作家の塩野七生さんは古代ローマ研究を通じて長年にわたり、現代の社会や経済、政治のあり方を問い続けてきた人である。その塩野さんが安倍政権が再出発した2013年の『文藝春秋』にこんな論考を寄せていた
▼当初3年が正念場とのマスコミの主張に対し、「三年なんてケチなことは言わず、十年先まで視野に入れてはどうだろう」「この十年で浮上に成功すれば、その後は苦労なく安定飛行に移行できる」。さすがに古代ローマの栄枯盛衰を読み解いてきた塩野さん。「『政治』が『政治力』になる」にはそれくらい時間をかけねば難しいと判断していたらしい。やはり先見の明があったというべきか
▼自民党総裁選を無事乗り切った安倍首相の改造内閣がきのう、発足した。任期が21年9月のため10年間とはいかないが、政治が政治力に変わるくらいには十分長い政権になりそうだ。とはいえ日本は今まだ再浮上の途中。改造内閣にはお飾りでなく、仕事のできる実力者が求められる。顔ぶれはどうか。安倍内閣として最多12人の初入閣で派閥への配慮と清新さを演出したようだが、首相の意図は留任大臣から垣間見える。麻生副総理兼財務、河野外務、世耕経産、石井国交、菅官房、茂木経済再生
▼経済と外交を重視した前内閣の骨格維持が狙いだろう。次期参院選、消費税、憲法改正など難題を控え今回は波風立てずといったところか。ただ新任大臣が踊り場気分に飲まれてはいけない。自らの見識と政権の政治力を生かし大胆に施策を実行するのでなければ日本の安定飛行は夢のまた夢になる。