コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 223

高橋知事の責任

2018年09月26日 07時00分

 その時すべきだったことをせずに後で悔やむ。誰にでも覚えがある経験ではないか。本道出身歌手中島みゆきさんの「ファイト!」(1983年)にもそんな光景を切り取った一節があった

 ▼2番の歌詞である。「私/本当は目撃したんです/昨日電車の駅/階段で/ころがり落ちた子供と/つきとばした女のうす笑い/私/驚いてしまって/助けもせず叫びもしなかった/ただ恐くて逃げました/私の敵は私です」。もとより目撃した女性に非があったわけではない。陰湿で危険な行為を間近にして何もできなかった自分がどうしても許せなかっただけ。責任感や倫理観と現実との間にずれが生じたゆえの苦しみである

 ▼さて、ではこの人は今どう思うのか。高橋はるみ北海道知事のことである。先週の道議会定例会で胆振東部地震に端を発するブラックアウトについて問われ、「北電の責任は極めて重い」と批判する一方、道の責任には一切触れなかった。自らの行いと答弁に少しのずれもなかったのだろうか。電力インフラを担う北電に矛先が向くのはやむを得まい。ただ多くの道民はこんな事態になる前に冗長性のない本道の電力事情改善のため、知事がリーダーシップを発揮すべきだったとのいら立ちも感じている。生活や産業、殊に観光にこれだけ被害が出ていることを考えればそれも当然だろう

 ▼先の歌はこう続く。「ファイト! 冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ」。ここは正念場だ。知事には冷たい水の中に飛び込もうとも恐れず、電力の安定供給のため突き進む覚悟を期待したい。


1年15番勝負

2018年09月25日 07時00分

 8場所連続休場していた稀勢の里が復帰し久々に3横綱そろい踏みとなった大相撲秋場所がおととい、大盛況のうちに幕を閉じた。ひいき力士の星取りに毎日、一喜一憂していた人も多いのでないか

 ▼ご存じの通り本場所は年6回、場所当たり15日間の日程で行われる。つまり15番勝負。奇数だから勝ち越しか負け越しかどちらかしかない。白黒半々だから上出来だなどとのんきなことは言っていられない世界である。相撲好きとして知られる作家の嵐山光三郎さんがこの15番勝負に着目して面白いエッセーを書いていた。75歳になるのを機に自分の人生を15番勝負に置き換えたのである。単純計算だが75を15で割り、5年間を一勝負と考えたそうだ

 ▼例えばこんな具合。「初日(0~五歳)勝ち。生まれてきたのだからとりあえず勝ちとする」「八日目(三十六~四十歳)負け。会社が経営危機となり、希望退職に応じて会社をやめて、浮浪者になった」。15日目途中での執筆だったが、8勝7敗の見込みという。では嵐山さんの着想をお借りし、人生でなく1年365日を15番勝負にするとどうなるか。1番当たり24・3日だから、千秋楽たる大みそかまで残り98日のきょうから12日目が始まることになる

 ▼相撲なら疲れが相当たまり、故障にも悩まされている頃合いだろう。勝ち越せるか負け越しになるかも大方の見当がついているはず。さて皆さんの2018年場所はいかがだろうか。泣いても笑ってもあと4日。これまでが振るわなくとも残り4番は全勝して、来場所に向け勢いをつけたいものである。


総裁選終わる

2018年09月21日 07時00分

 子煩悩としてもよく知られる奈良時代の代表的歌人山上憶良は数奇な人生を歩んだ人である

 ▼日本史の教えるところによると、702年に遣唐使として儒教や仏教を学ぶため唐に渡ったものの、則天武后を巡る周王朝の争乱や朝鮮半島統一の激動のただ中に放り込まれ志半ばで帰国。726年には筑前守として大宰府に赴任したが、官の役人にもかかわらず重税に苦しむ庶民に同情を深め苦境を描く歌を発表し続けた。過酷な状況で生きる人々を見て黙っていられなかったらしい。とはいえ社会を変えられない自分に内心じくじたる思いもあったのだろう。こんな歌を残している。「士をや空しかるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして」。男が世に名を残すこともせずにどうして死ねるか、というのである

