コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 218

韓国徴用工問題

2018年11月01日 07時00分

 横紙破り、ちゃぶ台返し、無理が通れば道理引っ込む―。いろいろな表現ができるがつまりはそういうことである

 ▼日本統治時代に朝鮮から動員された韓国人元徴用工が新日鉄住金を相手取り損害賠償を求めていた裁判で、韓国の最高裁に当たる大法院はおととい、個人請求権を認める初の判断を下した。1965年の日韓協定で「完全かつ最終的に解決された」問題のはずだが、亡霊が墓場からよみがえったようだ。韓国の大法院も日本の一部の若者と同様、ハロウィーンで暴走してしまったか。そんな皮肉の一つも言いたくなるが冗談で済ましている場合ではない。今回の件は竹島不法占拠やいわゆる「従軍慰安婦」問題とは質が異なる

 ▼日本企業に深刻な実害が出るのだ。請求権に法的な後ろ盾ができ、強制執行で資産を差し押さえられるかもしれないのである。係争中の多くの裁判もこの判断に則った形で、これから続々と判決が出ることになろう。しかもそれは国同士の約束を無視して行われるのである。夢野久作の短編「約束」が頭に浮かんだ。橋の下で友達と会う約束をした男の話である。大雨で川が増水したのに男は約束だからと逃げず溺れて死ぬ。話を聞いた人が言う。「約束を守るのは悪い事だ」。別の人が諭した。約束は溺れ死ぬことでなく会うことだった。男は目的をはき違えていたのだ

 ▼65年のあの日、日韓も過去を清算し国交を正常化させるために約束をした。両国が憎しみに溺れ、再び泥沼に陥ることのないよう知恵を絞ったのである。韓国は約束の目的をはき違えてはいないか。


宝島社の新聞広告

2018年10月31日 07時00分

 ロッキード事件が世間を騒がせていた1970年代後半以降に若者時代を過ごした人なら、『別冊宝島』にもなじみがあるのではないか。政治や経済、科学からサブカルチャーまであらゆる分野を扱い、一つのテーマを一冊で徹底解説するムック本のことである

 ▼現在も刊行は続いていて、通算すると既に2600号を超えているという。出版社はかつて、JICC(ジック)出版局と称していた。今の宝島社である。話題づくりのうまいその宝島社が29日、全国紙に見開き広告を出した。9月に亡くなった樹木希林さんの言葉とともに、朝日新聞には希林さんの家族写真、読売新聞には希林さんがいたずらっ子のように舌を出す写真を載せたのである。少々胸を打たれた

 ▼少し言葉を拾ってみよう。まず朝日。「絆というものを、あまり信用しないの。期待しすぎると、お互い苦しくなっちゃうから」「病を悪、健康を善とするだけなら、こんなつまらない人生はないわよ」。常識にとらわれない人だったようだ。次に読売。日本の「水に流す」という言葉と桜との関係について。「何もなかったように散って、また春が来ると咲き誇る。桜が毎年咲き誇るうちに、「水に流す」という考え方を、もう一度日本人は見直すべきなんじゃないかしら」。特定の誰かを集中攻撃する今の日本の風潮に懸念を抱いていたらしい

 ▼確かに近頃は日本社会から寛容の心が失われている気がする。故人をしのびながら社会のゆがみにもしなやかに警鐘を鳴らす。新聞を使った宝島社の野心的広告に目を覚まされる思いがした。


70歳まで雇用継続

2018年10月30日 07時00分

 定年と聞いて真っ先に思い浮かべるのは寂しさか解放感か。どんな仕事をしてきたかによっても随分と違いが出よう

 ▼ノンフィクション作家の高橋秀実さんにとってはうらやましいものだそうだ。日本経済新聞にエッセーを寄せていた。作家に定年はない。「定年があれば『しばらくのんびりしたい』とか『第二の人生』などと言えるのだろうが定年がないと、これまでもずっとのんびりしてきたような気がして―」。第一の人生すら「まともに送っていない」気持ちになるらしい。人生の乗換駅を自分で見つけるのはなかなか難しいようだ。ところで今後の日本では、高橋さんのような自営の人が定年をうらやむ必要はなくなるかもしれない

