コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 216

冬の便り届く

2018年11月15日 07時00分

 便りがないのは良い便り―。そんなことを思いながら長めの秋をのんびり過ごしてきたのだが、どうやらその猶予期間も終わりに近づいているようだ。本道にとうとう冬の便りが届いたのである。きのう、稚内と旭川、網走の各気象台が今季の初雪を観測した

 ▼雪かきの苦労もさることながら、家計を直撃するこのところの灯油高である。本格的な冬の訪れを告げる「便りがない」のを喜んでいた人も少なくあるまい。それにしてもずいぶんと遅い初雪でないか。平年に比べ稚内で23日、旭川で22日、網走で14日も差があったそうだ。中でも稚内は1939年の統計開始以来、最も遅い記録だという。ことしは台風に暴風雨、猛暑と天気の神様が空の上で余計な仕事にかまけ過ぎ、雪を忘れていたのかもしれない

 ▼これに触発されたわけでもなかろうが、今度は海の神様まで余計な仕事を始めたようだ。熱帯太平洋東部の海面水温が平年より高くなるエルニーニョ現象が発生したのである。先週、気象庁が発表した。同庁によるとエルニーニョ発生中の本道の冬は、気温が例年並みかやや低め、降雪量が日本海側で少なめになるのだそう。幸いにも影響は小さい。一方、東日本の太平洋側では大雪の降ることがあり、実際2年前には首都圏が大混乱に陥った

 ▼ともあれエルニーニョがあろうとなかろうと、冬の便りが届けばもう季節が逆戻りすることはない。あとは厳しい冬にまっしぐらだ。「百万の寄せ手のごとく冬が来る」佐々木虹橋。冬の軍勢に立ち向かうために、そろそろ諦めて防備を固めるとしようか。


1キログラムの定義

2018年11月14日 07時00分

 住宅設備関係の仕事をしているなら別だが、3尺幅の窓と聞いて具体的に長さを思い浮かべられる人は今そう多くないだろう。1尺は手を広げたときの中指の先から親指の先までの長さとされる

 ▼身一つあればいつでもどこでも計れる便利さで、古くから使われてきた計測法である。ただ、手には個人差があり人によって長さはさまざま。この混乱を避けるため、明治時代に入り度量衡法で1尺30・3cmと定められた。まあ、長さを統一するのは当然のこと。でなければジャイアント馬場が大工になったとき、普通の体格の人にはかなり住みにくい家ができてしまう。それは一つの例だが考え方は国際社会も同じ。グローバル化が進むにつれ単位当たり数量の定義は厳密の度を増していく

 ▼現在パリで開かれている単位の国際会議では、1キログラムの定義が変更されるそうだ。これまで130年間にわたり世界標準として使われてきた白金イリジウム合金製の分銅「国際キログラム原器」はお役御免となるらしい。この原器は二重のガラス容器に覆われ、温湿度管理できる部屋の金庫で保管されている。それでも物体である以上、汚れで重さが変わる可能性は避けられない。そこで定義を見直すことにしたのだとか。かすかな重量増も許さないとは年頃の乙女のようではないか

 ▼新たな定義は物でなく「プランク定数」と呼ばれる量子論の基礎を成す物理定数に基づくという。日常生活に影響があるわけではないが、尺が手を離れていったようにキログラムも遠いところに行ってしまうようで何だか心もとない。


新幹線の洞門

2018年11月13日 07時00分

 険しい崖地の道でたくさんの人が滑落して命を落とすのに心を痛めた一人の禅僧が、発心して岩壁にトンネルをうがつ。大分県中津市の耶馬渓に伝わる「青の洞門」の故事である。小学校の道徳で聞いた話を覚えている人も多いのでないか

 ▼禅僧は托鉢で資金を集め、一人で掘り始める。「そんなことできるはずがない」と最初はばかにしていた周囲も禅僧の真剣な姿に心を動かされ、次第に手伝う人が増えていった。ノミとツチだけを使い岩をうがち続けること30年余り。ついに1764年、洞門は開通したのである。それからは人4文、牛馬8文の通行料を取り工費に充てたらしい。今風に言えばそこでようやく事業黒字化に道筋が付いたということだろう

