その時すべきだったことをせずに後で悔やむ。誰にでも覚えがある経験ではないか。本道出身歌手中島みゆきさんの「ファイト!」(1983年)にもそんな光景を切り取った一節があった
▼2番の歌詞である。「私/本当は目撃したんです/昨日電車の駅/階段で/ころがり落ちた子供と/つきとばした女のうす笑い/私/驚いてしまって/助けもせず叫びもしなかった/ただ恐くて逃げました/私の敵は私です」。もとより目撃した女性に非があったわけではない。陰湿で危険な行為を間近にして何もできなかった自分がどうしても許せなかっただけ。責任感や倫理観と現実との間にずれが生じたゆえの苦しみである
▼さて、ではこの人は今どう思うのか。高橋はるみ北海道知事のことである。先週の道議会定例会で胆振東部地震に端を発するブラックアウトについて問われ、「北電の責任は極めて重い」と批判する一方、道の責任には一切触れなかった。自らの行いと答弁に少しのずれもなかったのだろうか。電力インフラを担う北電に矛先が向くのはやむを得まい。ただ多くの道民はこんな事態になる前に冗長性のない本道の電力事情改善のため、知事がリーダーシップを発揮すべきだったとのいら立ちも感じている。生活や産業、殊に観光にこれだけ被害が出ていることを考えればそれも当然だろう
▼先の歌はこう続く。「ファイト! 冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ」。ここは正念場だ。知事には冷たい水の中に飛び込もうとも恐れず、電力の安定供給のため突き進む覚悟を期待したい。