 ▼自民党総裁選に安倍晋三首相(党総裁)の対立候補として出馬した石破茂元幹事長も、そんなやむにやまれぬ熱情に突き動かされたのかもしれない。きのう投開票が行われ、結果は安倍首相の圧勝だった。票数は首相の553票に対し石破氏が254票。倍も差がついたのだから石破氏も文句のつけようがあるまい。国内にも外交にも重い課題を幾つも抱える日本だけに、経験と実績のある首相に多くの支持が集まるのは自然の流れだった

 ▼石破氏も数奇な政治人生を歩んだ人で、社会を変えられない自分に内心じくじたる思いもあったに違いない。が、今回はいかんせん打ち出す政策が抽象的すぎた。ただ党員だけ見れば首相の得票は55%の224票。石破氏が名を残す機会も失われたわけではない。


ブラックアウト

2018年09月20日 07時00分

 胆振東部地震が招いた全道停電では多くの人が困難に直面した。唯一の救いは冬でなかったこと。積雪期であれば命にかかわる深刻な事態に発展していたに違いない

 ▼ツイッターを眺めていて、それに絡んだこんな投稿に目が止まった。「電気がなければ薪ストーブを使えばいい」「アウトドア精神あふれる土地柄だから寒さに耐えられる」。荒唐無稽な話だが、他の地域の知識など案外その程度のものかもしれない。倉本聰氏が『北の国から』で描いた自給自足の生活を、いまだに続けていると信じる人が全国にはまだいるのだろう。もちろんそんなわけはない。電気がなければ生活も産業もまひ状態に陥るのは本道もほかの地域と同じである

 ▼産業といえば先週の末、1週遅れで始まった「さっぽろオータムフェスト」に行ってきた。ところが例年のように中国語が飛び交ってはいず、欧米人もほとんど見掛けない。来道観光客が激減しているのである。会場は歩けないほどの大盛況なだけに不思議な気がした。全道各地の観光地では閑古鳥が鳴いているという。道のまとめによると15日現在で宿泊予約キャンセルは94万人分以上。飲食費や交通費も含めた観光損失額は292億円に上るそうだ

 ▼おととい発表された道内基準地価も「商業地が27年ぶりに上昇」と今のところ景気がいいものの、電力不安が広がればこうした投資も波が引くように消えていこう。冬の停電リスクは今後あらゆることに影を落とす。いまさら『北の国から』の暮らしには戻れない。道民は電力の安定確保について真剣に考えねば。


高齢者人口

2018年09月19日 07時00分

 こんな境地に至れたら素敵だろうなと思いながら読んだ詩である。作品名は「電車の窓の外は」。闘病中だった高見順が自らの死の近いことを知り、書いた詩だという

 ▼こんな一節が印象に残っている。「この世ともうお別れかと思うと 見なれた景色が 急に新鮮に見えてきた この世が 人間も自然も 幸福にみちみちている」。人生が終わりに近づいたとき、この詩人には世界ががらりと変わって見えたらしい。15日に75歳で亡くなった女優の樹木希林さんもかつて、この詩とよく似た心境を語っていた。乳がんが見つかってから数年後、2009年2月20日付の産経新聞インタビューで病気について聞かれ、こう答えていたのである

 ▼「がんはありがたい病気よ。周囲の相手が自分と真剣に向き合ってくれますから。ひょっとしたら、この人は来年はいないかもしれないと思ったら、その人との時間は大事でしょう」。残された時間の少なさが、見なれたものの本当の価値に気付かせてくれるというわけだ。この話題が気になったのは、日本の高齢化が急速に進行しているためである。総務省が敬老の日にちなんで発表した「我が国の高齢者」によると、総人口に占める65歳以上人口は28.1%と過去最高。70歳以上も初めて20%を超えた

 ▼物事の本当の価値を見極められる人がそれだけ大勢いらっしゃる、と言いたいところだが…。実際には歳をとっても誰もが高見さんや希林さんのような心の高みに到達できるわけではない。せめて文句ばかりの老人にならないよう筆者も今から肝に銘じておきたい。


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