コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 224

二つの塔

2018年09月18日 07時00分

 日本万国博覧会(大阪万博)を象徴する建造物といわれて、多くの人がまず思い浮かべるのは芸術家岡本太郎がデザインした「太陽の塔」だろう。頂部に未来、腹部に現在と二つの顔を持つ素人にはどうにも理解し難い造形の巨大な塔だが、不思議と強く印象に残る

 ▼この塔がことし3月、耐震改修や内部再生を施されて復活。往時の姿を取り戻した。1970年の完成だから、50年近く風雨に耐えていることになる。取り壊しの話もこれまで何度となくあった。それを乗り越えられたのは塔を大阪の宝物と考え、支え続けた多くの人がいたからである。岡本氏の造った体ではあるが、今は大阪の血が流れているといってもいい。幸せな塔ではないか

 ▼それをことさら強く感じたのは、最近、不幸な塔の話題に触れたからである。それは開道100年のシンボルとして建てられた北海道百年記念塔。老朽化で危険なため道が解体の方針を決めたそうだ。70年完成だから、くしくも太陽の塔と同い年ということになる。平面で雪の結晶、立面で未来への発展を表現した意匠は地元の井口健さんのもの。野幌森林公園の一角にそびえる高さ100mの塔は遠くからでもよく見える。今は腐食が進み立ち入り禁止だが、かつて展望室から雄大な景色を眺めた人も少なくないはず

 ▼跡地には新しいモニュメントが設置されるとはいうものの、思い出の場所がなくなるのは寂しい。太陽の塔との差は一体どこにあったのか。ことし北海道命名150年。それなりに盛り上がってはいる。また一過性の祭りに終わらねばいいが。


日ロ平和条約

2018年09月14日 07時00分

 ロシアには損得について教えるこんなことわざがあるそうだ。「カペイカがルーブルを守り、ルーブルが持ち主を守ってくれる」

 ▼カペイカはロシア通貨の最小単位。100カペイカが1ルーブルである。1ルーブルは今1・6円くらいだから1カペイカがどれだけ少額か分かろう。このことわざはそうしたごく小さいお金の出入りに気を配ることが結果として大きな財産をもたらし、豊かな暮らしにつながると説く。そのことわざ通り、小さなものをてこにして、何か大きな利益を得ようと狙っているのではないか。おととい、ロシアのプーチン大統領がいきなり、「年末までに条件を付けず日ロ平和条約を締結しよう」と提案したのである

 ▼北方領土に関しては口にしなかったが、それがかえって領土問題の存在を強く印象付けた。ロシアとすれば北方領土は極東の小さな島々にすぎない。プーチン大統領はここに多大な関心があるポーズをとることで、これまでも日本に対する交渉力を維持してきたのである。まさに「カペイカ(北方領土)がルーブル(ロシア)を守り」の図式だろう。提案はウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの席上、安倍首相はじめ各国首脳が顔をそろえた場で飛び出した。国際社会には平和もアピールできたわけで、したたかさは相変わらずだ

 ▼ただ、日本にとって北方領土はカペイカなどでなく大切な故郷。主権や国際道義を体現する重要な国土である。プーチン大統領に安道具として便利使いされてはたまらない。日本にとって北方領土は最初から値千金なのである。


地震から1週間

2018年09月13日 07時00分

 山口県で行方不明になっていた2歳の男児を発見した〝スーパーボランティア〟尾畠春夫さんの信念「明けない夜はない」の言葉を励みに夜明けを待っていた人もいたに違いない。胆振東部地震のことである

 ▼多くの人が無防備に眠っていた未明に発生したため、停電で明かりを失った道民は暗闇の中で恐怖に震えているしかなかった。きょうで1週間。いろいろな出来事が次々と起こったせいか時の流れが妙に速い。同じような感覚を持つ人も少なくないのでないか。余震も減ってきたため少し気が緩み、かえって疲れが出てきたという人もいよう。災害時にはそういったことが往々にしてあるそうだ。どうかあまり無理はなさらぬよう

