コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 217

ラベンダーの香り

2018年11月08日 07時00分

 真っすぐ伸びた茎に紫色の花が幾重にも連なる。本道ではなじみの植物だろう。ラベンダーである。古くから香りで緊張が和らぐと信じられているため、ポプリ(乾燥香料)を部屋に置く人も少なくない

 ▼SF小説『時をかける少女』(筒井康隆)で、時を超える能力を強めるのに使われたのもラベンダーから抽出した薬だった。そんな話の展開に何の疑問も感じないくらい独特で印象に残る香りがあるということだ。そうしたラベンダーのリラックス効果は、どうやらただの気のせいではなかったらしい。鹿児島大大学院医歯学域医学系の柏谷英樹講師らの研究グループが最近、ラベンダーの香りが不安を軽減する脳の仕組みを解明したのである

 ▼同大の発表によると香りの主成分「リナロール」が嗅覚を介して脳の中枢神経系に働き掛け、抗不安効果を生み出しているという。マウス実験で確認した。ラベンダーの香りの活用は今まで「民間療法」の域を出なかったが、これで科学のお墨付きを得たことになる。臨床でもこの研究は大いに役立つそうだ。抗不安薬として現在用いられるベンゾジアゼピン系薬剤にはしばしば運動障害がみられるものの、リナロールではそうした現象が起こらない。安全な薬の開発につながるのである

 ▼なるほど多くの観光客が富良野地域に集まるわけだ。視覚で雄大な風景、嗅覚でリナロールを取り入れれば浮世の不安も解消されるに違いない。「衣装箪笥(ワードローブ)のラベンダの香に目覚めるや」木村聡雄。時は超えられないが、部屋のポプリでも効果は十分である。


かんばん方式

2018年11月07日 07時00分

 優れた生産管理システムとして世界に冠たるトヨタ「かんばん方式」は、工場から下請けまで「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」供給することで一切の無駄を省く仕組みである

 ▼「ジャスト・イン・タイム」と呼ばれるゆえんだが、最初からうまく機能したわけではない。指定された日時ぴったりの納品でないと受け入れてもらえないため、導入してしばらくは工場の前に下請けの長い行列ができたそうだ。かんばん方式で効率化に取り組んだトヨタは容赦ないコスト削減も押し進め、法外ともいえる値下げをたびたび下請けに要求。涙をのんだ業者も多かったと聞く。生殺与奪の権を握る巨大企業に逆らうなどできるわけもなかった

 ▼それを思い出したのは、時代の最先端を走り洗練されたイメージのIT業界にも同様の問題があると知ったからである。経済産業省などが設置した有識者会議が5日、グーグルやアマゾン、アップルといった巨大IT企業の規制を強化する方向で中間報告案をまとめた。「プラットフォーマー」と呼ばれるそうした巨大IT企業が圧倒的シェアからくる強い立場を利用して、個別企業の小売価格に干渉したり、一方的に手数料を値上げしたりと不当な取引を強いる例があるからだという

 ▼時代は進み業態が変わっても人の考えることは一緒のようだ。規制の内容は監視組織の創設や情報開示の義務付けが想定されているとのこと。「かんばん」は自分たちだけでなく下請けや取引先など多くの関係者の力で掲げられていることに巨大IT企業も早く気付いた方がいい。


MADE IN

2018年11月06日 07時00分

 幾つか国名を挙げる。「CHINA」「THAILAND」「VIETNAM」。若い人にとっては当たり前の表記だろう。ところがわれわれ年配の者には当初、大いに違和感があったのである。もうお分かりと思うがこれらの国名の前には「MADE IN」が付く

 ▼日本企業が安い労働力を求めてアジア地域に工場を移転し、そこでの生産品が一気に日本市場を席巻したのだった。1980年代ころからだろうか。出始めは「何だこれ、MADE IN CHINAって。中国製?大丈夫なのか」くらいのものだ。今では「JAPAN」を見つける方が難しい。アジア進出はグローバル経済の中で、コスト競争力を高める経営戦略の定石だった