 ▼政府が企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げることを検討しているのだ。現行法と同様、定年引き上げか再雇用、または定年制廃止いずれかで対応しなければならない。現在の平均寿命は男性81歳、女性87歳だから、少なくとも男性は文字通り生涯現役となろう。どうやら「しばらくのんびり」したり「第二の人生」に踏み出したりする暇はなくなりそうだ。もちろん希望者のみの話で長く働きたくない人はいつ辞めても構わない。企業に70歳まで働ける環境を整えさせるのが法の趣旨である。年金受給年齢も変わらない

 ▼ただ、これからは特に生活のため働かざるを得ない人が増えるのでないか。以前読んだサラリーマン川柳(第一生命)を思い出す。「定年の朝にようやくねぎらわれ」出雲の与太郎。寂しさがない替わりに解放感もねぎらいも遠のくかも。


いじめ41万件

2018年10月29日 07時00分

 若いころ小学校の先生をしていた絵本作家の安野光雅さんは最近の子どもを見て、「はだかで現実にぶつかることが少ないのでは」と心配しているそうだ。ことし出したエッセー『かんがえる子ども』(福音館)に記していた

 ▼「いろんなことにぶつかり、子どもなりの葛藤を経験し、やがてそれを免疫にしながら大きくなっていく」経験が不可欠だというのである。大人がそんな場を奪っていると感じているらしい。いじめもそう。子ども社会ではあって当たり前とし、大人が「みんなで相談して理想的な、平和の園を作ろう」としている方が問題と指摘している。もちろん程度はあり、無理して学校に行く必要はないとも強調していた

 ▼小中高校の2017年度いじめ件数が過去最高の41万件に上ったという。文科省が25日、調査結果を発表した。数が増えたのは同省が報告範囲を広げたせいもあるが、学校はいじめなどない「平和の園」だとの幻想から学校当局が脱しつつあることを示してもいるのでないか。学校関係者はこれまでいじめを異常な事態とし、自分の学校でだけは起きないものと考えたがってきた。それが結果として子どもへの圧力となり、陰湿化やSNSいじめを後押しする状況を生んだのである

 ▼労働災害もそうだが、人はヒューマンエラーを起こすものと認めることなしに有効な解決策は得られない。いじめも同じ。調査結果の通りどこにでもあるものとまず認め、その上で子どもが今後の人生を強く生きられるよう「免疫」をつけさせるのが大人の役目だろう。経験を奪うのでなく。


野蒜防災集団移転

2018年10月26日 07時00分

 先週の月曜日、東日本大震災被災地最大級の防災集団移転事業といわれる「宮城県東松島市野蒜ケ丘」の新しい街を見てきた。ことし2回目の東北・みやぎ復興マラソンに参加した翌日、足を伸ばしてみたのである

 ▼街開きはちょうど1年前の去年10月。きれいに区画された宅地に真新しい住宅が並ぶ。住民間に断絶が生じないよう塀を設けないルールがあるそうで、だからだろう全体に風通しの良い雰囲気を感じた。今は戸建てと災害復興住宅合わせて448戸に約1000人が暮らしている。高台移転としてはかなりうまくいった例という。案内してくれた仙台の友人に聞くと、移転事業が頓挫するニュースも地元では度々伝えられているとのこと。時間がかかればかかるほど人の心は離れ別の地に流れていくらしい

 ▼野蒜地区が成功した要因は速さだった。91haの敷地を造成するための土砂排出にベルトコンベヤーを使ったのである。一般的なダンプを使う工法なら数年かかる工事を10カ月で終わらせたのだ。安倍首相はおととい、臨時国会冒頭の所信表明演説で国土強靱(きょうじん)化について「対策を年内に取りまとめ、3年間集中で実施する」と述べた。「誰もが安心して暮らすことができる故郷を創り上げ」るのが目的という

 ▼ことしは本道も大地震に見舞われ甚大な被害が出た。全国では気象災害が頻発している。南海トラフ地震への備えも怠るわけにはいかない。それらの現実も知った上での所信表明だったろう。復興のためには事業費だけでなくスピードも大切。野蒜の教えを生かしたい。


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