コラム「透視図」

高校入試合否

2016年03月17日 09時20分

 ▼iPS細胞開発で2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥京都大教授の好きな言葉の一つに、「人間万事塞翁が馬」があるという。『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(講談社)に教えられた。生きていく中で、ある時点の幸、不幸がその先どんな結果を招くかは予測できない、と伝える故事である。これまでそう考えざるを得ない出来事ばかりの人生だったそうだ。

 ▼大学を卒業し、設備の整った国立大阪病院に勤務できたことを喜んだのもつかの間、その幸せはすぐ打ち砕かれたという。ひどく怖い指導医に当たり、「ジャマナカ」と呼ばれ邪険にされ続けたそうだ。意地の悪い人はどこにでもいるものである。その後、医師には治せない多くの患者を見て挫折を味わい、ついには臨床医になる夢も諦めた。ところが立ちはだかるその壁が、研究者としての新たな道を用意したというのだから人生は面白い。まさに、「人間万事塞翁が馬」であろう。

 ▼山中教授ばかりではない。望み通りになることもあれば、うまくいかないこともある。きのうは悲喜こもごもだったろう。道立と札幌市立の高校入試結果が16日、一斉に発表された。受験した生徒とその親らは発表日まで気が気でなかったに違いない。合格した人には、「おめでとう」。一方で不合格になり志望校でない学校に行く人には「君の可能性はこんなことで少しも失われたりしない」と言おう。悪いことばかりは続かない。未来は誰にも予測できないのだ。山中教授にさえ。


開業まで10日

2016年03月16日 09時50分

 ▼小学生の時分、遠足が近づくと、わくわくして布団に入ってもすぐに寝付けなかった。そんな人、多いのではないか。『こどもの詩』(文春新書)にこんな一編があった。「きょうは/えん足の/まえの日です/わたしは/うれしくて/たまらなくて/べんきょうを/わすれるぐらいに/はしゃぎました」(佐藤聡莉・小2)。わが家の子どもたちも同じだったから、今も昔も変わらないことであるらしい。

 ▼お母さんに持たせてもらう弁当、その日のためのおやつ、友達との遊び。考えるだけで楽しみが膨らんだ。子どもにとっては日常を離れて小さな旅に出る特別な日である。さて、こちらの旅関係者は、もうすぐ迎える特別な日をどんな思いで待っているのか。今月26日の北海道新幹線開業まであと10日と迫った。乗客はわくわくしていようが、JR北海道や沿線自治体などはそれだけであるまい。緊張感が高まってもいよう。トラブルはないか、円滑に運行できるか、当日の天候は…。

 ▼3月に入り、テレビで特別番組を見る機会が増えた。スーパーにはPR商品が並び、開業ムードを盛り上げている。及ばずながら筆者も、H5系車両が描かれた缶ビールを飲んで一役買っている、つもり。萩原朔太郎の詩「旅上」の一節を思い出す。「汽車が山道をゆくとき/みづいろの窓によりかかりて/われひとりうれしきことをおもはむ」(新潮文庫)。最も大切にすべきは乗客だろう。その思いに応えるためにも、特別な日に混乱などないよう準備万端怠りなし、と願いたい。


アルファ碁

2016年03月15日 08時50分

 ▼意志を持った機械的存在という概念は人類の想像力と同じくらい古くからあった―。SF作家アイザック・アシモフはエッセイ「ロボット年代記」(『ゴールド』ハヤカワ文庫)の中でそう指摘している。アシモフによると紀元前8世紀頃に活躍した詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』に、神が黄金で「頭の中に感覚を備え、話すことも筋肉を使うことも」できる少女そっくりの助手を作る話があるそうだ。