 ▼そんな猛烈な勢いで広がった海外進出からまだ半世紀も経ていないのに、現在は外向きから内向きへ全く逆の流れも生じているらしい。時代の変化の速さには驚くばかりだが、昨今は外国人労働者に日本まで来てもらわねば立ち行かない産業が増えているのだという。2日、政府は国会に外国人労働者が単純労働に就労することも可能とする入管難民法改正案を提出した。今国会での成立を目指すそうだ。建設や介護、外食など人手不足が深刻な14業種を対象に門戸を開放するとのこと

 ▼結構な話である。ただ、永住もうたって受け入れ制度を整えるなら彼らの人生に重い責任を負うことも忘れてはならない。時代が変わったからといって放り出すことはできないのだ。議論を尽くし世界に誇れる「MADE IN JAPAN」の在留資格制度にしてもらいたい。


北海道遺産67件に

2018年11月05日 07時00分

 当たり前にあるものとして普段気付かずにいることも多いけれど、本当はかけがえのない宝物。ご存じの通り「北海道遺産」にはそんな意味が込められている

 ▼先週、第3回選定結果が発表になった。2004年までに52件が決まり発掘はいったん終わっていたが、ことしの北海道命名150年を機に追加することになったのである。今回15件が加わり合計67件。本道の広さを考えればこれでも足りないくらいだろう。新たに選定された15件を見ると、これまでとは趣の異なる遺産が増えたことに気付く。それは長年の風雪に耐えてきた古さを特徴とする遺産でなく、今まさにつくられている進行形の遺産である

 ▼その最たるものが「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)」。90年に世界的指揮者の故レナード・バースタインが企画して札幌で始まった教育音楽祭だが、今やアジアを代表する一大イベントとして確固たる地位を築いている。「遺産」であると同時に「資産」でもある好例だろう。経営戦略論を専門とする米経済学者マイケル・ポーターハーバードビジネススクール教授は以前、こう語っていた。「今日のグローバル経済においても、競争上の優位性は、地域の遺産や特徴を利用することによって獲得できることが多い」

 ▼北海道遺産について分析したものではないが、本道の未来を展望する上で示唆に富む言葉でないか。北海道遺産を67件も抽出できたのは喜ばしい。ただ、集めただけで満足してはいけない。これをどう本道の未来に生かすのか。大切なのはここからである。


エサンベ鼻北小島

2018年11月02日 07時00分

 昔から楽しまれている簡単な思考実験に「無人島に一つだけ持っていけるとしたら何にする?」がある。誰でも一度は考えたことがあるのではないか

 ▼すぐに答えられるようでいてこれがなかなか悩ましい。現実的にはナイフやライターのような生存の役に立つ物を選んだ方がいいに決まっているが、退屈をまぎらすための漫画や小説の類いも捨て難い。ギターさえあればという人も中にはいよう。意外と性格が出る。それを思い出したのは、あったはずの無人島が消えてしまったとのニュースを聞いたからである。話題となっているのは猿払村沖約500mに位置する「エサンベ鼻北小島」。国土地理院の地図にも記載されているくらいだから、存在していたのは間違いない

 ▼ところが最近になって第一管区海上保安本部に、地元の住民から「見当たらない」との情報が寄せられたという。報道によると発見された31年前には海面から1・4m突き出ていたとのこと。一管は流氷や波の影響を指摘しているそうだ。島の消滅といえば沖ノ鳥島を忘れるわけにはいかない。日本最南端の無人島だが、浸食や風化を防ぐため国が1000億円以上かけて保全工事を進める。水没すると広大な排他的経済水域を失うだけに懸命にならざるを得ないのだ

 ▼「エサンベ」も消えると領海が狭まる可能性があるらしい。ロシアに接し「特攻船」の歴史があったことも踏まえれば、関係者にとっては数百mの変動も大きな違いに感じられよう。無人島「エサンベ」に一つだけ持っていけるとしたら特大の消波ブロックだろうか。


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