 ▼JR北海道が先週発表した2017年度の線区別収支状況で、新幹線の赤字が98億円に達していると聞きその故事を思い出した。新幹線もまだ北海道の入り口函館にとどまっている段階。大きな潜在需要は掘り始めたばかりの岩のはるか先で眠っている。つまり札幌までの延伸が実現しないことには、新幹線単独黒字化の絵は描けないわけだ。そもそも政令指定都市20市のうち、新幹線が近傍を通っていないのは札幌市のみ。この国土開発のいびつさが結果として赤字を生んでいるといっても過言ではあるまい

 ▼とはいえ札幌延伸開業は30年度。それまではJR北が国や自治体の協力を得ながらしのいでいくほかない。まさか托鉢で資金を集めるわけにもいかないが魅力あるプランには利用者も喜んで料金を払おう。まずはJR北の真剣な姿を見たい。


新語・流行語大賞

2018年11月10日 07時00分

 新語・流行語と銘打たれてはいるが半分は聞いたこともない、と毎年苦笑している人も少なくないのでないか。ことしもユーキャン「新語・流行語大賞」にノミネートされた30語が決まった

 ▼「そだねー」や「スーパーボランティア」はくっきり記憶に残っているし、「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」もまあまあ。ところが「おっさんずラブ」とか「筋肉は裏切らない」と来た日には疑問符しか浮かばない。ただやはり特徴は出るもので、今回はスポーツ関係の言葉が目立つ。前出の「そだねー」をはじめ「悪質タックル」「なおみ節」「翔タイム」など9語が挙がっている。良い内容ばかりではないものの、それだけスポーツ界に話題が多かったということだろう

 ▼一方で昨年は12語もあった政治関係が「ご飯論法」「首相案件」「高プロ」の3語しかなかったのも世相を反映しているようだ。しかも新語・流行語としては印象が薄いものばかり。国会の空騒ぎに、みんな飽き飽きしたのかもしれない。眺めていて気付いたのだが本道に関係する言葉が5語もあった。「翔タイム」は元北海道日本ハムファイターズ大谷翔平選手の活躍を表した言葉で、「金足農旋風」の立役者吉田輝星投手はその日ハムに入る。「そだねー」と「もぐもぐタイム」は言うまでもない

 ▼もう一つは「ブラックアウト」。いまだ生々しい経験である。経済産業省が最近、今冬の節電を要請する方針を固めたくらいだから完全に終息してもいない。となると、道民なら大賞は「そだねー」と「ブラックアウト」で決まりか。


米中間選挙

2018年11月09日 07時00分

 都合の悪い話はあまり正直に言いたくない。誰しも覚えのあることだろう。そんな人情の機微を描いた落語に「大安売り」がある

 ▼ある関取が相撲巡業の経過を報告しようとひいきの旦那の家に赴く。あいさつもそこそこ「今回は勝ったり負けたりで」と話し始めるが、出てくるのは投げられた話ばかり。不思議に思った旦那が「で、いつ勝ったんだい」と問うと、「それが、向こうが勝ったりこっちが負けたりで」。確かに「勝ったり負けたり」の話でうそはなかろう。同じ出来事を別の方向から見ただけである。まあ、いつも親身に応援してくれる旦那に全敗と言いにくい関取の気持ちも分からないではない

 ▼米中間選挙直後のトランプ大統領の発言を聞きこの落語を思い出した。選挙結果は改選前に比べ上院で現状維持のギリギリ過半数確保。一方、下院では民主党に大幅な議席上積みを許し過半数を奪い返された。この状況を見てトランプ氏はツイッターでこう発信したのである。「とてつもない成功だ」。まさか下院で向こうが成功し、上院でこっちが成功したから万々歳、の意味ではあるまい。強気なトランプ氏としては、負けたと認めたくなかったのだろう。とはいえさすがにこれは格好悪い

 ▼こうした関取は日本にもよく現れる。国政選挙で敗れた党が言うではないか。「善戦した」「実質的な勝利だ」。負け惜しみにしか聞こえない。ところで来年は安倍政権を評価する、いわば中間選挙の参院選である。今のところ自民党の横綱相撲だが、さてどんな「勝ったり負けたり」を見せられるのか。


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