丹の2島を引き渡すことが明記されている。森喜朗元首相とプーチン大統領が01年に共同で出した「イルクーツク声明」の時点までようやく戻ってきたようだ。ことここに至るまで日本の政権は何度生まれ変わらねばならなかったか。今回の合意は「4島一括」から「2島先行」へ、政府が大きな方針転換を図ったとする見方もあるがそうではあるまい。歯舞と色丹の返還と同時に平和条約を結び、国後と択捉の帰属についてはそれから話し合うというのがイルクーツクまでの既定路線だったはず

 ▼事態が迷走し始めたのは、01年に誕生した小泉政権がロシア軽視の姿勢をとってからだ。安倍・プーチン合意で北方領土交渉もまた生まれ変わろう。ただ、蓄積してきた知恵と経験は消えない。歴史的な一歩を踏み出せるのでないか。


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