 ▼人類の変わらぬ夢に翼を与えるのは昔であれば神の力だったが、現代はコンピューターなのだとアシモフは言う。彼が存命で、この話を聞いたらきっと「当然のこと」と驚きもしないのではないか。英グーグル・ディープマインド社が開発した囲碁の人工知能「アルファ碁」が世界のトップ棋士を破った出来事のことである。囲碁で人工知能が人間に勝つのはまだまだ先と予測されていただけに、衝撃を受けた人も多かったようだ。13日までに、人工知能が3勝1敗と勝ち越している。

 ▼この急速な人工知能の発達は「ディープ・ラーニング(深層学習)」という新たな手法によるものらしい。膨大な対局記録を読み込み、勝ちにつながる展開を記憶、学習していくプログラムだそう。医療にも活用が期待されるようだ。ただ人工知能の能力が飛躍的に上がると、SF好きとしては「昔々は神だったけれど、今は全て人工知能に支配されてしまった」と人間が嘆く暗い未来をつい想像してしまう。もっとも、白と黒、どちらが優勢になるかは人間の知恵次第なのだろうが。


福島風評被害

2016年03月12日 09時30分

 ▼平安期の歌人大納言公任に、「滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ」(『拾遺集』)の歌がある。百人一首にも選ばれているからご存じの方も多いだろう。滝の音が聞こえなくなって随分たつのに、名声はいまだ消えずに語り継がれている、との感慨を三十一文字で表現した。公任は歌人としての志、後世にまで残る秀でた作品をものにしたいという思いを滝の音に重ねたらしい。

 ▼名声なら語り継がれてもいいが、消えてほしいのに残って困るものもある。福島県に対する風評被害もその一つ。消費者庁が10日公表した「食品中の放射性物質等に関する意識調査」(2016年2月)を見ても、福島産は危険との認識はまだ根強いようだ。例えば「放射性物質の含まれていない食品を買いたい」と回答した人で、福島産の購入をためらう人が16%近くいた。0%は無理としても、基準値以下の食品しか市場に出ない仕組みがある今、もっと小さい数字になっていい。

 ▼福島県で食品関連産業に携わる人々は、悔しさをかみしめているに違いない。福島第1原発が水素爆発してからきょうで5年。事故で苦しめられ、その上、風評被害である。産地間競争や輸入品との戦いもあるというのに、これでは復興も絵に描いた餅だろう。残念なことに、安全のためと称して危険をあおる一部メディアや識者も風評の固定に一役買っているようだ。モモ、ナシ、ズワイガニ。うまい物の産地としての名声がいつまでも語り継がれることこそ福島県にはふさわしい。


小泉地区移転

2016年03月11日 09時24分

 ▼東日本大震災からきょうで5年になる。最近、報道各社は相次いで復興に関する世論調査を発表したが、順調と考える人は少なかったようだ。基盤整備が進んだ半面、生活や心の復興は遅れているからだろう。ただ、着実に前進している例もある。気仙沼市の小泉地区がその一つだ。森傑北大教授と和田敦アトリエブンク常務が当初から携わっていたこともあり、本紙でも何度かその取り組みを伝えてきた。

 ▼昔から勝手口のお付き合いで助け合って暮らしてきたコミュニティーなのだそう。震災後すぐに「小泉地区の明日を考える会」を結成し、防災集団移転によるまちづくりを目指すことになったのは自然の流れだったようだ。ただしそこからの道のりは険しかった。移転場所はどこに、事業認可は、費用は、住民理解はと、次々に壁が立ちはだかったらしい。一見遠回りのようだが、住民たちはまちづくり講座やワークショップを繰り返すことで、一つ一つ合意形成をしていったという。

 ▼現在、移転先の高台に新しい住宅が立ち始めている。一般の宅地と違うのは、最初から「勝手口のお付き合い」を前提として配置計画を作っていること。それは地域の絆に重きを置く住民の意向に沿ったものだ。被災地では今、仮設や復興住宅での孤独死が増えていると聞く。コミュニティーと切り離されたことが大きな原因だろう。それは復興が行政のお仕着せだけで成功しないことを教えている。住民主導でまちづくりと同時に心の復興も進めてきた小泉地区に、学ぶことは多い。


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