 ▼とはいえ公共交通は点検を終え、安全が確認できた路線から順次運行を再開。地域や店舗によってかなりばらつきはあるがスーパーやコンビニにも商品が戻り始めた。きのう立ち寄ったスーパーには「米入荷しました」の張り紙があり、何だかほっとした気持ちにさせられた。停電も節電が前提だが、休止していた火力や水力発電の再稼働でひとまず解消している。そんな中、10日の道議会で北電の姿勢を問う意見が出たのには違和感もあった。政策に踊らされる電力システムである。安定のためには道議会も率先して力を発揮してほしいものだ

 ▼発災以降、インフラを担う機関、団体、企業は昼夜分かたず走り回り、今後長く続く復興の基盤を整えてくれている。何もせずにいれば明けない夜を、身を粉にして明けさせようとする人々のいることを忘れないようにしたい。


自民党総裁選

2018年09月12日 07時00分

 天下分け目の決戦と聞いてまず思い浮かぶのは、関ヶ原の戦いでないか。政権奪取を目指す徳川家康の東軍と、それをはねのけたい豊臣側の石田三成ら西軍が雌雄を決した合戦である

 ▼結果はご存じの通り。ただ始まる前は三成優位の評も多かったという。その流れが変わったのには幾つか理由があった。一つは後ろ盾となっていた豊臣家が弱気に転じたこと、もう一つは信頼していた味方が敵に寝返ったことである。家康の勢いに恐れをなしてといった側面ももちろんあるが、それだけではなかったらしい。家康は豊臣家臣団が内部で路線対立を起こしていると知り、説得や工作によって仲間割れを誘ったのである。つまり決戦の前から勝負の行方は大方決まっていたわけ

 ▼こちらの一騎打ちがいまひとつ盛り上がらないのも似た事情があるためかもしれない。安倍晋三首相(党総裁)と石破茂元幹事長の候補者二人による自民党総裁選のことである。20日投開票の前から万歳をするのがどちらかは既に明らかだ。麻生派など多くの派閥が告示前に安倍支持を表明。石破氏で固まるはずだった竹下派は内部で意見が割れ自主投票を余儀なくされた。説得や工作もあったようだが、ここは首相の勢いに乗っておくのが得策との判断だろう

 ▼両氏は共に経済重視で改憲論者。地方や中小零細への目配りも厚い。政治姿勢にさほどの違いはないのである。10日の論戦も低調だった。となると…。徳川300年とはいかないが安倍政権も長い。大丈夫とは思うがどうか緩みが出ませんように。おっと戦はまだ序盤だった。


厚真町の土砂崩れ

2018年09月11日 07時00分

 宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」はよくご存じだろう。こんな一節で始まる。「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ嗔(イカ)ラズ イツモシズカニワラッテヰル」

 ▼今回の地震により引き起こされた厚真町の土砂崩れではこの詩に描かれているような、ふるさとのために一生懸命働き、人々に愛され、静かに生活を営んでいた多くの方々が犠牲になった。友人や親族らが、亡くなった方々の人となりを語っているのを報道で見て知ったことである。暗闇の中、土砂は強い揺れと同時に家屋を襲ったに違いない。彼らには何が起こったかも分からなかっただろう。平穏な暮らし、尊い命を一瞬にして奪われた無念はいかばかりか

 ▼きのう、最後まで安否不明だった幌内地区の男性が見つかり、間もなく死亡が確認された。これで土砂崩れによる死者は36人。36人とは…。耳を疑う人数である。この未曽有の大災害の前ではどんなお悔やみの言葉も空しい。停電で情報が乏しかったため、道民がこの惨状に目を向けられたのはほとんど数日たってからのはず。そんな中でも自衛隊はじめ消防、警察らは直後から昼夜の別なく必死の救助活動を続けていたそうだ。生存者こそいなかったが、ほぼ3日で全員を見つけ出した彼らの使命感には本当に頭が下がる

 ▼地震は最悪の時間を選び、集落背後の弱い地質を狙い打ちした。悪い条件が幾つも重なったわけだ。住居の立地や対策など今後考えるべき点もあろう。ただ、今はまず何より犠牲者の死を悼みたい。


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